カイルベルトの「魔弾の射手」
レコード蒐集家からすると出版社経由で発売された何ちゃら全集という形のレコードは蒐集の対象にあらずというところで中古市場では捨て値で売りに出ています。ということで、ここで取り上げているのもそういう類の中の一枚です。
小学館が昭和46年四月に発売した「世界の大音楽」の第12巻、「ロマン派の音楽1」と題されたものです。
30㎝LP2枚組で2800円で書店ルートで販売されたものです。この巻の曲目は以下のようになっていました。
とまあこういう構成で、目玉はのリュイタンスの「幻想交響曲」と思われるのが当然です。ところが、表紙の帯にはカイルベルトの写真が掲載されているんですなぁ。まぁ、クリュイタンスの幻想は以前にも取り上げているので、ここではカイルベルトの「魔弾の射手」です。でも、ここでは全曲は無理なので抜粋の形で収録されています。こんな形ではこのレコードのみでしょう。
しかし、さすが書籍としての発売です。音源は第2幕と第3幕の抜粋と有名な狩人の合唱ですが、ちゃんと前田昭雄氏の歌詞対訳が掲載されています。また、オペラ自体については大宮誠氏がきっちり舞台写真を混ぜて解説しています。こういうところはさすが出版社の仕事だなぁと感心してしまいます。
読み物としての本は48ページ建てで、そのほとんどがオペラの記事になっています。
上は序曲だけですが、ネットには日本語対訳字幕付きでの演奏もあります。
B面にはクリスチャン・フェラスの独奏でメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が収録されています。フェラスといえばてっきりグラモフォンの専属アーティストとばかり思っていたのですが、1950年代はEMIに録音していたんですなぁ。でもって、メンデルスゾーンはこのシルヴェストリとのものしかステレオでは残されていません。
この時代にあってはいたって真っ当な中庸なテンポでの演奏で好感が持てます。録音は1957年6月26-28日で、キングスウェイ・ホールで行われています。世間で評価の高いハイフェッツの演奏は早すぎて曲の美しさが損なわれていますし、かと言って前橋汀子のような異常に遅い演奏もまるでロマンが感じられません。
そうそう、こういう書籍ものには月報というものが毎号おまけでつきます。この号では「ベルリオーズの新しさ」という記事を映画評論家の荻昌弘氏が書いています。そして、彼のいう新しさとはこの曲にまつわるエピソードは制作の動機にすぎず、そして作品は、常に動機の切実さを超えねば意味がない。ー中略ーこの「幻想」という作品に出てきたものは、まぎれもなく、彼の情念が「音」と化した形での情報だった。「幻想」には27歳のベルリオーズの全てが鳴っている。と語る文章は読み応えがあります。
CDによるこういう名曲大全集のような企画は、なんか内容が安っぽくて買おうという気がおこりませんが、書籍としてのこういうものは存在感があり、当時の人たちの作った熱気のようなものを感じます。また、レコードブームが再燃していますが、こういう全集ものの出物があったら捕獲することをお勧めします。最近はネットオークションにも結構出品があります。