ムローヴァのベートーヴェン/ヴァィオリン協奏曲 | geezenstacの森

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ムローヴァのベートーヴェン
ヴァィオリン協奏曲

曲目/
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
1.第1楽章:Allegro Ma Non Troppo 23:15
 カデンツァ:オッターヴィオ・ダントーネ(Ottavio Dantone)
2.第2楽章:2. Larghetto 8:16
3.第3楽章:Rondo: Allegro 9:34
 カデンツァ:オッターヴィオ・ダントーネ(Ottavio Dantone)
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
4.第1楽章:Allegro Molto Appassionato 12:52
5.第2楽章:Andante 7:07
6.第3楽章:Allegro Non Troppo, Allegro Molto Vivace 7:09

 

ヴィクトリア・ムローヴァ(ヴァイオリン)
オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)

 

録音/2002/06/05-07 イギリス、ワトフォード、コロッセウム

 

P:アンドルー・コーナル
E:ネイル・ボイリング

 

UCCP-1075

 

イメージ 1
 
 ムローヴァについてはこのブログで何度も取り上げています。多分小生が一番好きな女性ヴァイオリニストだからでしょう。このディスクではベートーヴェンを初めて録音しています。メンデルスゾーンはマリナー/ASMFとの録音がありましたからこれは2度目という事になります。

 

 

 ただ、このディスクが特徴的なのはムローヴァが古楽オーケストラとセッションしているということです。自らは90年代中頃から古楽様式に興味を持ちその奏法を取り入れているということで、ここでもガット弦と古典/バロック式の弓を装備した1723年製ストラディヴァリウス“ジュールス・フォーク”を駆使して演奏しています。ということで、一昔前のコレギウム・アウレウムのスタイルによる演奏といっても良いのでしょう。

 

 さて、ガーディナーはベートーヴェンの交響曲全集とピアノ協奏曲全集を1990年代に何れもグラモフォン系列のアルヒーフに録音していましたが、このヴァイオリン協奏曲だけは録音していなかったんですなぁ。アルヒーフのアーティストに古楽でヴァイオリン独奏が出来る人材がいなかったのでしょうか?それともいても売れるネームバリューのアーティストがいなかったのでしょうか?不思議です。ガーディナーはフィリップスにも1980年代から録音していましたから、フィリップスからこの録音が発売されても違和感はありませんし、この時点ではともにユニヴァーサルグループでしたから何の問題も無いのでしょう。

 

 それにしても、同じベクトルを指向した両者の幸福な共演といっていいでしょう。ガーディナーのポリシーで古典派以降の作品はイングリッシュ・バロック・ソロイスツではなく、オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティークが担当しています。もちろんピリオド楽器のオーケストラですから響きは現代のオーケストラとは違いノンヴィヴラートです。ですから響きはナチュラルでピッチの関係もあるのでしょうが、ノーブルなサウンドです。ふつう、ピリオド楽器で演奏するとテンポが早く、何かせっかちの音楽作りになってしまうところが嫌われる傾向がありますが、ここで聴くガーディナーのテンポはモダンオーケストラと違いはありません。第1楽章から堂々としたアレグロ・マ・ノン・トロッポで雄大な音楽を形作っています。まあ、全体の響きはピリオドオーケストラ特有の鋭角的響きをアクセントとして取り入れてはいますが、すんなりと音楽に入っていけます。こういう伴奏ですからムローヴァの作る音楽もそれに調和する響きになっています。現代もの、古典もの、バロック物、それに夫の影響でジャズシーンの曲まで演奏するという多彩さはヴァイオリン界のグルダのような存在になりつつあります。

 

 ムローヴァのヴァイオリンは、やや線の細いところがありますが、音楽の表現の幅が広いのでどのようなスタイルでも聴き手を惹き込むオーラを持っているのでしょう。オーケストラをバックにあるときはハーモニーを、自己主張するときはバーサスの関係で緊張感漂う演奏を展開しています。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はカデンツァをヨアヒムとかクライスラーの値のを使って演奏するのが一般的ですが、ここではまったく違うカデンツァを演奏しています。解説は平林直哉氏が書いているのですが、その事にはまったく触れていません。読んでもちっとも面白くないありきたりの曲紹介だけです。こんなものに高い金を払うぐらいなら、安い輸入盤を買った方がよっぽど得になるというものです。幸い、曲目紹介のところに「カデンツァ:オッターヴィオ・ダントーネ(Ottavio Dantone)」という記載があります。この人は、ムローヴァと共演してバッハのヴァイオリン・ソナタを演奏している人です。彼はまたアカデミア・ビザンチナのリーダーであり、作品のモチーフを巧みに用いて旋律を心地よく歌い上げており,ヨアヒムやクライスラーのものよりも小振りでスタイリッシュな印象ですが,この演奏のコンセプトにマッチしているのではないでしょうか。少なくとも、クレーメルのシェニトケの物よりは納得出来ます。(^▽^;)

 

 まあ、全体としてはビリオドらしい鋭角さはあまり感じられない演奏で、聴き進むほどに音楽にのめり込んでいきます。ですから、2楽章、3楽章は一気に聴けてしまいます。

 


 続いて演奏されているメンデルスゾーンの協奏曲では,2度めの録音ということもあって、慈愛に満ちた表現になっています。ここでも、基本はノンヴィブラートなのですが、殆ど違和感はありません。もともとが、メンデルスゾーンの作品は位置付けとしてはロマン派の作品ですから、ガーディナーも古典の演奏の鋭角さはまったく影を潜めているといってもいいでしょう。僅かに第3楽章の冒頭でやっちまった感がありますが、これが19世紀の音楽の表現方法だといわれても殆ど違和感はありません。ことほど作用にムローヴァのヴァイオリンは自然体です。帰って、ガット弦を採用していることで響きがまろやかになっていて、ロマン派の香りをいっそう色濃く伝えているようなところがあります。

 

 ヴァイオリン協奏曲の世界ではメンチャイというのが一つの括りですが、それはレコード時代のだいめいしであって、CD時代はベトメンが代表的な組み合わせではないでしょうか。最近、この録音Blu-rayオーディオディスクとしても発売されています。それほど録音も優秀なのですが、CDでも充分その良さを感じる事が出来ます。