歪んだ素描―探偵藤森涼子の事件簿 | geezenstacの森

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歪んだ素描

探偵藤森涼子の事件簿

 

著者/太田忠司

出版/角川書店 角川ノベルス

 

 

 「求む、バカな人」―この奇妙な求人広告に魅かれて一宮探偵事務所に飛びこんだ涼子は、満たされないOL生活に別れを告げた。ある日、突然仕事も家族も捨てて失踪した男を捜して、涼子は男の故郷を訪れる。彼は人生をやり直そうと、全てを捨てたはずだったが…。男の死に直面した涼子が見た真実は―。表題作をはじめとする連作ミステリー。--データベース---

 

 このところ立て続けに太田忠司氏の作品を読んでいます。今回は女探偵の藤森涼子のシリーズです。とは言っても、この藤森涼子太田市のいろいろな作品でちょこちょこ顔を出しています。ですから、全くの初キャラクターではありませんし、小生もすでに最近作の「金木犀の徴」(文庫では改題されて「偽花」)を取り上げています。

 

 新書版の本を読むのは久しぶりです。この判型は小説だと上下2段なんですなぁ。そして、読んだのは25年近く前の作品、シリーズの第2作目でまだ藤森涼子が探偵として初々しい感じで、OLからトラヴァーユしてまだ一宮探偵事務所に入社したての作品です。そんなことで、名推理も格闘シーンもあまり期待できないのは初期の作品としては当然なのでしょうね。

 

 「金木犀の徴」を読んで、読み直したくなって探した一冊です。でも、これどうもシリーズ第2作のようです。しかし、古書店を探しても第1作には巡り会えていません。「ペットからのメッセージ」という作品のようですが、この藤森涼子の原点を知るべき作品は売れなかったのか、ヤフオクでも見つけられませんでした。しかし、作者の方針なのか第1作は現在では電子書籍として流通させているようです。ネット上ではその試し読みができますが、どうも藤森涼子が一宮探偵事務所で事務員として働いていたのを、所長が半ば強引に女探偵に仕向けて行っている風です。

 

 でも、でも、一宮所長、先輩の高見と島、そして江崎・土岐刑事、主要なメンバーと、涼子がOLを辞めて探偵事務所に就職した経緯はもれなくわかるので、そういう意味だはこの作品が実質的な第1作といってもいいのではないでしょうか。

 

作品の章立てです。

・善意の檻

・眠る骨

・彼の動機

・歪んだ素描

 

 最初の「善意の檻」の出だしは、「「ペットからのメッセージ」」とほぼ同一です。展開を考えると実質的に第1作といってもいい内容になっています。この感想はすでに何冊か読んだ上で書いていますから、このストーリーで登場してくる人物が後々の展開にかなり重要なキーポイントになっています。

 

 ヒロインの藤森涼子は28歳で探偵事務所の門と叩きました。最初の半年間は事務職として働いていますが、半年後から女探偵として活躍しだします。所長の一宮のお膳立てです。ここではのっけから3日前に家出した妹を探して欲しいという依頼です。一週間の依頼料の20万をいとも簡単に払っていきます。そして、妹がたむろしているのはゲーセンだと告げていきます。涼子は駅前のゲーセンを探しに出かけますが、あっという間に探し人の妹を見つけてしまいまい、それも正面から見つめてしまいます。探偵といては失敗です。そのため、正面からまともに対峙してしまいます。女は飯島美紀、金遣いの荒い女子高生です。しかし、家出をしたつもりはないとあっさり家に戻ります。ただ、家に戻った翌日、依頼主であった姉の飯島文子が殺されるのです。

 

 まあ、本来ならここからは刑事事件ですから警察の仕事になるのですが、この小説はそうではありません。ここからが涼子の本領発揮です。殺された文子の勤め先に乗り込み、美紀の縁談のための調査だということで文子の人となりを聞いて回ります。飯島家は本来は資産家でした。しかし、文子は両親の残した財産には手をつけずひっそりと印刷所の事務員として働いていました。そして、文子の性格が事件を引き起こしたと考えるようになります。

 

 まさに女刑事並みの活躍で事件の謎に迫っていきます。しかし、スーパーウーマンではありません。警察に任せるのではなく、自分が関わった案件には自分が納得できるまで向き合います。

 

 本来は浮気の調査とか、結婚相手の素行調査をするのが本来の探偵なんでしょうが、涼子の関係する事件はどうも殺人がらみのものばかりになります。結局、警察任せにして、見て見ぬふりをして通り過ぎるか、向き合って突き進むかの選択で後者の道を進んでしまいます。それを背中を押すのもた手綱を締めるのも「地蔵顔」と藤森が密かにイメージする一宮所長です。

 

 その後も、交通事故の目撃者探しがらみでの殺人事件や、依頼人が調査書類を捏造したということに端を発した殺人事件、さらに、腹違いの子供を善意という悪意で殺人事件に巻き込んでしまうという痛ましい事件を経て、 

藤森涼子は調査員として成長していく姿が描かれます。

 

 そうそう、最初の事件で土岐という刑事が登場します。そして、飯島美紀もこの後大きく絡んできます。そういう意味でも、本書はシリーズの第一作と捉えてもいいでしょうね。