過去に三冊ほど読ませてもらっている作家さん。読ませてもらった本は、お金のお話が多かったです。テレビドラマにもなった「三千円の使い方」「財布は踊る」とかですね。小説なのですが、経済指南書的な風があったり、投資に関しても「危ないよ」と強い警告の意図を感じました。お金の話が登場すると、物語がすごくリアルになりますが、元クリーニング屋の親父としては、気持ちがそっちに引っ張られて、主人公の心情の揺らぎみたいなものを感じにくいように思えました。

 

この本の主旨ではないでしょうが、本の最後の方にコロナ渦の頃に定食屋を弁当屋に改装する場面で補助金を利用するか?が登場しました。本では「所詮借金だから」とアドバイスする人が登場しましたが、定食屋→テイクアウト専門の弁当屋の転向なら「事業再構築補助金」が使えなかったかな?とか思いました。たしか最大50%とかの補助金が出たのです。もうビックリするような大判振る舞い。ゼロゼロ資金(無担保、無利子)にしろ、こうしたお金が焦げ付いて倒産する会社も多いだろうなぁ~。

 

 

 

  定職屋「雑」の店主”ぞうさん”

 

今回の本は舞台が「定食屋」さんです。このお店が定食屋「雑」なのです。(この屋号に引っかかりますね)こういうお店、昔は普通に有りましたよね。キツネうどんがあるかと思えば、カレーライスも有り、ラーメンも有って・・・と考えてみれば、いったいどんな厨房しているのでしょうねよ。今回の本では、過去には昼間は定食屋さん、夜遅くには居酒屋的な営業もされていたのですが、今は店主の代替わり+高齢になって、昼食と夕方の営業に集中されています。メインは「本日の定食」にして、集中的に仕込む事で作業性を上げて、ロスも減らされているのでしょう。

 

このお店を独りで切盛りしている女性は”ぞうさん”と呼ばれています。彼女は、常連さんも多いのですが、お客さんと積極的に会話をしたりはしないのです。お客さんだけでなく、雇った店員さんの名前を覚える事をしません。過去に親戚の娘さんを預かってちょっと痛い気持ちになったのが、トラウマになっている様子です。

 

 

  真面目でしっかり者の沙也加

 

もう一人の「訳アリ女性」の沙也加は、結婚して旦那の健康と会計を考えての食事作りをしていました。しかし、結婚してしばらくすると、旦那が夕食をあれこれ理由は付けるのですが、済ませて帰宅することが多くなります。飲酒もしています。彼女の育った家庭では、父親の飲酒は食事の後でした。父親は食事の後にゆっくりと飲酒を楽しむタイプだったのです。なので、自分の旦那にも(ちょっと露骨に)食事中の飲酒を嫌ってました。

 

そして、旦那から「別れよう」と切り出されて驚きます。旦那は仕事のストレスを公園で缶チューハイを飲んで晴らしていたと言います。しかし、空き缶の処理に困って→見つけたのが前出の定食屋「雑」でした。かなり濃いめの味付けの定食といっしょにビールを飲む習慣がついてしまいます。

 

沙也加は「浮気」を疑います。なんと旦那が通っている定食屋に潜入してみます。すごく濃い味付け。屋号の「雑」を思わせるのですが、美味しい事も事実。体験した事が無い味にちょっとした驚き。そして旦那が出て行ったので、収入減をカバーする必要性もあって、「店員募集」の張り紙に応募します。

 

って事で、このお店を舞台にこの2人の接点が生じるのです。もちろん、この2人だけでは物語は寂しいので、名脇役さんも多数登場します。

 

もう年齢を重ねて体のアチコチが痛い”ぞうさん”と、旦那との接点を見出せない沙也加とが一つのお店で働きながら、やがてそれぞれの心情を話す事になります。さぁ後は読んでのお楽しみっていう本ですね。途中、脇役さんがチャチャ入れるので、読みながら想像する結末が揺るぎました。そりゃ最後はハッピーエンドだろう、と思うじゃないですか。しかし、コロナも登場します。年齢を重ねると疎遠になる人達も居て、寂しい思いもします。やっぱり「遠くの親戚より近くの友人」っていう事かな。

 

 

  物語の重要な脇役 定食の数々

 

 

これは本の帯ですね。図書館の本には付いて来なかったです。(残念)

 

 

第一話で登場するのが、「自家製コロッケ」

第二話では、「トンカツ」

第三話が「から揚げ」

第四話では「ハムカツ」

第五話が「カレー」

登場するのはカレー以外は全部揚げ物ですね。カレーでもカツカレーが登場するので、これも揚げ物的です。揚げ物は、下準備をしておけば、独りでも素早く熱々を提供できるし、ボリュームがあって喜ばれるのでしょう。これだけでもこのお店の客層が分かるっていうモンですね。それと、ご飯はお代わり自由。

 

どのメニューでも、作っている様子がかなり細かく描写されていて、口がその口になってしまいそうです。勝手に自分で味を想像してしまいますね。(笑い、笑い、笑い)

まんまと著者の術中にはまった気分です。思ったのは、この人情噺の舞台にするのに、この定食屋ってピッタリじゃないか?と思いました。店主と従業員にしても距離が短い分、密接です。お客さんにしても食事をする間はお店にいるのでいくらかコミュニケーションも取れます。でも、それほどベタベタでもない。

そして、チェーン店でもない、ちょっと時代遅れの定食屋が、ともすれば忘れがちな愛情だったり人情を描く舞台にピッタリ。それに、やっぱり美味しい物を食べたら、幸せな気分になるよねぇ~。

 

 

 

  疑問① どうして雑っていう屋号

 

 

手に取った時からこの屋号については「何故?」の気持ちを持ちながら読んでました。種明かしは、このお店の創業者さんが「雑色さん」(ぞうしき、と読む)なのです。これがそのまま屋号。そしてお店を引き継いだ”ぞうさん”はその親戚筋に当たって、やはり性が「雑色」だったのです。

 

しかし、しかしだよ。何かしらの仕掛けや理由が有ると思うじゃないですか。こんな珍名を持ち出さなくても、この物語成り立ちます。って言うか、読者によけいな詮索を持たせるだけだった(私はそう)と思うのです。

 

不思議です。どっかでインタビューとかされてないかな?

 

 

  疑問② どうして沙也加の旦那はお店に来ない

 

 

沙也加の旦那はストレス解消に公園でチューハイ→定食屋で食事+飲酒って言ってました。そこで沙也加はこのお店に潜入して店員になります。ところが、週に2~3度もお店を利用している、と言っていたのに、沙也加が勤めるようになってからは、全く顔を見せません。家を出ているのですから、外食は更に増えているでしょう。不思議です。

 

最初、お店で沙也加と旦那を鉢合わせにすると、お話がややっこしくなるから、と思ってました。お店で出会って「俺はこのお店のこの味が好きなんだ」「この定食といっしょにビールを飲むと生き返った気分になる」って言ったら、反論できないかと思います。(そういうお店だからね)

 

しかし、全く来ないは不自然

って事はやっぱり浮気だったんだ!

しょうもない男だよなぁ~。しかし、これに気付かない私の読解力(想像力か)もしれてますね。そうかぁ~、浮気っていう設定の方が、沙也加の意固地な性格を際立てることも出来るよなぁ~。

 

まぁ女性作家さんだと、こういう所バッサリの事が多いですね。しっかり者や健気な女性軍に対して、もう情けないほどのダメっぷりの男性陣っていうのが定番、お約束のようでもあります。

 

 

  私の原田ひ香さんの読書感想文

 

blogを検索したらすでに3冊読んでいて、今回が4冊目でした。内、2冊はお金が重要なアイテムですね。