『2022年3月19日、至福の両国国技館 ――3』から続き。

 

▼第八試合 インターナショナル・プリンセス選手権試合

【王者】伊藤麻希vs【挑戦者】荒井優希

 

伊藤ちゃんがどういう人かについては以前大特集したんでそれを読んでもらうとして

『ドラマティックオブザイヤー2021は伊藤ちゃんっしょ! ①』

『ドラマティックオブザイヤー2021は伊藤ちゃんっしょ! ②』

『ドラマティックオブザイヤー2021は伊藤ちゃんっしょ! ③』

東京女子プロレスにはシングルのベルトが2つとタッグベルトの計3つのタイトルがあり、シングル最高峰・東京女子の実力ナンバーワンの象徴はプリンセス・オブ・プリンセス王座だが、

もう1つインターナショナル・プリンセス王座というのがあって、こちらは設立理由が「所属選手の海外参戦の増加への対応およびシングル戦線の活性化のため」となっているが、あまり海外との接点はないのが現状。

歴代タイトルホルダーで記憶に残ってるのはこのタイトルをオシャレ路線に持ってった上福ゆきやデスマッチ路線に持ってこうとした乃蒼ヒカリぐらいか。ちなみに伊藤ちゃんも2019年10月~2020年1月までこのタイトルを保持してたことがあるが、その頃の伊藤ちゃんはまだ強さは足りなくてチャンピオンだったことがあるという印象は薄い。

なんつっても伊藤ちゃんの実力は去年のプリンセスカップ以前と以後とに分けられるというぐらい、あのトーナメントを境に変わったといえる。あの激戦を制して以降の伊藤ちゃんには明らかに貫禄と凄みが身についた。

去年12月に次期インターナショナル・プリンセス王座挑戦者決定時間差入場バトルロイヤルがファン投票で決まった8選手によって行われて伊藤ちゃんが勝ち残り、今年1月のチャンピオン乃蒼ヒカリvs挑戦者伊藤ちゃんの試合はもうかつてと違い伊藤ちゃんが獲るだろうなという予想通り伊藤ちゃんの勝利・戴冠となった。

伊藤ちゃんは海外での人気が強く、また本人もそれを自覚しており、獲ったらアメリカで防衛戦やってこのタイトルの本来の意義を全うさせる的なことを言ってて、俺はヒカリも好きなんでヒカリの陥落は寂しかったけどこのタイトルに相応しいのは伊藤ちゃんであることも事実。

 

一方の荒井優希。

有名アイドルグループSKE48の現役のメンバー=本物のメジャーアイドルである。

高木社長のオファーを受けて去年5月にプロレスラーデビュー(アイドルと並行)。デビュー戦は伊藤麻希&遠藤有栖vs渡辺未詩&荒井優希で、荒井が伊藤ちゃんに完敗ギブアップ負け。

伊藤ちゃんをわかってる人なら知ってる話だし、知らない人は先ほどリンク貼った当ブログの伊藤ちゃん特集エントリ(←伊藤ちゃんヒストリーになっている)を読んでもらうとわかるけど、伊藤ちゃんは地方のマイナーなアイドルグループ出身かつ(本人いわく)クビになっており、それがここまでのし上がってきた苦労の人。

対して荒井は現役のSKEというね。伊藤ちゃんの複雑な感情は推して知るべしといったところだし、実際試合でも記者会見でも伊藤ちゃんは荒井に対して当たりが強い。しかし波乱万丈苦労してきたからこそ素の伊藤ちゃんは優しいし、荒井に対しても

「(荒井の活動拠点の)名古屋と東京で距離もあるのに、頑張って弱音も吐かずに続けている姿はすごい。」「(荒井が)今月発売となったSKE48の新曲「心にFlower」の選抜メンバーに入っていないからだ。伊藤は「そのことが多分、プロレスに対するモチベーションになってると思うんです。悔しいからプロレスで頑張ってやろうという。そういうネガティブな感情をエンジンに頑張るのが好きなんですよ。私自身、負のパワーでここまで来たので」」(東スポWeb『【東京女子】王者・伊藤麻希がSKE荒井優希に不気味な宣告「明らかに1つ足りないものがある」』)

と話してるし、あといつだったかアイドルで行き詰ってるからプロレスに挑戦してみたんじゃないかな?みたいな推察もコメントしてたよね? 伊藤ちゃんだからこそ荒井に対して考え方や心情的に寄り添えるものもまた、あるのではないか?

俺は荒井のプロレスデビューについて当初は特に思うところはなくて、アイドル興味ないし荒井優希の名前も知らなかったし、ただ荒井を獲得したことは東京女子にとって非常にプラスであり大きいとは思ってて、東京女子がより大きくなるにはメジャーアイドルの参加は話題性として非常に武器になる――けどそれは裏を返せばそういうふうにしか思ってなかったわけで、選手としての荒井には期待してなかった。

ところがこの荒井優希、アイドルとしての肩書だけでなくプロレスラーとしてもとんだ大物新人だったのである。

マスコミも観客・視聴者も皆言うことだが、俺も思った、彼女はプロレスラーとして表情がとても良い! 普段の荒井優希あるいはアイドルとしての荒井優希とは違い、リング上では非常に険しく凄みのある表情に一転する=カッコいい。これはプロレスデビュー前には想像だにしなかったことだった。荒井は(当然だがアイドルとして)そんな表情は見せたことがなかった。彼女がプロレスやるってことでその姿を見て幻滅するかもしれないと心配したファンは多かったのではないかと思うが、これが逆だった。カッコいいんである。試合中の顔が非常に魅力的で、これだけでも彼女は観るに値する。

試合結果は負けが多いけど試合自体はショッパイこともなく。

東京女子側としても当然荒井は興行の目玉になるから荒井にチャンスを与えるようなマッチメークが多いのだが、これもまた荒井は会社やファンを失望させるような酷い試合はしない。それなりにちゃんとこなしてるんである。

また彼女には華がある。メジャーアイドルだから当然、という話ではなくて、プロレスラーとして立ち姿とかもいいしコスチュームのデザインもいいし。

だから2021年度プロレス大賞の新人賞を受賞したのも納得なのだった。

そして両国大会で会社が荒井を伊藤ちゃんのインターナショナルに挑戦させようとなったのだろう。(今年2/11に伊藤ちゃんがタイトル防衛直後に挑戦者を募ると背後から荒井が現れどよめきが起きたが、伊藤ちゃんが振り返る時に「ハイパーミサヲ?」と言ったのがウケた。ボケ方がナイスだよ・笑)

そういうわけなんでまだデビュー1年経ってない荒井がビッグマッチでタイトル挑戦となっても反発の声が起きないんである。俺も楽しみなぐらいだった。不思議と荒井に対して反感を持たないのは、上述したような荒井の魅力&そのこなしっぷりから裏で努力してることが察せられるからだろう(あと東京女子の選手たちが排他的でなく優しい人間性であることが大きい)。

いや伊藤ちゃんが勝ってタイトル防衛することはわかりきってる。でも勝ち負けじゃなくて、荒井優希には実際魅力があるんである。

 

この試合のリングアナが元新日本プロレスの あの田中秀和(通称ケロ。今では田中ケロ名義になってるけど)。

昭和の新日本を観てたプロレス少年だった俺的に、ケロが伊藤ちゃんのコールしてるのが信じられない(笑)。それは荒井のコールもだけど(SKE48だもの)。

ケロは去年コロナにかかり生死をさまよい、治るのに半年かかった。最近仕事を再開し始めてて、だから本調子ではないとは聞いてたのだが、実際病み上がり感がかなりあったが、とりあえず治った姿が見れたんで安心。

(ヒカリvs志田戦もコールしてたようなんだけど俺は先述の通りあの試合の冒頭を見逃してたんで、後から知った。)

 

ケロ「デビュー10ヵ月、初のベルト挑戦、荒井優希入場」

 

ケロの伊藤麻希入場アナウンスに次いで、伊藤ちゃんの入場曲『Brooklyn the hole』のロックなイントロが重低音で両国国技館にド派手に鳴り響く中、トキヲイキル(伊藤ちゃんがLinQ降板後に籍を置いているガールズ演劇ユニット、らしい)の原直子・岸田麻佑に次いで伊藤ちゃんが現れ、いつもは1人で踊ってるが両国は伊藤ちゃんもスペシャルバージョン、3人で踊って、そしていつもの口パク歌唱(苦笑)で花道をリングへ向かう。

 

場外戦で伊藤ちゃんは荒井の首をマイクスタンドで締め上げると、いつもの「世界一かわいいのはぁ~? 伊藤ちゃーん! ありがとぉーっ!」から倒れてる荒井に蹴りを入れる。

 

と、伊藤ちゃんはテレビカメラに気づくと…

 

荒井優希をほったらかしてカメラにズンズン向かっていきドアップで画面にピース!

こういうとこも伊藤ちゃんの真骨頂なんだよな(笑)

 

戻ってきた伊藤ちゃんにエルボーをブチ込む荒井だが、伊藤ちゃんは荒井を抱え上げると鉄柱に叩きつける!

 

荒井のスコーピオンデスロック。フェイバリットホールドのFinally(かかと落とし)も決めてみせた。

最後は伊藤デラックスでギブアップ負けだったけど、ちゃんとそれなりの試合はしたと思いますよ。

当初プロレスは去年いっぱいだったか1年間だったかの予定だったけど延ばしたと言ってた荒井。“アイドルがプロレスに挑戦”の範疇では収まらない、ちゃんと魅力ある「選手」になってるんで、もう数年はやってほしい…。

 

▼セミファイナル プリンセスタッグ選手権試合

【王者組/マジカルシュガーラビッツ】坂崎ユカ&瑞希 vs 【挑戦者組/白昼夢】辰巳リカ&渡辺未詩

 

坂崎ユカも好きな選手の1人。なかなかかわいい。いつ頃からか美人さんにもなってきた。ところが喋り出すとアニメみたいな声で、なのに言い方が男の子っぽいというかヘンな喋り方なのも奇妙な魅力がある(笑)。それでいてファイトスタイルはストロングな感じ。ちゃんとした、かつ力強いレスリング。ハードヒッティングな打撃。顔つきも怖くなる。ところがシリアスとおフザケと両方兼ね備えていて、コミカルな試合では楽しませて笑顔にもしてくれる。

瑞希は個人的にはあまりピンとこなくて。時々出る関西弁はいい感じだけど。

渡辺未詩は前にも言った通り文句なく逸材だと思っている。カワイイのに、アイドルなのに、パワーファイターというギャップ。ハンマースローやタックルなどでの盤石の安定感。ピッチングみたいな振りかぶりからのブン殴りのヒットぶりも力強い。さらにはダブルスラム(2人まとめてボディスラム!凄い!)、あらゆるあり得ない状況から決めてみせるジャイアントスイング、挙句の果てには2人まとめてジャイアントスイング!(驚愕!) ジャイアントスイングの前にポニーテールをキュッとやるのもカッコいい! あと笑う時の派手な屈託ない笑い声も好き!

辰巳リカは正直あまり好きじゃなかったのよ。フェイバリットホールドにしてる技の決まりがどうにも悪い。ヒップアタックとかも雑なんだよね…。

でもいつだったかイメチェンしたろう? ヘアスタイル変えた時、こっちの方がいいじゃんと思った。それからコスチュームをチャイナ風に変えたが、あれいいね! ルックスもメイクによるのかなんなのか昔より明らかに良くなってるし。

それから辰巳リカの試合も敬遠せず見るようになって、試合に限らず山下にビンタされて張り返した時なんかもだけど(リカがプリプリ王者だった時に山下相手に防衛戦やろうとして、まぁ明らかに山下の方が強いんだけどリカは「私に挑戦する覚悟はあるのかよ!」と身の程わきまえず言い放ち失笑ものだったのだが次の瞬間山下がリカにビンタしたら客席からも笑いが起こった。ところがその瞬間 頭のネジが吹っ飛んだかのようにリカがブッちぎれて張り返して山下が呆気にとられるのが見てて面白かった・笑)、なんかハチャメチャというか破れかぶれなとこがいいなー、と。

白昼夢と角田奈穂の3人タッグの試合後に奈穂さんが「私を投げたよね?」と未詩に言うと未詩が気のせいですよとかすっとぼけて、したらリカが「オマエ何言ってんだ!」と奈穂さんに腹パン入れたのもウケた(笑)。

そんなこんなで今では辰巳リカは好きですよ。

 

両チームそれぞれ入場時の曲の音の迫力がたまらんかった。後でネットにアップされた映像の音ではあの時の重低音の質感・音圧が(当然だが)まったく欠落している。生観戦して良かった! あれは現場でないと体感できない!

白昼夢もスペシャルバージョン入場、神輿に乗ってワイワイわっしょい楽しく登場だ!

 

一方のマジラビもスペシャル入場、まず星空チックな照明や月・流れ星などの映像がキレイだった。

 

そして花道を歩いてではなく通路をゴンドラに乗ってリングへ向かうという… アイドルかよ!

 

あ! あ! 未詩ダブルスラムいく!?

 

2人まとめて投げたァ――ッ! 生で見れた!

 

そしてポニテをキュッとやった! 見れるのか!? 見れるのかぁ――っ!

 

出たぁーっ 驚愕の2人まとめてジャイアントスイング! やってくれた! 生だ生!

 

リカも破れかぶれ感あるヒップアタックを決める。

 

未詩がリカを抱え上げて相手にブン投げる、未詩のパワー+リカの破れかぶれぶりが相乗する白昼夢やりたい放題ツープラトン攻撃も炸裂!

 

しかしマジラビも2人で肩組んで一緒にコーナーから飛んでダイブするキ〇ガイダイビングボディアタック「トイストーリー1」を炸裂させる!

また瑞希は凄技「渦飴」(ただのボディアタックでなく、ボディアタックしてから落下するまでの間にクルクル回転する、高木も驚いた技)も繰り出した! 生渦飴! 瑞希もビッグマッチ仕様だ(渦飴はそうそういつも出す技ではないんである)。

最後は坂崎が魔法少女にわとり野郎でリカにフォール勝ちでタイトル防衛。 (「魔法少女にわとり野郎」は坂崎の技の名前(ものすごいネーミングセンス・爆笑)。トップロープ(スワンダイブ式)からファイヤーバードスプラッシュ(450゜つまり1回転よりさらに回っての前方回転で相手にボディプレス)する技)

 

…試合後バックステージでのコメント時、白昼夢は泣いていた。

坂崎とリカは東京女子より前からの付き合いで音楽ユニットDPGからすでに一緒で、山下実優・中島翔子・KANNA・木場千景がリングデビューしたDDT両国大会にも2人はアーティストとして参加していた。その後坂崎が誘って2人は東京女子の練習生となった。

遡ってみると坂崎とリカも現東京女子選手の中で団体のかなり起点に近いところにいた。だから2人にとっても東京女子が到達した両国大会は感慨深いはずなんである。

ただし2人のプロレスラーとしての歴史はまったく異なる。

リカは3度骨折してトータルで2年近くも欠場していたことがある。キャリアを重ねていく坂崎と、足踏み状態のリカ。

シングルでもすっかり距離が開いたが、タッグ戦線でも2017年の初代プリンセスタッグ王座決定トーナメント決勝で坂崎&中島がリカ&黒音まほ(2018年に東京女子を卒業)に勝って戴冠している。リカ3度目の欠場中の2018年に坂崎はマジラビでタッグ王座再戴冠。リカは2019年にやっと白昼夢でタッグ王座戴冠(リカのベルト初戴冠)。その後タイトルホルダーは入れ替わり現在のタッグ王者はマジラビ。

そんなあれやこれやがあって、今年のタッグトーナメントで白昼夢が優勝して両国でのマジラビへのタイトル挑戦が決まった。リカにとっては東京女子10年という歴史とはまた別に個人ヒストリーの面で、この記念すべき両国大会で白昼夢で坂崎に挑む(そして勝ちたかった)という意義や感慨深さがあったのではないか? 。

 

『2022年3月19日、至福の両国国技館 ――5』に続く。