ウィルヘルム・ケンプのシューベルト
ピアノ・ソナタ全集
曲目/
ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960
ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D.959
ピアノ・ソナタ第2番 ハ長調 D.279
ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958
ピアノ・ソナタ第18番 ト長調 D.894『幻想』
ピアノ・ソナタ第17番 ニ長調 D.850
ピアノ・ソナタ第14番 イ短調 D.784
ピアノ・ソナタ第16番 イ短調 D.845
ピアノ・ソナタ第15番 ハ長調 D.840
ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D.664
ピアノ・ソナタ第11番 ヘ短調 D.625
ピアノ・ソナタ第9番 ロ長調 D.575
ピアノ・ソナタ第7番 変ホ長調 D.568
ピアノ・ソナタ第6番 ホ短調 D.566
ピアノ・ソナタ第5番 変イ長調 D.557
ピアノ・ソナタ第4番 イ短調 D.537
ピアノ・ソナタ第3番 ホ長調 D.459
ピアノ・ソナタ第1番 ホ長調 D.157
ピアノ/ゥィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
録音/1965/02/17-1969/01/04 ベートーヴェン・ザール、ハノーファー
P:ハンス・ヒルシュ、ヴィルフリート・デニーケ
D:マンフレート・リヒター、ヴォルフガング・ローゼ
E:ペーター・シュヴァインマン、クラウス・シャイベ
DGG MG8618/26
ケンプ生誕80年記念のセットとして1975年に発売されています。ケンプは1971-72年は病気と手術演奏活動を中断しており、この74年から75年にかけては大規模な日本を含む演奏旅行を敢行していました。そういう最中に発売されたものです。
実はそれまで、ウィルヘルム・ケンプには全く興味がありませんでした。リアルタイムでも、ケンプのレコードは一枚も持っていませんでしたし、そもそもグラモフォンのレコード自体カラヤンを含めてどちらかといえば敬遠していたほどです。さらには、シューベルトのピアノ・ソナタ自体もその存在すら知りませんでした。レコード時代にシューベルトのピアノ作品で所有していたのはイングリッド・ヘブラーの「楽興の時」と「即興曲集」だけでした。
そして、シューベルトのピアノ・ソナタの存在を知ったのは何を隠そう「のだめカンタービレ」で演奏された第16番のソナタが最初でした。それで気になって購入したのが、ワルター・クリーンの演奏でした。そういうこともあり、一番最初に聴いたのはやはり、第16番のイ短調 D.845でした。しかし、ちょっとテンポが早く、軽めの表現だったのでディフェクト・スタンダードのイメージとは違うなぁという印象で、お蔵入りをさせていた演奏でもありました。それが下の演奏です。
今一番気に入っている演奏はマリア・ジョアオ・ピレシュの演奏した演奏で、イ短調の持つ鹿園な雰囲気を一番表現しているように思います。
ケンプにとっては70代の脂ののった時期の録音ですが、全集の中ではこの曲が一番最初に録音されています。データ的には1965年の2月17、18日及び1965年9月1日に18番とともに収録されています。後期のソナタ作品でこの曲を一番重視していた現れなのでしょう。そういう意味では1960年代のシューベルトの解釈はこういう形が一般的だったのでしょう。ちなみに昭和62年のレコ芸の「名曲名盤ベスト500」の中では、この曲のみケンプの演奏は評価の対象にすら上がっていません。当時はこの曲ではポリーニやルプーの演奏が高評価を得ていました。
反対に18番は佐々木節夫氏あたりは高評価を与えています。確かに表題の「幻想」にふさわしい柔らかさと包み込む優しさわ紡ぎ出しているように聴こえます。
アルバムのトップに収録されているのは第21番の変ロ長調です。素直にこの曲から聴いていれば懐の深い演奏だというのが理解できたのかもしれません。聴く順番も重要ですなぁ。
ちなみに、レコードの収録順は最もよく知られている後期の重要なソナタから初期のソナタに戻って年代を逆にたどる配列になっていると謳っています。Cとは全く収録順が違います。
解説書には貴重なケンプの写真が掲載されています。これを見るだけでも、ケンプがいかにレコード史の中で大きな存在であったかがわかろうかというものです。ただ、日本語でのキャプションの説明は一切ありません。
左からケンプ、ギレリス夫人、ギレリス、ケンプ夫人
ケンプ、エドウィン・フィッシャー、フルベン、クーレンカンプ
ケンプ、バーンスタイン、クリスタ・ルートヴィッヒ、ワルター・ベリー
メニューイン、ケンプ、ロストロポーヴィチ
ピアノを弾くケンプとフルトヴェングラー
CDのセットでもこれらの写真が掲載されているかどうかは知りませんが、レコードの解説書は大きな写真で掲載されています。これだけでもレコードの価値があろうというものです。