4チャンネル・ステレオへの挑戦-イノック・ライト | geezenstacの森

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PERMISSIVE POLYPHONICS

イノック・ライト

 

曲目/

1.マラケッシュ急行   3:12

2.レット・イット・ビー   3:54

3.イージーカム・イージー・ゴー    3:12

4.パペット・マン    2:58

5.恋人たちへのプレリュード    2:24

6.思い出の日々    2:37

7.マシュ・ケ・ナダ    3:22

8.マンディ・マンディ    3:38

9.ドック・オブ・ザ・ベイ    3:20

10.スカボロー・フェア   2:33

11.ミシェル    3:07

12.Pass And I Call You    3:57

 

指揮/イノック・ライト

演奏/ライト・ブリゲイト

 

編曲/ディック・ハイマン、ディック・レイブ

EP:イノック・ライト

P:Jeff Hest, Tony Mottola

E:Donald Hahn

録音/1970

 

キング 4R-4(オリジナル-プロジェクト3)

 

 

 日本において最初のマトリックス方式4チャンネルステレオとなる技術を発表したのは「山水電気」でした。いわゆるマトリックス4チャンネルといわれるもので、QS方式として1970年に発表されました。当時はこの技術をひっさげてFM放送でも、『サンスイ4チャンネル・ゴールデンステージ』という番組が放送されていました。完全分離型のCD-4は日本ビクターが開発して破棄を争っていました。ところが、そのうちにCBSがQSをひっくり返したSQ方式なるマトリックス方式を発売したあたりで企画が混乱し、レコード業界は3つどもえの混戦状況になります。

 

 そんな状況で、キングレコードは動向を静観していた中、満を持して1971年にフルコンパーチブル・マトリックス・システムと銘打って4チャンネル戦線に参入します。第1回の発売は1971年11月5日で、引き続き12月10日に第2弾を投入します。その中心がこのいノック・ライトだったのです。本来ならロンドンレーベルのデッカあたりが先陣を切るのでしょうが、デッカは慎重だったんでしょうなぁ。かろうじてベルリオーズのレクイエムを発売したのみです。ただし、リストには演奏者の名前がありません。1970年ごろにデッカにベルリオーズのレクイエムなんてあったのかな?

 

 さて、入手したレコードはジャケットとこそ市販品と同じですが、中身のレコードは試聴盤になっています。

 

 

 さて、本題のイノック・ライトです。このアルバムは日本版だけジャケットが違います。本来のジャケットは下記のデザインでした。

 

 

 左上にクアドラフォニックトとだけ表示があります。曲目の配置は各国同じになっていてA面のトップはマラケッシュ急行です。この曲はCrosy, Stills & Nashのオリジナルで、クロスビー、スティルス&ナッシュの69年のデビュー・アルバムに含まれていました。どこまでも先鋭的なスティーヴン・スティルス、独特の叙情的な世界観を表現していたデヴィッド・クロスビーに対し、グラハム・ナッシュの作る曲はポップでメロディアス。そんなナッシュらしさが存分に発揮されたこの「マラケッシュ行急行」は、当時“スーパー・グループ”と呼ばれ、大きな期待とともにシーンに登場した彼らのデビュー・シングルとして69年に全米28位をマークしています。そんな当時のヒット曲をボーカルまで含めていノック・ライトは颯爽と指揮しています。ここではエレクトリック・シタールを前面に出したアレンジで軽快な響きを作っています。こんな演奏です。この曲のソロメンバーは以下のようになっています。

Alto Saxophone [Electric Alto Sax] – Arnie Lawrence

Bass – Julie Ruggiero*

Drums – Billy LaVorgna*

Sitar [Electric Sitar] – Vinnie Bell

 

 

 2曲目の「レット・イット・ビー」はなかなかソウルフルなアレンジで、珍しいことにピアノに絡めてすでにモーグ・シンセサイザーのサウンドを取り込んでいます。この曲では以下のクレジットがあり、この年発売されたミニモーグをいち早く取り入れ曲に厚みと響の自由度を増しています。

 

Piano – Derek Smith

Tenor Saxophone – Bob Tricarico

moog synthesizer – Dick Lieb

 

 

 この1970年前後はビートルズを筆頭に、フィフス・ディメンション、セルジオ・メンデス、サイモンとガーファングルなどが活躍した時代で小生の青春期とマッチングしていたての締めます。パペット・マンもそんなフィフスディメンションのヒット曲です。ここでのパーソルルは、

Alto Saxophone [Electric Alto Sax] – Arnie Lawrence

Guitar – Vinnie Bell

Organ – Dick Hyman

 

 

 マシュ・ケ・ナダも原曲を生かしたジャジーな編曲でなかなか聞かせてくれます。ここではバス・フルートのドン・アシュワースのソロが見事です。

 

 

 このアルバムの中で異色なのは「ミシェル」のアレン氏です。イントロだけ聴くと全くイメージがつかめません。ただし、メロディが始まるとなんと2本のフリューゲルホーンを使ったサウンドはまさにこの曲のイメージにぴったりでいノック・ライトの非凡さに感心します。

Flugelhorn – Bernie Glow, Mel Davis

 

 

 さて、最後に取り上げるのは最後の「Pass And I Call You」です。この曲は邦題のない曲でこのいノック・ライトしか録音していないのでオリジナルナンバーなのでしょうか。エレキギターで始まりますが、すぐにボーカルがバッハのオルガン曲のテーマを歌い始めます。バッハのパッサカリアハ短調BWV.582ですな。ポップジャズとクラシックの融合みたいな作品で、アルバムの最後を締めるのにふさわしい曲なような気がします。ディック・ハイマンがいい編曲をしています。

 

Guitar – Vinnie Bell

Organ – Dick Hyman

 

 

 当時のヒット曲を盛り込んだこのアルバム、今はエンコーダーが無いので2チャンネルでしか聴けないのが残念です。.