ストコフスキー序曲集
曲目/
1.ベートーヴェン/レオノーレ序曲第3番
2.シューベルト/ロザムンデ序曲
3.ベルリオーズ/ローマの謝肉祭
4.モーツァルト/ドン・ジヨヴァンニ
5.ロッシーニ/ウィリアム・テル序曲
チェロ – Francisco Gabarro 5
コール・アングレ– Michael Winfield 5
フルート– William Bennett 5
ヴァイオリン/シドニー・サックス
指揮/レオポルド・ストコフスキー
演奏/ナショナルフィルハーモニー管弦楽団
録音/1976/03 ウェストハム・セントラル・ミッション
P:アンソニー・ホッジソン
E:レイ・プリケット
PYE NIXA PCNHX 6
こちらも先に紹介している「stokowski spectacular」と同じ時期に英パイレコードから発売されたものです。レコードとして発売された時はすでに4チャンネル仕様でクォドラフォニック盤として発売されましたが、テイチクから発売されたULX6262番がどういう仕様であったかは確認できませんでした。というのもテイチクは分類上ではCD-4方式で4チャンネルレコードを発売していたグループに属していたので違う方式で発売していたとは思われないからです。
さて、この録音は1976年になされています。ストコフスキーが亡くなったのは1977年9月13日ですから最晩年の録音ということになります。しかも、ストコフスキーとしては初めての録音というおまけ付きのものです。まあ、コンサートでは度々取り上げていたようで1968年のリハーサルの様子が映像で残っています。ここで演奏しているの彼が創設したアメリカ交響楽団ですが、その下手さ加減に結構激怒しながら指揮しています。
そして、下はこのレコードでの演奏です。
ストコフスキーとしてはかなり遅いテンポでじっくりとこの曲に対峙していることがわかります。また、4チャンネル録音の特性としてかなり残響音が豊かに取り入れられているのがわかります。
次のロザムンデ序曲もステレオでは唯一の録音です。スケール感のある演奏で、序奏から思い入れたっぷりにオケを鳴らします。主部に入るとテンポをあげて快調に飛ばしていきます。往年の大指揮者は年とともにテンポは遅くなりがちですが、永遠の青年指揮者ストコフスキーはそんな翳りは少しもありません。このストコフスキーの演奏でこの曲が、交響曲第9番の「グレート」に匹敵する規模の曲のように思えてきました。それはコーダに近い部分で現れ2度繰り返されるトランペットの旋律が第1楽章を思い起こさせるのです。シューベルトの魅力を再発見させてくれた演奏です。
「ローマの謝肉祭」序曲はアルバム最後を飾るに相応しい曲で、ストコフスキーマジックが聴ける演奏です。ベルリオーズの派手なオーケストレーションはストコフスキーの手に掛かると見事に息を吹き返すような印象があります。ここでも、金管をバリバリ鳴らしながら独自のバランスのサウンドを披露してくれています。これも意外にもステレオ初録音なんです。
モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の序曲は68年のライブがありますがスタジオ録音としては初の録音ということになります。近代フルオーケストラによる録音ということですが、ここではオペラの序曲というよりは一つのオーケストラ作品として演奏しています。ここではやや遅めのテンポでおどろおどろしさを強調したような仕上がりになっています。
「ウィリアム・テル」序曲も初録音になる曲目です。この曲は奇しくも同じオーケストラを振ってシャイーがデッカに録音していますので、それと比較すると面白いのですが、シャイーの演奏時間は11:54です。約1分の時間差があります。多分シャイーは、通常のテンポで演奏していると思います。録音はデジタルで81年ですから独奏者も同一とはいえない部分がありますが、全く印象が異なります。まず、デッカにしては音がおとなしくデッカらしさを感じさせないのと、オペラ指揮者としてのシャイーは安定感のある演奏ですが面白さにはやや欠けるものです。それに対して、ストコフスキーの演奏は全体にテンポは速いのですが「夜明け」の四重奏の部分は思い入れたっぶりのテンポで続く嵐の部分とは好対照を見せています。嵐は超特急という感じでより的確に嵐のすざまじさを表現しています。トロンボーンが必死について行く様が目に浮かびます。どう見てもきっちり吹ききっているとは思えませんがこの早さではしょうがないのかな。
この録音はデッカのフェイズ4の様な録り方で、各楽器の音がクローズアップされています。「牧歌」の部分はそれが顕著に聴き取れます。そしてトランペットのファンファーレで始まる、有名な「スイス独立軍の行進」はめちゃくちゃ盛り上がります。シャイーなんかはで聴くとシンバルは単なる隠し味的な鳴らし方なのですが、ストコフスキーはシンバルをむちゃくちゃ活躍させています。そして。例によって、ここでもティパニも派手に鳴らしてくれるので思わず身を乗り出して聴き入ってしまいます。これもマルチマイク録音の成せる技なんでしょうね。
このCDを聴くとほんとにスカッとさわやかな気分に浸れます。でも、あくまでストコフスキーを聴くためのアルバムですから、お間違え無く。ただ、この形での発売は現在では無いようでストリーミングだけで流通しているようです。ストリーミングでは倍の10曲も収録されていますからお得といえばお得なんでしょうなぁ。