死の天使はドミノを倒す | geezenstacの森

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死の天使はドミノを倒す

 

著者 太田忠司

出版 文芸春秋社 文春文庫

 

 

 売れない作家の兄・鈴島陽一と、人権派弁護士の弟・薫。家族と絶縁し父親の葬儀にも顔を出さない弟に、陽一は腹立たしさを抑えられないが、やがて薫が失踪したことを知る。薫は自殺志願者に自死を唆す“死の天使”嶌崎律子の弁護を引き受けていた―。待ち受けるサプライズを、あなたは見抜けますか?---データベース---

 

 最近は太田忠司の本を集中的に読んでいます。名古屋出身の作家ということで愛着もあるのですが、その作風が多岐にわたっているところが魅力でもあります。分類上は推理小説作家というのがメインですが、ここではファンタジーの要素も取り入れられていて、途中まではその流れでストーリーが進んでいきます。

 

 この小説のカバー絵は作品で登場するオラース・ヴェルネ「死の天使」で架空のものではありません。ですから読み手としても実在感のある作品として迫ってきます。この作品の解説には次のように記されています。

""1人の女性が黒衣の天使によってベッドから抱き起され、今まさに天に召されようとしている。天使は1対の立派な翼を備えているが、フードを深くかぶっているためにその表情を見ることは出来ない。女性は天使とは対照的に白い衣をまとっている。死を目前にした女性の瞳はうつろで、肌は生気がすっかり失われており、右手の指は彼女がこれから向かうであろう天を指さし、もう一方の手の指は地を指している。彼女の頭上には、天から一筋の光が落ち、周囲を明るく照らし出している。ベッドのそばで祈りを捧げている男は彼女の夫ないし父親であろう。画面奥には家庭用の祭壇があり、その上に置かれた祈祷書とイコンが女性の信仰の篤さをうかがわせる。イコンに描かれているのは聖母マリアである。聖母の心が7本の剣によって貫かれていることから、《七つの悲しみの聖母》のイコンであると分かる。またイコンには小さなランプが灯されている。""

 

 本来はかなり以前に読んでいたのですが、昨今の自殺事件に鑑み、取り上げるのを延期していました。何しろ自殺志願者を救済すべき心のダイヤルの当事者が殺人幇助で逮捕されているという事件なのでタイミング的には最悪ですわな。

 

 ストーリーには色々な要素が伏線として登場します。売れない作家の兄と人権派弁護士の弟…。最初はこの二人の確執の話かと思ってたら、そこに絡んで出てくるのが「死の天使」です。そこにプラスされて、弟の行方不明、球体関節人形、居酒屋の女将、人権擁護派の弟を追いかける雑誌記者、そして自殺志願者を唆す女等、あやしい登場人物たちに翻弄されながら進んでいきます。

 

 学生時代からの言動からして、弟の薫は頭はよいがやや冷淡な性格ですが、犯罪加害者のために戦い世間から叩かれる"人権派弁護士"として活躍しています。父の葬儀にも姿を現さなかった弟が失踪していることを知り、兄は弟が最後に手がけていた事件を追い始めます。弟が弁護していたのは、自殺願望のある人々の最後の望みを叶える"死の天使"と呼ばれる女性、嶌崎律子でした。その彼女を雑誌記者の堀と追いかけていきます。登場人物が複雑に絡み合う展開は最初は冗長に感じられますが、作者の巧みな文章構成で飽きさせずに読み進められます。

 

 プロローグ、インターミッション、エピローグが挟み込まれ、知らないうちにエンディングのどんでん返しに突入します。そして、最後のリフレインでこのストーリーが完結していないことを提示し、その後の展開は読者に委ねられることになります。

 

 作家、太田忠司を知り尽くしているならなるほどねという展開です。自殺志願者でなければ読んでいて作家の世界にのめりこめます。

 

 

 こちらは単行本です。