ハイティンク/ボザール・トリオ~トリプル協奏曲 | geezenstacの森

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ハイティンク/ボザール∙トリオ

ベートーヴェン/三重協奏曲

 

曲目/ベートーヴェン

三重協奏曲 ハ長調 Op.56 (for P,Vn &Vc, 1804)

1. Allegro    18:06

2. Largo    5:20

3. Rondo alla Polacca    13:07

ベートーヴェン ピアノ三重奏曲 No.7 変ロ長調 Op.97「大公」 1. Allegro moderato    12:50

2. Scherzo. Allegro    6:02 

3. Andante cantabile    12:33

4. Allegro moderato    6:17

 

指揮/ベルナルト・ハイティンク*

演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団*

   ボザール・トリオ

ピアノ:メナヘム・プレスラー

ヴァイオリン:ダニエル・ギレ

チェロ:バーナード・グリーンハウス

録音/1977/01/22-23*、キングスウェィ・ホール

  1964 ラ・ショー=ド=フォン、スイス

Engineer: Cees Huizinga*

Producer: Volker Straus*

 

PHILIPS 4784614-4

 

 

 2012年に発売された「フィリップス・オリジナル・ジャケット・コレクション」の中に収められていた一枚です。このセットのアルバムは今ではそれぞれ単品発売されて流通していますが、これは渋い内容とあって現在では廃盤のままです。ハイティンクがロンドンフィルのシェフをしていた時代の録音で、コンセルトヘボウでないというのも大きな理由でしょう。ボーナスのピアノ三重奏曲「大公」も旧録音がカップリングされています。

 

 ボザールはのちにマズア/ゲヴァントハウスとも再録音していますし、ピアノ三重奏曲も70年代末から再録音しています。そんなことで音源としての市場価値はないのでしょう。唯一、これも「ナクソス・ミュージックライブラリー」の中でこの形で残されています。

 

 さて、このボザール・トリオ、メンバー交代を繰り返しながら最終的に2008年に解散してしまっています。中心メンバーだったピアノのプレスラーが2014年1月に90歳で、彼はベルリンフィルハーモニー管弦楽団にデビューしました。また、この年のジルヴェスターコンサートでのベルリンフィルハーモニー管弦楽団とサイモンラトルとの彼の演奏は、世界中で生放送されましたからご覧になった方も多いでしょう。ところで、ボザールの名前の由来についてはどこを調べても書いてありません。wikiにも全く触れられていません。というわけで辞書で調べると、フランス語で Beaux は美しい、Arts は芸術ですが、「beaux-art」の組み合わせで「美術」「芸術」という意味で、英語では「ファインアーツ」となるようです。そういえばこの時代すでに「ファインアーツ四重奏団」は存在していましたので、わざとフランス語の名称を用いたのかもしれませんなぁ。

 

 さて、ここで演奏されるベートーヴェンのトリプル協奏曲は渋い演奏です。このブログでは過去に数々のアルバムを取り上げてきていますが、その中でも特に渋いといってもいいでしょう。時代なんでしょうか、テンポもゆっくり目で最初聞いたときは覇気が感じられなく、まるでムードミュージックのような印象を受けました。しかし、曲自体はまさにこのトリオのために書かれた作品のようで、長年のトリオの阿吽の呼吸に裏打ちされた絶妙のバランスで内容の濃いアンサンブルが展開されています。

 

 

 この曲本来は第2。第三楽章はアタッカでつながっています。したらあげたナクソスの音源はこの辺りがプチっと切れてしまいますからそこだけが残念です。ただ、YouTubeの音源は連続しているものがありましたのでそれをピックアップしています。

 

 

 ボーナスとして収録されているピアノ三重奏曲 No.7 変ロ長調 Op.97「大公」は昔から何度も再発売されている録音ですが、この曲でのデイフェクト・スタンダードとはあまり捉えられていません。まあ、銘酒が三人集まって火花を散らす録音が多く存在する中では、これは目立たないのはしょうがないでしょう。その上、録音年代からしてもこの時代の演奏様式を端的に表しているスタイルをとっています。

 

  第一楽章の運びは、この時代のスタンダードだったような遅くて重い方向ではないものの、途中で急に速まったり 大胆にぐっと遅くなったりするような、情緒に揺れるところが大きい音楽になっています。少なくとも現代的なスタイリッシュな演奏とは程遠い演奏です。ただ、フィリップスが新録音よりもこの9録音を押しているというのは、良くも悪くもフィリップスのサウンドとなっている点なのでしょう。どの楽器も突出せず、絶妙なバランスで響いています。

 

 スケルツォも軽やかに流れるようであり、やはり感情に従った湧き立つような揺れがあります。

 

 第三楽章はゆったりですが展開部で速まるところもありますし、ここでも思い入れの強いポルタメントが多用され、フレーズを小節後半で緩めて遅くする様が大変叙情的です。耽溺するにせよ盛り上がるにせよ小細工なくストレートであると言ってもいいでしょう。例えていうなら、ボザール・トリオはフルトヴェングラーのようなテンポの揺れが売りなんでしょう。

 

 終楽章も傾向はそれまでと同じです。平均してテンポはやや速い方でしょう。最後は足早に駆けて行って、 断定的に遅くして締めくくります。古きよき日の郷愁を感じます。