さよならドビュッシー | geezenstacの森

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さよならドビュッシー

 

著者/中山七里

出版宝島社 宝島社文庫

 

 

 ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。第8回『このミス』大賞受賞作品。---データベース---

 

 最近、読み漁っている中山七里氏のデビュー作てす。ただ、キーパーソンとなる岬洋介シリーズでいうところでは第2作になります。第1作は「どこかでベートーヴェン」ですから、こちらから読むことをお勧めします。

 

 前半の不幸の連続です。スマトラ島沖地震で両親を失ったルシアは従姉妹の遥の家の養女となります。ここで登場する「スマトラ島沖地震」は、2004年12月26日、インドネシア西部時間7時58分53秒(UTC0時58分)インドネシア西部、スマトラ島北西沖のインド洋で発生したマグニチュード9.1-9.3の地震で死者・行方不明者は死亡者は13万1,029人、負傷者は最大で10万人、行方不明者は3万7,603人に及んでいます。地震が発生した時期は、年末やクリスマス休暇のシーズンだったため、犠牲者には日本や欧米諸国などからの観光客も多数含まれていました。


 そして祖父とルシアと遥は火事に遭い、ひとり生き残った遥は全身大火傷の重傷を負うことになります。祖父が資産家だったこともあり、遺産相続で一悶着があり、次々と不可解な出来事が起こっていきます。 ピアニストを目指す遥のリハビリ、コンクールに向けてのレッスン、指導してくれるのは世界的に有名なピアニスト岬洋介ということでいやが上でも音楽ミステリーの形になって行きます。先にあげたベートヴェンでもそうですが、音楽に対する分析が秀逸で、この作品に対するアナリーゼ読むだけで曲を理解する参考になるというもんです。作者の音楽に関する圧倒的な知識量。演奏技術だけじゃなく、作曲家の生い立ちから時代背景まで。物語の至る所で音楽が聞こえます。レコードやCDの解説する音楽評論家ならこれぐらいのこと解説するなら日本盤のCDを買ってもいい気になります。

 

 小説は中盤か遥がコンクールに応募するという展開になります。このコンクール描写はまさに圧巻で、1日で読み切ってしまうほどの熱と勢いが渦巻く洪水の如き小説になっています。また、これに先立つ岬の福祉協会の主催するコンサートでのベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の演奏は、この小説の中で彼の実力のほどを知らしめるいい機会になっています。まだね舞台は名古屋でイン会していくというのも個人的に気に入っているところです。岬洋介のコンサートは実在の愛知芸術劇場コンサートホールで開催されていますし、コンクールは三井白川ホールが舞台になっています。そして、岬が非常勤講師をしているのは名古屋市内の音大という設定です。そして、香月家の住まいは本山の先の荒梛神社の上の閑静な住宅地です。ただしこんな神社は実在しません。

 

 この小説、「このミステリーがすごい!大賞」を受賞しているミステリー作品で、ただの音楽小説ではありません。

 

 コンクールに行き着くまでにいろんな事件が発生します。岬洋介はピアニストですが、司法試験に合格している逸材です。彼の父親は名の知れた検事で、彼の名前は警察でも知れ渡っています。そのため、事件は彼の足元で起こっていることから推理だけで彼はこの事件を解いて行きます。コンクールでの遥の成績はこういうシンデレラストーリーですから出来出来です。そして、事件の方もコンクールと並行しながら最後に大きなどんでん返しが待っています。

 

 小性も推理小説はかなり読んでいる方ですが、スポ根音楽小説と捉えていたのでこの結末にはびっくりです。読んでいると気がつきますが、音楽を目指す大勢の若者には現実を突きつけます。その一言一言も名言だらけだし、音楽を描く筆力も抜群。ピアニスト探偵のキャラも立っています。そういう意味でこの作品は受賞にふさわしい文句なしの傑作でしょう。

 

 そして、この小説はやはり音楽があったほうがより深く鑑賞できるでしょう。下のリンクはこの小説に登場する曲を網羅しています。これを聴きながらこの小説を読むことをお勧めします。