イタリア四重奏団のライブ
曲目/
Mozart: String Quartet No.15 K 421
1. Allegro 5:13
2. Andante 5:10
3. Minuetto: Allegro 3:59
4. Allegro ma non troppo 9:37
Dvorak: String Quartet No.12 "The America"
5. Allegro 6:50
6. Lento 8:14
7. Molto vivace 3:46
8. Finale: Vivace ma non troppo 5:17
Ravel: String Quartet in F major
9. Mod??r??. Tr??s doux 8:16
10. Assez vif. Tr??s rythm?? 6:21
11. Tr??s lent 8:34
12. Agit?? 5:16
演奏/イタリア四重奏団
パオロ・ボルチャーニ(第1ヴァイオリン)、エリサ・ペグレッフィ(第2ヴァイオリン)
ピエロ・ファルッリ(ヴィオラ)、フランコ・ロッシ(チェロ)
録音:1968年9月10日、アスコーナ
Membran Wallet 224074
グレート・チェンバー・ミュージック(10枚組)については、以前カルミニョーラのブラームス を取り上げていますが、今回はそのシリーズの中から4枚目のイタリア四重奏団を取り上げます。この録音は放送音源であるようですが、録音場所と時期からいって「アスコーナ音楽祭」での収録でしょう。「アスコーナ音楽祭は9月上旬から10月中旬まで開催されます。そして、この録音が行なわれた1968からはアスコーナの「コレッジオ・パピオ Collegio Papio」にある「サンタマリア・デッラ・ミゼリコルディア教会 Chiesa di S. Maria della Misericordia」と、隣町ロカルノの「サン・フランチェスコ教会Chiesa San Francesco」という14~16世紀までさかのぼる歴史を誇る2つの教会で開催されています。音響効果にも優れた教会で、その良さがこの録音にも表れています。そういうエポックメーキングな年に録音されていますが、もう一つ、イタリア四重奏団にとっては、ここに収録されているドヴォルザークの「アメリカ」はこの年にセッション録音された曲目であるというです。そういうことではかなり弾き込んだ演奏ということが出来ますし、尚かつ、セッションとは違うライブでの緊張感がこの演奏にはあります。また、最後のラヴェルの作品についても1965年のセッションものは従来からこの団体の代表的演奏といわれているもので、さらに磨きがかかった演奏がここで披露されているということです。また、モーツァルトにしても、全集を残していますが、そちらも1966年から録音がスタートしています。つまりは一番旬な曲目がここで演奏されたということです。しかし、この10枚組のボックスについて調べてみたら初期ロットに不具合が合ったようです。しかも、この一枚がその不具合のものであるようです。改めてモーツァルトをかけてみると、なるほど第1楽章の冒頭がちょっと寸詰まりの様な形で始まります。しかし、鑑賞に差し障りがあるような傷ではありません。
レコード時代からイタリア四重奏団はききこんでいますが、第1楽章の冒頭のやや寂しげな雰囲気の漂うモーッアルトの旋律ですが、イタリア四重奏団で聴くとその中にも華があり気品が漂います。謳う様な旋律が次から次へとわき上がるシャボンのように風にゆらゆら揺れながら素晴らしい響きで大空に向かって広がっていきます。ドイツ系のカルテットだと、どうしても物悲しげな雰囲気だけで終わってしまいますが、イタリア四重奏団は音色が明るいので、何処となく明るさが感じられるので、そういう気分に陥らないで澄みます。イ・ムジチの演奏を聴いた時も同じ様な感じを受けますが、これはイタリア人の演奏ということと、当時のフィリップスの室内楽の録音の特色だったのでしょうか。こういう味わいが最近聞けなくなったのが寂しいところです。
この15番で個人的には一番印象深いのは第2楽章です。この第2楽章の長調と短調が交差するメロディも独特ながら、それを味わいのある振幅の大きい演奏でダイナミックに歌い上げています。
第3楽章は短調のメヌエットですが、冒頭のフーガ的な旋律は特徴的ですね。四重奏団はよく小さなオーケストラといわれますが、ここでの謳い回しはそういう呼び方にぴったりのアンサンブルを聴かせてくれます。中間部のヴァイオリンソロも品があり、それを柔らかいビチカートでサポートしているバックにもほれぼれします。
第4楽章はアレグロ・マ・ノントロッポですがここでは、意外や意外イタリア四重奏団はモデラートほどのスピードでじっくりメロディを浮かび上がらせながら演奏しています。多分他の団体よりも遅いのにびっくりするのではないでしょうか。しかし、取り立てて違和感のある演奏ではありません。歌心があるので、聴き込むうちにこのテンポが説得力を持って迫ってくるのです。変奏曲形式の楽章ですが、変奏が積み重ねられるほどにカンタービレの聞いた響きが心の琴線に触れ哀しみの深淵に立たされてしまいます。この演奏なら、このCDのトリに配してもいいのではと思ってしまいます。
さて、2曲目はぐっと華やいだイタリアSQらしい「アメリカ」です。深刻ぶった部分はここにはありません。セッション録音を世に問うた1968年の録音です。そういうこともあって、ここでの演奏は力が入っています。セッション録音に勝るとも劣らない熱演が繰り広げられています。いや、アンサンブルと演奏の密度でいったらセッション録音を上回るものがあります。強いて違いをあげるなら、録音ポリシーの違いで、幾分この放送録音の方が、音像が狭いぐらいの部分でしょう。 第1楽章のアレグロ・マ・ノン・トロッポから、がっぷりと四つに組んだ響きが展開されます。チェロが骨太の演奏で下支えし、その中で歌心のある美しいヴァイオリンが哀愁に満ちたメロディを奏でていきます。無難なところで、この第1楽章を聴いてみましょう。
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第2楽章は哀愁に満ちた響きが全曲を包んでいます。ここ手せの各人が響かせるカンタービレに溢れた旋律は、おそらくこの演奏の白眉でしょう。各楽章の冒頭に客席のイズが聴き取れますが、それは演奏に接している観客の緊張感を強いられた後のほっとしたため息に聴き取れます。個人的にはスメタナ四重奏団のもノーラルの演奏を愛聴して聴いていますが、このイタリアの演奏はそれに次ぐポジションで愛聴しています。ライブならではの緊張感がびしばし伝わってくる演奏です。
第3楽章は一転してアクセントの強い処理で第2楽章と対比させた演奏になっています。ここでは、ヴァイオリンがやや音を濁らせてもいいと割り切っている様な力強いボウイングで全体を引っ張っていきます。勢いがあります。これはモーツァルトとは違う近接した位置にマイクをセッティングしているせいかもしれませんが、それだけ生々しい音がするということです。
CD上では終楽章フィナーレはアタッカ気味に間髪を入れず開始されます。この楽章ではヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポの指示を優先して、カンタービレは影を潜め、ひたすら快活に音楽を押し進めていきます。そういう意味で、第2楽章のエレジーの響きに比して、ここではイタリア人の陽気さが前面に出ている様なスカッと空が青く晴れ上がったような演奏になっています。まさに対比が見事です。
これだけでも充分満足の出来る選曲ですが、このCDにはさらに名盤の誉れ高いラヴェルの四重奏曲が収録されています。いえば、アンコールの位置付けなのでしょうが、どっこい、まぎれの無い名演です。、どちらかといえばひんやりとしたクールなイメージがつきまとうラヴェルの作品を、イタリアの団体らしく旋律美に比重を置いたユニークな演奏で、ロマンの香りさえ漂う響きで纏めあげています。この時点ですでに23年の長きに渡りアンサンブルを磨いて来た団体です。個々のテクニックやアンサンブルの精妙さはトップクラスのクァルテットです。今風の演奏になれた耳には、個性豊かなこの演奏からこの曲にアプローチするのはちょっと冒険かもしれませんが、セカンドチョイスにはもってこいの演奏です。こういう素晴らしい演奏がここでしか聴けないのはもったいない限りですが、幸いこのセットは10枚組でありながらCD一枚の価格で購入することが出来ます。今流通の音源は不具合も修正されているはずですから、お勧めです。