ティンパニストかく語りき-叩き上げオーケストラ人生 | geezenstacの森

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ティンパニストかく語りき

叩き上げオーケストラ人生

 

著者 近藤高顯

発行 学研プラス

 

 

 中学1年生のある日、私の人生を決める1通の書留が届いた……。国際的ティンパニストが叩き上げオーケストラ人生を語る。カラヤンやチェリビダッケ、朝比奈隆ら音楽家たちとの出会い、ティンパニの裏話など、オーケストラ裏事情も垣間見られる面白エッセイ。---データベース---

 

 

 今まで指揮者サイドのこの手の本はいろいろ読みましたが、この本はティンパニストの視点で書かれているのがいいですねぇ。小生もオーケストラの中ではティンパニが一番の要と思っているので、まさに、読んでいて我意を得たりの気持ちで読むことができました。

 

 実はこの本を知ったきっかけは、先に取り上げた「紀尾井シンフォニエッタ東京(紀尾井室内管弦楽団)」の記事を書いていて、当時のこのオーケストラのティンパニは、この作者の近藤高顯氏が叩いていたことを確認したからです。今は若手にその席を譲って、新日フィルの方も定年退団されたようです。

 

 人の運命とはほんのちょっとのきっかけで大きく変わるものです。近藤氏も学生時代に応募したカラヤン/ベルリンフィルのチケットが当選したことで人生の舵取りが大きく変わったしまわれたようで、その後の1977年に来日した折のベルリンフィルのティンパニスト、フォーグラー氏との出逢いが決定的なものとなります。

 

 ベルリンフィルの首席奏者、オズワルド=フォーグラー氏の演奏に感銘を受け、会いたい一心で楽屋裏に飛び込んでしまい、
フォーグラー氏が英語が得意でないと知ると、次の来日までドイツ語の勉強を必死に行います。そして、再会したフォーグラー氏とドイツ語で会話できるようになり、近藤氏の真剣さがフォーグラー氏に通じ、弟子入りを認められ、DAAD給費留学生としてベルリンに留学することになります。

 

 この本でティンパニの配置にはドイツ式とアメリカ式があることを初めて知りましたが、近藤氏は戦後の日本のオケでは(おそらく)初めて本格的なドイツスタイルのティンパニ奏者として活躍されたのではないでしょうか。

 

 カラヤンの末期ともいえる1980年代のベルリンフィルとの演奏会をティンパニのすぐそばの席から聴いていた氏のエピソードは読ませてくれます。また、ベルリンフィルの来日でのカラヤンの振り間違い事件なんかについても書かれており、裏話的な話も読み応えがあります。

 

 来日オーケストラの演奏には幅広い交友関係からと裸出円を頼まれることも多かったようで、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ドレスデン・シュターツカペレ、NDR南下の演奏会の舞台にも立っていて、直にオーケストラの響きを体験されています。


 さらに新日本フィルの奏者として真近に小沢征爾、朝比奈隆、山田一雄らの指揮者との「真剣勝負」には体験者でなければ知ることのできない裏話的なエピソードも満載です。


 クラシックの演奏会に出かけるなら、一度は読んでおいた方がいいでしょうね。