レコード芸術
1970年11月号-2
バーンスタインとともに特集が組まれていたのはスヴャストラフ・リヒテルです。万博の年に初めて来日しています。この当時は幻のピアニストとして、レコードでしかその存在を知ることができなかったのは当時は飛行機嫌いで、この時もシベリア鉄道を乗り継いでナホトカに到着し、そこからは船で大阪入りしています。その後は新幹線で東京へ移動するという旅行です。
リヒテルは7月10日にモスクワを出発し、シベリア鉄道で途中演奏旅行をしながら29日にナホトカ発のソ連船オルジェニキーゼ号に乗り31日午後大阪に到着しています。
ナホトカ駅でのスナップ
付き人もいない二人旅で、船室も二人部屋を利用したとのこと
新幹線で無事東京入りしたリヒテル夫妻。リヒテルはこの時55歳、この来日を機に親日家になり来日を繰り返すようになります。そのきっかけの一つがヤマハのピアノとの出会いだそうで、大阪万博の際も2日目以降の全ステージでヤマハCFを弾き話題となりました。
しかし、今のレコ芸では考えられないような密着取材ですなぁ。
昨年の12月19日の記事にコメントをくれたピノサクさんが触れられていたメニューインとケンプのベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集はこの年の6月に録音されています。そのセッションのプロモ用写真がこの号に掲載されていました。
デュプレとバレンボイムの仲睦ましいショットです。1971年にはもう多発性硬化症を発症していますからこの頃がピークだったでしょう。
1970年の年末商戦に向けてソニーはクラシックでもギフトパックシリーズを発売しました。バーンスタイン2、ワルター2、セル1、ブーレーズ1、ゼルキン1、そして、国内録音を集めたホームコンサート1という内容でした。それまで、ワルターは一枚も所有していなかったので、この中からマーラーの「巨人」とブルックナーの「ロマンティック」のカップリングのセットを購入したのですが、なんと「ロマンティック」が入っていないという欠陥商品でした。交換を申し出ましたが限定盤でなくなく諦めたのを思い出します。
バーンスタインだけでは片手落ちと、この号ではカラヤンの「神々のたそがれ」が発売されたのを記事で取り上げています。この「神々のたそがれ」が完成したということはカラヤンの「ニーベルンクの指輪」が完成したことを意味しています。
ニーベルンクの指輪のプログラムにサインするカラヤン
プレイバックに耳を傾ける、リーダーブッシュ、ブリリオート、そして、スチュアート
ブルュンヒルデ役のデルネッシュとカラヤン
右はDGGとEMI両者の契約書にサインするカラヤン、左はカラヤンの日本発売のレコード100万枚突破を記念して送られたゴールドディスクを喜ぶカラヤン、右でワイングラスを手にするのはハンス・ヒルシュ
こちらはベームとハンス・ヒルシュ
来日したマクサンス・ラリュー
EMIは立て続けにボド/パリ管のレコーディングを発売しています。今では殆ど忘れ去られています。
こちらは来日したハイドシェックを打ち出しています。何しろ目玉のバルビローリが来日していないので苦肉の打ち出しです。
ソニーが参戦したこともあり、各社国内レコーディングに積極的になっています。ビクターは来日したジョリヴェの作品を本人の指揮で録音し、東芝は野島稔の作品を、ソニーは現代のフルート作品を録音しています。
また、ソニーはブラスバンドの教則本の模範演奏を国立音大オルケスタを使って録音しています。
このように当時のレコ芸は幅広い内容の記事を満載してクラシックファンの裾野の拡大に貢献していました。それに比べると今のレコ芸は中年読者以上しか興味のない内容でつまらない内容になっていますなぁ。