レコード芸術1974年3月号 7 | geezenstacの森

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レコード芸術

1974年3月号 

7

 

 マリア・ジョアオ・ピリスの最初のモーツァルトは日本コロムビアが録音しました。日本へは塩川悠子のリサイタルの相棒として来日したのですが、注目はこのピリスに集まってしまいました。そのピリスが日本コロムビアプロデューサーの目に留まり、1974年の1月11日から2月の22日までイイノホールで集中してモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲を録音したときのスナップです。写真は1月31日に撮られたもので、レコード芸術のこの3月号は2月20日ごろの発売ですからまさに同時進行で行われていたセッションでもあります。マイクは3本、このレコ芸が発売されたときはここまで注目を集めるレコーディングだとは誰もが思わなかったのではないでしょうか。もちろん収録はPCM方式で行われています。全世界で最初にデジタルで録音されたモーツァルトのピアノソナタ全集でもあったわけです。

 

 当時30歳を迎える直前だった彼女は、ショートカットで、「フィガロの結婚」に出てくるケルビーノみたいなボーイッシュな容姿。彼女が、セーターとジーンズというシンプルないで立ちで、ピアノに向かう姿が写されていますが、その表情は物思いに沈んでいて、哀しげな目をしています。ピリスのモーツァルトは好きなピアニストととしてこのブログでも取り上げていますが、このモーツァルトはスタインウェイを弾きながら全体に、強弱も、表現も、振れ幅は控えめ。予め自らが決めたエリアの中では精一杯動き回るけれど、そこから敢えて歩み出ることはしない。ただ自分の近くにいる僅かな人に言葉が伝われば良いとばかり、内向きでポエティックな呟きを小声で紡ぎだしています。

 

 このアルバムは海外でも発売され、1977年のフランスADFディスク大賞、1980年のオランダのエディソン賞を受賞するなど高い評価を受けました。当時はまだ無名だった若いピアニストの国際的なキャリアは、ここから始まったと言っても過言ではありません。

 

 

 ピアニスト、レフ・オボーリンを知っている人は60代以上に人でしょうなぁ。カラヤンのトリプルコンチェルトが出るまではこのおボーリンも参画していたオイストラフ・トリオがサージェント/フィルハーモニアと残した録音がほとんど唯一のステレオ盤として流通していました。1960年代はほとんど録音に恵まれなかったので、小生も名前だけは承知していましたが、66歳の若さでこの時亡くなっていたとは知りませんでした。言えばアシュケナージは彼の門下生ですし、ペーター・レーゼル、日本人の野島稔もオボーリンに教えられています。

 

 

 この3月号は、広告を打ち出していないレコード会社もありました。ハルモニアムンディを有していたテイチクです。 他にも単発でリリースしていたタクトレコードなんかも広告を取りやめていました。まぁテイチクなんか、そもそもクラシックのウェイトが高くありませんでしたから、現材料は歌謡曲やポップスのほうに回すのが優先だったのでしょう。家トリオレコードが2ページと広告を売っていました。当時はシャルランレーベルを有していましたので、そのレーベルの新譜を発売していました。シャルランと言うレベルはワンポイントマイクで録音するの特徴としていました。最もこの時は、オリオンレーベルの録音も発売していました。ただ、個人的にはここでフルートを吹いているマリオ・デュシェーヌなんて全く知りませんでした。それにしても、オーレル・ニコレといい、フルーティストのレコードを、こんなにまとめて発売していたとは知りませんでした。

 

 

 

 

 さて、最後に登場するのは東芝EMIです。多分この月一番大量の広告を打っていたのがこのレーベルです。ただ、当時は同芝EMIはあまり録音が良いものがなかったイメージがあるので、あまりじっくりと広告を見た記憶がありません。トップに挙がっているアンドレ・プレヴィンの「ロミオとジュリエット」なんて、こんな録音があったとは知らなかったほどです。限られた原材料でレコードを製造していますから、優先されるのは、やはり来日アーティストのアルバムだったのでしょう。ここでもチェリストのポールトルトゥリエが来日すると言うことで、2ページ目には彼の既出のアルバムですが、広告を打っています。

 

 

 それにしても、この時期バレンボイムが既にパリ管弦楽団デビューしているともこちらも知りませんでした。ここでは、彼が弾き振りをしているイギリス室内管弦楽団とのモーツァルトのピアノ協奏曲シリーズがメインになっていますが、こんな録音があったんですなぁ。その下には、ダンヒル・ウェストミンスターレーベルから、ハセリリ四重奏団のモーツァルトの弦楽四重奏曲全集が発売されています。何度もレコード会社を変えながら、この名盤は発売され続けていたようです。

 

 

 そして、SP時代には、大量のカルスの録音を残していた老舗ですから、EMIからカザルスの偉大な遺産と言うシリーズが発売されました。前年にカザルスが亡くなっていますから、急遽まとめられた企画でしょう。そのため予約販売の形をとっています。ただこの時期ザルスのアルバムで1番売れたのは、「鳥の歌」を含む国連本部でのライブ録音盤で、それはソニーから発売されたものでした。

 

 

 

 今回東芝EMIの広告を見ていて、1番びっくりしたのは輸入盤と言う形ですが、フルトヴングラーのアルバムが大量に直輸入されていたことです。出せば売れると言うフルトヴングラーのアルバムでしたから、ここではドイツ・エレクトローラ、フランス・パテマルコニ、そして本家EMIのアルバムが集められて大挙して発売されています。多分今月のレコードの中では他を差し置いて、これが一番売れたのではないでしょうか。