小澤のチャイコフスキーヴァイオリン協奏曲その3
曲目1.チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
2.シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
ヴァイオリン/ヴィクトリア・ムローヴァ
指揮/小澤征爾
演奏/ボストン交響楽団
録音 1985/10/17-19,ボストン・シンフォニー・ホール
独PHILIPS 416 821-2

ムローヴァのチャイコフスキーは、今回聴いてきた3人の演奏の中では一番音が洗練され、研ぎすまされた美しさに共感します。生の演奏ではないと知りつつも、スピーカーから流れ出る音が自然と空間の中に広がります。この録音はフィリップスのクルーによるものですが、実に自然な音でまさしく、名曲名演、名録音の一枚です。
ムローヴァは1980年にシベリウス・コンクールを、そして、1982年にチャイコフスキーコンクールを制したことから、デビュー録音にこの2曲が選ばれたようですが、まさに、うってつけの選曲でした。三度目となる小澤も、手兵のボストン響を使ってまさにぴったりはまった伴奏で、ムローヴァの知的でクールな響きとドイツ的で重厚なボストンの響きのコントラストが印象的です。亡命という過去を背負ったムローヴァを優しく包み込むようなサポートで息もぴったり、阿吽の呼吸のテンポの中スケールの大きなチャイコフスキーが響き渡ります。
ムローヴァは1980年にシベリウス・コンクールを、そして、1982年にチャイコフスキーコンクールを制したことから、デビュー録音にこの2曲が選ばれたようですが、まさに、うってつけの選曲でした。三度目となる小澤も、手兵のボストン響を使ってまさにぴったりはまった伴奏で、ムローヴァの知的でクールな響きとドイツ的で重厚なボストンの響きのコントラストが印象的です。亡命という過去を背負ったムローヴァを優しく包み込むようなサポートで息もぴったり、阿吽の呼吸のテンポの中スケールの大きなチャイコフスキーが響き渡ります。
高音部では艶があって透きとおるような美しさナノですが、それにもまして低音が良いのです。ムローヴァのヴァイオリンは肉厚で包容力があって、しかしウェットにならず、グイッと押し出すような音色の美しさが聴き取れます。第1楽章の速いパッセージでその美しさが生きていますが、一番素晴らしいのは、第2楽章のカンツォネッタです。ヴァイオリンもそれに絡む木管も、息を呑む美しさ。ボストン響のソロは名手ぞろいです。
1959年生まれのムローヴァは録音当時26歳、ロシアの大バイオリニスト、レオニード・コーガンの一番弟子で、師譲りの音色は先にも書いたようにクールで知的なのですが、一方で暗さを感じさせない暖色系の明快な音なのです。 知的な抑制を効かせた、誠実で丁寧な歌い込みが最大の魅力となっています。 直截的な意味での興奮と熱狂はないし、 驚くような仕掛けが仕込まれているわけでもありません。しかし、この演奏は音楽がすーっと体の中にしみ込み聴いていて心が癒され、時には自然とうとうとしてしまう心地よさがあります。こういう演奏に出会えるのは稀で、それは、ムローヴァが技術的にも優れていることはいうまでもなく、演奏に破綻が無く、音色が柔らかいということになるんでしょうね。
世間は、シャープで激情的な陰陽交錯するチョン・キョン・ファを支持しているようですが、個人的にはこのムローヴァのような演奏や、オークレールのような清楚な演奏も好きです。
さて、このディスクはチャイコフスキーで満足していると、次ぎにシベリウスが控えています。こちらもクールな演奏で、極寒の地に育った人が共感する情念といったものが感じられます。こちらも、低音部の肉厚の響きが美しい限りです。さすがコンクールの優勝者という風格が感じられます。しかしながら、こちらの小澤のサポートは哀愁感が不足するのかシベリウス特有の雄叫びが感じられないのが残念です。エバレット氏のティンパニのトレモロなどソロパートはいいのですが、全体の響きにややシャープさに欠けます。
さて、このディスクはチャイコフスキーで満足していると、次ぎにシベリウスが控えています。こちらもクールな演奏で、極寒の地に育った人が共感する情念といったものが感じられます。こちらも、低音部の肉厚の響きが美しい限りです。さすがコンクールの優勝者という風格が感じられます。しかしながら、こちらの小澤のサポートは哀愁感が不足するのかシベリウス特有の雄叫びが感じられないのが残念です。エバレット氏のティンパニのトレモロなどソロパートはいいのですが、全体の響きにややシャープさに欠けます。
そういえば小澤はシベリウスの交響曲は一度も録音したことが無いのではないでしょうか。ボストン交響楽団は、コリン・ディヴィスと組んでシベリウスの交響曲全集を録音しているはずですから相性に問題は無いはずですが・・・