フルニエ/シェルヘンのドヴォルザーク | geezenstacの森

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フルニエ/シェルヘンのドヴォルザーク

曲目/
ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調Op.104
1. Allegro 14:23
2. Adagio, Ma Non Troppo 11:33
3. Finale: Allegro Moderato 12:09
ブラームス/交響曲第3番ヘ長調Op.90
4. Allegro Con Brio 9:13
5. Andante 10:25
6. Poco Allegretto 5:51
7. Allegro 9:53

 

チェロ/ピエール・フルニエ
指揮/ヘルマン・シェルヘン
演奏/スイス・イタリア語放送管弦楽団

 

録音/1962/04/25 ルガーノ

 

MEMBRAN 223603
  
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 MEMBRANの「グレート・コンチェルト」の中の一枚です。フルニエのドヴォルザークといえばセル/ベルリンフィルとの共演盤がすぐに頭に浮かびますが、これはその録音に先立つ2ヶ月前のライブということが出来ます。ここではチェロの貴公子フルニエが、灼熱の指揮者シェルヘンと火花を散らす壮絶な演奏を展開しています。オーケストラの水準はイマイチですが、シェルヘンの棒に引っ張られてかなり熱演しています。多分ライブで聴けば、フルニエとシェルヘンの丁々発止のバトルに興奮したのではないでしょうか。

 

 シェルヘンはやや速めのテンポでオーケストラを引っ張っていきます。第1楽章は冒頭からねちっこい表現で、ホルンやクラリネットのソロなんか極めてくっきりと吹かせてクローズアップさせています。音のバランスはこの種の録音としては最良の部類でしょう。ただオーケストラの編成はやや小さいようで、弦が少々薄味に響きます。そういうところをシェルヘンはやや鋭角的にごりごり鳴らしてカバーしている節も伺えます。そういう演出に後押しされてかフルニエのチェロセルのセッション録音以上に力の入った熱い演奏で応えています。ここら辺がクールなセルと激情型のシェルヘンとの組み合わせの妙がフルニエのパッションに多大な影響を与えている証拠で、一体どこにこのような熱い部分があったのかと驚くのではないでしょうか。セルとの有名なスタジオ録音とは別人のようなテンションです。まぁ、そうは言ってもフルニエなので気品と優雅さは失ってはいません。1962年ならステレオかなと思いきや放送録音ですからモノラルの音で収録されているのが残念至極です。

 

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 ピエール・フルニエ

 

 このスイスイタリア語放送管弦楽団は、1933年開局のスイス・イタリア語放送の専属オーケストラとして30名程度の小規模なオーケストラとして始まっています(設立は1935年)。現在の名称はスイス・イタリアーナ管弦楽団(Orchestra della Svizzera italiana)ですが、以前はルガーノ放送管弦楽団とも呼ばれていましたから、シェルヘンとのベートーヴェンの交響曲全集で知られていますね。1968年までの間、イタリアの指揮者でレオポルド・カセッラ、オトマール・ヌッツォが首席指揮者として活躍。更に、1969年から1991年まで、マルク・アンドレーエが率い、多くの現代音楽を紹介してい時代もあります。1999年よりアラン・ロンバールが音楽監督を務めて、さらに2008年よりミハイル・プレトニョフを首席客演指揮者として活躍しています。NHKのFMで海外のライブ等の放送で時々聞かれた方も多いのではないでしょうか。

 

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ヘルマン・シェルヘン   
                     
 一楽章冒頭からシェルマンの棒が冴え渡っているのは前述の通りです。応えるフルニエのチェロも独奏が始まるとその格調の高い音楽に背筋が伸びます。ライブならではの緊張感です。オーケストラに煽られ、フルニエはだんだん熱を帯びてきて、溢れ出る想いをこれでもかっ!とぶつけている感があります。提示部終わりからは普通はややほっとするところなのですが、ここでもフルニエはアクセルを緩めること無く、深く情感のこもった響きで聴くものを掴んで離しません。この演奏を生で聴けた人は幸せです。でも、このCDは我々にもそういう雰囲気の一部分ではあるのでしょうが感じさせてくれます。コーダの煽り方も見事です。これだけティンパニを派手に叩かせる演奏はそうそう出会えるものではありません。

 

 

 うって変わったように、第二楽章はシェルヘンはフルニエに主導権を渡しています。ここはフルニエのやりたいようにやってちょうだいという様な開始です。それではそうさせてもらいましょうと、フルニエはセルとのセッションよりも感情の起伏が大きく、このメランコリックな旋律を深い呼吸で豊かに聴かせてくれます。まさに、うっとりと聴き惚れてしまいます。

 

 

 それじゃあ、最後はびしっと締めますか。とでもいわんばかりの持ったいつけた様な開始でシェルヘンはオーケストラをリードしていきます。トライアングルはチャラチャラ鳴らすわ、トランペットはぶかぶか吹かせるわという具合で聴き所満載になっています。そんな感じなので両者が興に乗ってくると二人とも溢れる感情を抑えきれないといった感じで、ところどころ前のめりになっていて突進していきます。いやあ、実にスリリングです。途中フルニエは暴走するのではないかとハラハラするほど感情が高揚し熱い演奏を展開します。まあ、あくまでもこれはチェロ協奏曲ですから、チェロにスポットが当たるのは当たり前ですが、シェルマンはオーケストラのソロに光が当たる様な演出を加えながら最後のコーダでは、これが折れのドヴォルザークだっ!といわんばかりに大きくルバートをかけ大見得を切って終わります。マサに痛快の一言です。終演後の盛大な拍手にも納得です。

 

 

 さて、フルニエは1954年に来日してNHK交響楽団と共演しています。その時の映像がありますので比較の意味で貼付けておきます。ピエール・フルニエ(vc) ニクラウス・エッシュバッハー/NHK響(1954 日比谷公会堂)

 

 

 このCD、「グレート・コンチェルト」ですから、この後のブラームスはややおまけの様な存在です。聴き知る限りでは、セッションでのシェルマンのブラームスは交響曲第1番があるだけのはずですが、ここではそれを補完する第3番が収録されています。でも、これはちょっと納得出来る演奏ではありません。第1楽章冒頭からオーケストラは不調のようで揃っていませんし、速いテンポで一筆書きのようにあっさりとしています。逆に第2楽章はめちゃ遅いテンポで10分以上かけて演奏しています。で、内容はというとリハーサル不足かようやくゲネプロまでこぎ着けましたというレベルのアンサンブルでこれでシェルマンの肉声でも入っていたらリハーサルですといってお茶を濁せるようなレベルです。このCDを取り上げるにあたって久しぶりに通して聴きましたが、頭の中を右から左にさらっと流れるだけで、引っかかり記憶に残るところがありません。ドヴォルザークが凄すぎるのでこの落差にはびっくりします。
 聴衆の拍手を聴く限り、ドヴォルザークとさほど変わらないものですが、多分コンサートの終曲にあたっての儀礼的な拍手でこの曲に対するものじゃない様な気がします。このCDはドヴォルザークを聴くにとどめた方が良さそうです(^▽^;)