エリアフ・インバルの幻想交響曲 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

エリアフ・インバルの幻想交響曲

 

曲目/

ベルリオーズ/幻想交響曲 OP.14a (ある芸術家の生涯におけるエピソード)

1.第1楽章「夢、情熱」 (Rêveries, Passions 15:55

2.第2楽章「舞踏会」 (Un bal)    6:34

3.第3楽章「野の風景」 (Scène aux champs)  17:00

4.第4楽章「断頭台への行進」 (Marche au supplice)   6:54

5.「魔女の夜宴の夢」 (Songe d'une nuit du Sabbat)  9:55

 

指揮/エリアフ・インバル

演奏/フランクフルト放送交響楽団

 

録音:1987年9月24,25日 フランクフルト、アルテ・オーパー

 

Brilliant Classics BRL99999

 

 

 今はもう廃盤になっていますが、これはブリリアントから発売されたインバル/フランクフルト放送SOのベルリオーズの管弦楽曲集の中の一枚です。当時は11枚組で発売されました。しかし、オリジナルの日本コロムビアのセットは12枚組です。そうなんです。このセットなぜか、「ある芸術家の生涯におけるエピソード」の第二部が収録されていないのです。一般には「レリオ、あるいは生への復帰」と題されるもので、こちらはOP14bと表記されます。ただ、昔はちゃんとこの「幻想交響曲」はOp.14aと表記されていましたが、wikipediaでも最近はOp.14とだけ表記されています。まあ、こんな経緯もあり、このブリリアントのボックスセットは話題になる前に市場からは姿を消してしまいました。しかし、そこはブリリアント11枚組で3000円台で購入できましたから中古市場ではそこそこ人気があります。まあ、「レリオ、あるいは生への復帰」は滅多に演奏されることはありませんし、レコーディングもほとんどありませんからさほど重要ではないでしょう。

 

 さて、この幻想交響曲はインバルがシリーズで録音した最初の録音でもあります。この当時マーラーでは成功していましたがインバルの評価はまだ固まっていなかった時代です。もともとこの一連のプロジェクトはドイツ・シャルプラッテンと共同制作ということと、コロムビアにはベルリオーズの自社カタログがないということで制作承認が得られ演奏会と録音がセットで行われていったという経緯があります。当時はインバルとフランクフルト放送交響楽団が木曜と金曜の連続定期演奏会と土曜の補完演奏でCDを作成していたという話です。DENONによるワンポイント・マイクによる高性能録音が話題になった演奏ですな。

 

 日本コロムビアの録音チームは一連のベルリオーズの録音に従来の自社製4チャンネルPCM録音機の他に三菱の32チャンネルデジタル録音機も持ち込み、壮大な音楽の全てを録音しようとしていたようです。ただ、 三菱の32チャンネルデジタル録音機の音源は行方不だそうで、未だにこの音源はSACD化されていないようです。

 

 

 第1楽章は演出過剰ではなくスコアを読み込みバランスを重視しています。テンポの緩急もさほどなく、表情付けも癖がない。昔は結構あっさりと演奏された楽章で13分台のものが多かったのですが、インバルはじっくりとしたテンポで精緻な演奏になっています。ただ、ワンポイントのせいかパーカッションが遠くせっかくの管弦楽の効果が弱いのが物足りないところです。

 

 

 第2楽章も丁寧に音を紡ぎ出した舞踏会になっています。ただ、フランス音楽的なエスプリにちょっと欠けるので色気をあまり感じられないものになっています。その反面、今まであまり感じることのなかった副旋律がふっと顔を出し新しい発見があります。

 

 

 第3楽章も冒頭から淡々と進みますが、風景としての野辺の荒涼差が不足しているように感じます。フランクフルトのオケは機能は高いのでしょうが、個々の奏者の個性はあまり感じられません。音の組み合わせがモノトーン的で色彩感が乏しいのはマイナスでしょうか。この演奏を演奏会で聞いていたら多分爆睡でしょうなぁ。

 

 

 この演奏の聞き物はこの第四楽章でしょう。普通の指揮者ならこの楽章は4分台で駆け抜けて生きます。ですが、インバルは行進曲をテーマ通りの断頭台ということで足を引きずるようなテンポで演奏しています。こういう形での演奏はブーレーズ以来のアプローチです。そのブーレーズのアプローチよりもさらに遅いのですから表題の再現性はピカイチです。

 

 

 終楽章は第四楽章の流れを引き継いでいます。まあ、もう少しベルリオーズのグロテスクさを前面に出してもいいかなという感じはあります。その中で、輪郭のはっきりしない打楽器類は大きめに響きます。ただ、鐘の響きが少々安っぽいのでここが興ざめです。

 

 同じワンポイント録音でもテラークの方向性とはやや違いますが、躍進していたインバル/フランクフルトの絶頂期の録音であることは間違い無いでしょう。