「犯罪不安社会」~君、治安悪化言いたもうことなかれ~ | あざみの効用

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『治安悪化神話の解消のためには、まず治安悪化の根拠となっている犯罪増加について正確な情報提供を行うこと~(中略)~治安悪化神話の生成および確立に大きな役割を果たしているマスコミ、市民活動家、行政・政治家、専門家の「鉄の四重奏」の絡みを一つ一つほどいていく必要がある。』

                浜井浩一「犯罪不安社会」1章

『まだ遭わぬ犯罪に過度な不安を覚え、そして過剰なまでの警戒態勢を敷くならば、それが解かれる日は決してやってこないだろう。不安に駆動されたセキュリティの推進は、メディアによって日々、供給される恐怖を糧に強化されていくだけだからだ。』

                芹沢一也「犯罪不安社会」3章


『犯罪不安社会 誰もが「不審者」?』浜井 浩一、芹沢 一也 (著) は当然のようにみんな読まれましたか(大前提)?これはマスゴミに接触する際(討論番組、報道番組ね)には常時1冊携帯を義務付けるべき本です。私自身これまで色々と批判を連ねてきましたが(そしてこの後も付記します)、そのような揚げ足取りに毛の生えた程度のものではなくて、痛烈なそして根本的な批判となっています。それは定量的でありつつ、さらに言説分析も同時になされており、批判対象者には反論の余地など残されていないからです。…あるとすればみんながそう言っていた、自分の寄与したものなんてそんなにないという類の泣き言くらいですか(終戦直後よく見られましたね)?

おそらく、ここを読まれるような奇特な方ならば各トピック、知識、情報についてはそれほど衝撃はないかもしれません。しかしそれでもごくごく最近の情報まで盛り込まれており(いったいいつ出来上がったんだろう?)、知らないことは絶対にあるはずです。しかし、この書の魅力はそんな断片ではありません、全体を通して読むことで得られる絶対的な確信です。

だいたい共著本、それも新書程度ならば雑談でお茶を濁す、雑漠な部分が多い、1+1が2未満になっているものばかりですが、この本では3にも4にもなっています。その点については前書きで述べられているので省略しますが、浜井、芹沢両先生がお互いの専門を認め、単に知識の羅列になるのではなくて相互に意識しつつ補完(それも本文にきちんと書かれています、よほど執筆中に連絡を密にとった証拠ではないかと)し、犯罪治安言説を完膚なきまでに叩きのめすために量と質という両面から、時間を追って詰めていっています。

前に記した覚えがありますがが、個人的な関心事としてどこまでを守備範囲とすべきかと言うことについて、オタ表現に関心のある人間ならば、否応なく少年犯罪、変質犯罪については関心をもたざるをえないことは経験則が教えてくれます。それはその種の犯罪が起こるたびにその責がその非科学性とは関係なくオタ表現に降ってくるからです…というかもはやお約束ですよねorz

つまり、そのような瀬戸際でのメディア悪影響論の非科学性(坂元先生が一人気を吐いておられますが。・゚・(つД`)・゚・ 。)や、少年犯罪数の推移といった反論は効果がなくて、そもそもこの種の特殊な年に数件の事件に対する社会の耐性のなさをいかにして一般人に共有されるものとして言説を編み出せるかということにかかっていると考えます。この点について、図らずも治安悪化言説が蔓延り、しかも治安悪化の元凶に少年犯罪、外国人犯罪の増加、凶悪化が理由の上位に上るような状況が生じたことで、治安悪化の虚妄を暴く、社会不安を払拭する方向での戦い方が見えてきたと思います。つまり、話が大きくなることによって綻びが、社会的コストが増大し、それだけ無責任な主張が許されない問題となったと考えるからです。たぶん最近紹介しているような本はこのような問題意識に沿ったものとなっているはず(累犯障害者の山本氏であり、教育は万能魔法ではないことを指摘し続けている苅谷先生であり、精神鑑定が万能では無いといわれる林幸司氏など)。


以下 さらに続き+論壇誌系の感想α

犯罪報道「量」と不安扇動言説という「質」が無限増殖炉のようにお互いがお互いを刺激して社会をおぞましい姿に変えつつある今、「美しい日本」を守るために治安悪化神話を打ち砕かねばならない…ひいてはオタの平和を守るために。

浜井、芹沢先生の両パートが重なってみえるようになったとき総ての謎は解けます。私たちはハートのジャックに連れられて得体の知れない世界に墜ちてしまったのです。そこでは少ないはずの犯罪が突然多くなるといった前田のような言説が跋扈し、何の根拠も無い不安煽り言説を垂れ流して悦っている三月ウサギや、いかれ帽子屋のような言説に携わる人々(読んでもらいたいので伏せますってばればれですがw)がいきいきとしており、ニセ海亀たる義家があるべき学校教育を説く。「風潮」「空気」といったハートの女王様がその場その場の感情で爆発し、厳罰化への金切り声をあげる…最初はチェシャ猫のように傍目から(・∀・)ニヤニヤしていようかと思いましたがいつまでも醒めないこんな不思議の国は嫌です、早く目覚めさせてください。

こんな意味わかんない感想に頭が痛くなったならとりあえず買って読んで♪

あと芹沢一也blog 社会と権力 はこれからしばらく必読の予感、アリスに芹沢さんをなぞらえるとハートの女王様に異を唱えた以上、当分ゴミカードの山が襲い掛かってきそう。具体的に名指ししているわ、本書にも登場するじゃーなりすとの藤井誠二氏などと違ってご自身のブログでコメントもトラックバックも普通に受け付けているしね。


【参考】多すぎるのでざっとひっかかったものだけ
http://newmoon1.bblog.jp/entry/310836/ (小宮+宮台)
http://newmoon1.bblog.jp/entry/318873/ (ティーパーティー上)
http://newmoon1.bblog.jp/entry/319452/ (ティーパーティー下)
http://newmoon1.bblog.jp/entry/340383/ (小宮アキバを語るw)
http://newmoon1.bblog.jp/entry/306909/ (ドードー鳥具体例)


あと今月の論壇誌紹介としては論座が必読です。これまで創を除けば個別記事で一つ二つ紹介するのがいっぱいいっぱいでしたが、今月の論座はほとんどがお勧めなので買って読むほうが早いですw きちんと一冊を通して言いたいことが伝わる(電波でなくね)論壇誌は久方ぶりですよヽ(*´ワ`)ノ ワーイ 現実に根付かない空論に惑わされずに現実を直視していこうと。冒頭の貧困特集(例→今月のおすすめ記事  2007年1月号 )から浜井先生×山本譲司氏の対談まで要は「貧困」なんだと実に読み応えがありました。あと各所で語られていますが宮崎×川端氏の時評コーナーの単行本化にあたり朝日が出さないってどういうことなんだろ?関係ないですが拾い物↓

◎時評家・宮崎哲弥の「明日はどっちだ!ニュースジャッジ」(週刊プレイボーイ2006年12月11日号)「その報道の科学的根拠を問う!シンドラー社、少年犯罪、いじめ自殺…」

>ジャーナリズムによる誤った印象操作はエレベーター事故だけではない。例えば、少年による凶悪な犯罪が近年、著しく増加しているという通念が蔓延しているが、犯罪統計をつぶさにみればそんなことはいえない!とくに少年による殺人は近年、検挙人員が100人前後で推移していたが、2004年には62人と急激に落ち込み、前の年に比べて35.4%減という著しい改善を示している。然るに、「少年による殺人事件、大幅に減少」がトップニュースを飾ることは遂になかったのである―――。一般市民に拡がった少年犯罪凶悪化のイメージが適正化されることがなければ、為政者たちの少年法の改定や教育改革の議論に悪影響を及ぼしてしまう――。下手をすれば、なんの根拠にも基づかない政策が実施されてしまいかねないのだ。

何も言うこと無いけれど、基づかない政策が実施されかねないという認識は間違っているよね。実際に予算がばんばんついて実施されてま~すorz


あといつものように「創」絡みではバーチャル(ry)が性表現で出版に目をつけているのにからみ一本「深刻不況に見舞われたエロ本業界に未来はあるか」をお勧め。

・最盛期の90年代初頭に比べて現在3~4分の一(ビデオザワールド・オレンジ通信)
・ネットができない親父世代が読者はがきからするとメイン購買層、この10年で平均年齢が10歳上がった(まんま持ち上がりw)、今平均40歳近い
・ロリコンモノは壊滅状態、「裏BUBKA」元編集長が児童ポルノ違反で逮捕、裸ではなく水着モノに。
・ビデ倫の消しが最近薄くなった。ビデ倫というのは警察の天下り組織。昔の感覚なら摘発されてもおかしくないものにお墨付きを与えるということはもう性器の見える、見えないで取り締まる気なし?

つまりエロ表現ではなく性表現を規制するとしたらなら、そんな衰退しているエロ業界ではなくて、その矛先は同人業界に向かうのでしょうね…警察の天下り組織もないしw

で、最低最悪の記事は月刊現代1月号
特集「脳の力・脳の仕事」
脳と心と少年事件 十一元三(京都大学医学部教授)×草薙厚子

( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \もう著者名で目を逸らしたくなった人そこ目を背けない!以前、草薙の著書でどこの専門家に相談したんだとか記しましたが…この方なのかな?

十一
>確かにこうした「不可解」な事件が最近、目立っていますね。

草薙
>こういう少年少女犯罪の原因が特定できなくなってきているのは、彼らの心の問題は何だったのかという視点のみで解明しようとしていた点にも原因があるのではないでしょうか。いつも「普通の子がつらい環境や悲惨な経験をして心が壊れてしまい、事件を起こした」という流れになる

ごめんなさい、最近いつそんな流れになりましたか?記憶に無いんですが。大体板橋のあの悲惨な生育環境で両親を殺害したらおもいっきり容赦ない一審判決おりていますよw

>原因は、お決まりのように「心の闇」です。でも、それだけではなぜ起きてしまったのか、見えてこない事件もあります。司法やマスコミの人たちは、脳のことや医学的なアプローチを無視してきたように思います。

「心の闇」を否定するってどうしたんだ!?とか一瞬思いましたが…脳内汚染か安心、安心…するかヽ(`Д´)ノウワァァン!!

十一
>いままで心と言っていたその「心」というのは、実は発達障害を持たない、定型発達者の心理のことをそう呼んでいたので、不可解な事件では、その図式・方式が使えないわけです。そこでいきなり「心の闇」だとして、解明することを放棄してしまったのが最近までの報道だったと思います。

草薙
もちろん発達障害の人が事件を起こすのではなくて、事件を起こした中に発達障害者が何人かいただけということですね。不可解な事件の中にそういうケースが目に留まるので、少なくとも心の問題だけでは解明できないことを知っておかないと、事件の真相がまったく分からないケースもあるということでしょうか。

十一
>その通りです。一般的な事件、一般的でない事件の両方を正しく理解しようと思うことが必要です。特殊な事件を誤って一般化してしまうと、かえって弊害がありますね。ただし繰り返して述べておかないといけないのは、もともとこの(=広汎性発達障害)障害自体と事件化とは何の関わりもないといところは一つ大事なポイントだと思います。

草薙
>そういう障害をもつ人たちが何らかの不適応を起こした場合、こういう特異な事件につながることは可能性としてはあると言えるわけですね。

草薙しつこいw いろいろと弁解しながらもようは広汎性発達障害、アスペルガーをスティグマ化したいだけなんだろ!その権威付けに十一氏を利用したいと。だいたい何らかの不適応を起こせばどのような人間だって事件に繋がらないか?

で、もってさらに特集として
あなたの街、家族が住む街は安全ですか?東京全犯罪ランキング

>本稿では今回、警察庁、警視庁から独自に入手、あるいはホームページで公開された各資料をもとに…

( ゚д゚)ポカーン調べた上でこんな不安煽り言説に加担するんだ…今年の犯罪白書ですら既に横ばいと認めているんですが。

で、こんな言説を垂れ流した上で↓
右傾化と言論の役割を問う 徹底討論メディアは国家と戦っているか

…幸せですね。


あとコメント欄といい、女子リベ さま「犯罪不安社会 本日発売 編集後記のようなもの」 といい誉めすぎです><


Comments
芹沢様、コメントそしてなによりも本当に素晴らしい最高の本をありがとうございました。今、ここでこのように網羅的な批判が適切になされていたということは今後時代の「風潮」が変わったときに必ず再評価されると思います。それこそ2章のように言うならば、治安悪化に対して疑問を呈する識者もいたと歴史に名を刻むのではないでしょうか。

言論に携わる人間の役割は「風潮」に無責任に乗る事ではなく、「風潮」にこそ厳しい批判の眼差しを向け、勇気をもって言説を編み出すことにあると考えますので、売れるとか売れないとか以前にその志とでもいうべき気高いものを感じて熱くなりました(勝手に過剰に欄外を読み込んで盛り上がるなとか思われるかもしれませんが)、本当にありがとうございました。

また、本自体おとといにはAmazon.co.jp ランキング: 本で553位にあることを見ました。夜半にかけてじんわりと売れている(どういう層が支持しているのかわかりやすいですね)みたいで他人事なのにこれまた勝手に喜んでおります。一人でも多くの人に床屋談義では無いまっとうな治安に関する情報、知識が届くことを心の底から祈っております。
commented by 遊鬱◆jnhN514s
posted at 2006/12/20 13:50
遊鬱さん、『犯罪不安社会』をエントリーで取り上げていただきありがとうございます!
浜井さんの言葉、「犯罪は正しく恐れ、その上で、効果的で副作用の少ない、人々の生活に優しい犯罪対策を考えるべきであろう。もうそろそろ信仰に基づく刑事政策からは卒業すべきなのではないだろうか」という言葉が全てだと思います。
commented by 芹沢一也
posted at 2006/12/19 20:15
nobさん、こんばんわ!ご心配をおかけしたみたいで…ありがとうございます。

犯罪不安社会は素晴らしいですよ!カノンですよ!もうこれを誉めずに今まで書いてきたマスゴミ、有識者批判はいったいなんだったのかという代物だと本当に思います。きちんとストーリーとしていかにして「体感」治安の悪化がもたらされたのかが簡明にそして読み物としても純粋に面白く分かりますからね。難しいものを難しく書くのではなく(難しいものを書こうと思えばいくらでも書けることは浜井先生ならば諸論文、芹沢さんならば「法から解放される権力」で明らかですから)、これほど噛み砕いて説明される姿はまさに社会の「風潮」を変えたいという情熱のなせるわざだと思います。

>4章の刑務所内の話は衝撃的

もし、この章の話についてもう少し読みたいと思われたなら以前紹介させていただいた「刑務所の風景」を読まれると良いかと。
commented by 遊鬱◆jnhN514s
posted at 2006/12/16 02:51
遊鬱さん、こんにちは。

なかなか更新されなかったのでもしやと思ったのですが…
良かったです。

「犯罪不安社会」買いました。読みやすくて一気に読み終えました。4章の刑務所内の話は衝撃的でした。世の中の常識とは違う正しい現実を突きつけてくれるまさしくカノンでしょうね。
commented by nob
posted at 2006/12/15 13:54