追憶の猫―探偵藤森涼子の事件簿 | geezenstacの森

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追憶の猫

―探偵藤森涼子の事件簿

著者/太田忠司

出版/実業之日本社 joyノベルス

 

  藤森涼子の勤める一宮探偵事務所では、所長の入院をきっかけに、所長代理の高見が経営方針の転換を図っていた。互いに意見の合わない涼子と高見は衝突を繰り返す。そんな折、涼子はある事件を通じて知りあった男と久しぶりに再会し、ふたりは親密になっていく。探偵をつづけるのか、別の道を歩むのか。悩む涼子のもとに、また調査の依頼がやってきて…。 —データベース---

 

 この巻では、とうとう藤森涼子は一宮探偵事務所を辞めてしまいます。藤森涼子は9年間一宮探偵事務所で働いてきました。それは、採用してくれた所長の人間味に惚れ込んでのことでしたが、一宮自身も妻を失い、今は一人暮らしです。そして、所長は入院してしまい、事務所の運営を所長代理の高みに一任してしまいます。この高みとは涼子は肌が合いません。そんなことで、経営方針をめぐって口論になってしまい、涼子は退所を選択してしまいます。

 

 そして、涼子自身にも突然結婚を意識した男が現れます。まあ、このシリーズには以前から登場しているのですが、その人物が急にクローズアップされます。いろいろ交錯したシリーズで、先日取り上げた別の阿南シリーズでは、涼子は結構阿南にアプローチをかけるのですが、そういう人物とはうまく発展しません。まあ、こういう人間味のあるところがこのシリーズのいいところなんですけどね。

 

 本書には次の4作品が収録されています。

 

・高台の家

・淡彩の庭

・追憶の猫

・天上の花」の4篇、それぞれを簡単に。

 

 最初の「高台の家」が涼子の最後の担当事件となりました。姉が結婚することになり、その弟は夫となる人物の調査の依頼がきます。それは姉の弟でした。調査の報告書も出来上がり依頼者に渡しましたが、対象車の手に渡っていたのは開山された涼子の報告書でした。どうしてこんな事がといぶかっていると、依頼者が死んだという連絡があります。例によって、涼子は納得できない依頼案件という事で調査を始めてしまいます。この事がきっかけで、涼子は一宮探偵事務所を退職する事になります。しかし、涼子はきっちりと事件のケリをつけます。

 

「淡彩の庭」では退職して清掃のバイトの仕事で細々と生活しているのですが、一宮探偵事務所の島から女性の探偵をとの仕事を受け、片手間に対応する事になってしまいます。それは、会社の会長をしている女性からの依頼で絵の作者を探して欲しいというものでした。手がかりは結構あり、すぐにその人物は見つかるのですが、会長は自分の死んだ夫の遺産を全てその人物に相続させると言い出します。これも、依頼案件としては終了してしまったのですが、その探し当てた人物が殺されてしまいます。しかし、犯人よりもその仕掛けをした人物が恐ろしいです。

 

「追憶の猫」 飯島美紀の登場との再会 10年前

 飯島美紀という女性を覚えているでしょうか。そう、現在書物として読める最初の本、「歪んだ素描」の最初の事件で登場してきた女子大生です。あれから10年が経っています。現在はwebデザイナーをしていますが、一方では位置の靄の主催する探偵講座を受講しているという変わり種です。その美紀が友人の母親を探して欲しいと頼んできます。涼子はもう探偵はやめていますが、強引にその友人と引き合わせてしまいます。

 

 涼子はその一枚の家族写真を片手に、岡崎の母親の実家へ出かけていきます。どうやら不倫関係がらみで複雑な事件になっていきます。何とか現在は輸入雑貨のショップを開いているその母親を見つけます。しかし、ここでもきな臭い事件が起こってしまいます。人間金が絡むとどうも欲望のままに走ってしまうんでしょうかねぇ。涼子の機転を利かせた活躍で、何とか殺人事件にはならずに事件は解決します。タイトルの「追憶の猫」は折られた写真の謎に関係しています。

 

 まあ、これらの事件と並行して涼子には結婚を意識した人物が現れ、探偵を続けるか老舗の和菓子店の女将になるのかという選択肢を迫られます。

 

「天上の花」ではいよいよ涼子は詩文の探偵事務所を持つ事になります。そのきっかけは婚約者の実家が雇った探偵にありました。本来探偵は調査対象車に接触する事はありません。しかし、この探偵は涼子と接触します。そして、調書を書き換えてやるという事で涼子からも金をせしめようとが咲くします。涼子はこの男も探偵の風上にも置けないゲス野郎という事で張り倒します。でも、この男が殺されてしまい、早速小牧警察署の刑事が涼子を訪ねてきます。 

 

 涼子は婚約者の両親から好ましく思われていない事を悟ると同時に、又しても、事件の真相を暴こうと動きます。殺された男は一宮探偵事務所とも関わりがありました。刑事たちが訪ねてきたタイミングに疑いを持った涼子はその事を、別の刑事に調べてもらいます。事件はあっけなく終わりますが、ここでまた飯島美紀が登場して、涼子に探偵事務所の開設を促します。資金がないので事務所はweb上に開設されます。そう、藤森涼子探偵事務所はネットの中にしか存在しません。その入り口となるホームページには、次の言葉が掲げられています。

ーノックは無用、このドアはあなたのために開かれていますー

 

 そうそう、この小説でもb’zの音楽が登場します。音楽のある小説、読んでいて楽しいですねぇ。