『ドラマティックオブザイヤー2021は伊藤ちゃんっしょ! ②』から続き。

 

東京女子で毎年夏に行われるシングルのトーナメント、東京プリンセスカップ。今年も開催された。

伊藤ちゃんはトーナメント組み合わせ抽選会&記者会見で同じブロックに瑞希がいることから、瑞希と当たれることを希望&意気込みとして語ってた。

そしてトーナメント開始――

伊藤ちゃんは7/31の準々決勝で左目の下から流血。なんとか勝ち進み4強に入ったが、のちにこのケガが顔面骨折(左頬骨不全骨折)であることが判明!

 

しかも8/2、4人の準決勝試合の組み合わせ抽選が行われ、伊藤ちゃんの相手になったのは瑞希だった!

展開としては運命的。しかし伊藤ちゃんの状況は心身ともに最悪… (のちに語った話ではメンタルも底辺まで落ちて、もう辞めたいと実家の母親に電話で吐露したぐらいだったそうで。)

人生とはうまくいかないものだ…。

ましてや瑞希は2019&2020年のプリンセスカップ2年連続覇者でもある。誰もが瑞希が優勝戦に勝ち上がると思っていたし、いや伊藤ちゃんだと思ってたと言い張る人もいるだろうが、それは「そう信じてた」というより「そう願ってた」というのが実際だろう? 俺もそうだった。

 

そして迎えた8/14準決勝と8/15優勝戦。

観戦に行きたかったんだけどいろいろと余裕がなくて行けなくてねぇ…両日ともニュース記事が出るのを今か今かと待ってた。

まず8/14、ベスト4のもう2人の準決勝は中島翔子vs渡辺未詩で、中島が決勝に進んだ。

渡辺未詩は俺は逸材だと思ってて。アイドルなのにパワーファイター。一見すると普通にアイドルなのに2人まとめてボディスラムとか凄いし、得意技であるジャイアントスイング(挙句の果てには2人まとめてジャイアントスイング!)だけでなくハンマースローで相手を飛ばす時の動きなど安定感も素晴らしい!

だから個人的には渡辺未詩に勝ち上がってほしかったけど、中島は東京女子の中ではキャリアもあるしトップ選手の一角なんで、順当だったとはいえる。

一方、瑞希vs伊藤麻希は――

 

 

伊藤ちゃん瑞希に初勝利!

骨折が完治してない状態で瑞希に勝ったのは今回の伊藤ちゃんがいかに魂懸けてたかが出たということだろう。

「「口だけで結果もろくに出せなかった伊藤麻希がここまで来れると思った奴どこまでいるんだろうな?顔面骨折してもな、それでも勝って明日優勝したらこんなにかっこいいこともないよな!やるよ!絶対やるよ!ちょっと伊藤こんなんだけど、あんまりハッピーエンドとか信じて無くてさ、でも、伊藤が、その証拠になるからな。明日伊藤が優勝して、ハッピーエンドがこの世界に存在するってことちゃんと証明してやるよ」と観客の思いを一心に背負い拍手を浴びながらリングを後に。」(Q)

リング上で、お前のおかげで強くなれたと泣きながら瑞希に感謝の言葉を述べた伊藤ちゃん(瑞希は「優勝してね!」と返した)。

泣き崩れる伊藤ちゃんだが…

テレビカメラに気づいていきなりニッとピースする(笑)。俺も外人視聴者もバカウケ! こういうトコが伊藤ちゃんのナイスなとこなんだよな!(笑)

 

退場時、観客席を振り返り、テレビカメラに向かって万感の笑みを見せた伊藤ちゃん。

しかし次の瞬間には一瞬で不敵な顔に切り替え中指を突き立てる キリッ

カッコいい!

「バックステージでは「顔さ、痛いからさ、明日ホントに頑張る。絶対中島翔子もバカじゃないから多分、覚悟してるけど……伊藤、いいんだ、もう。人生なんかどうでも良いって思っちゃって。人生なんかとっくのとうに棒に振ってるからさ、お客さんが楽しかったらそれでいいかなって思ってる。お客さんも『コイツがいい人生送ってるから俺も』とか思ってくれると思うし。相手が強いことは分かってるから、当たって砕けろです」と儚げな笑顔を見せ、翌日の後楽園ホール大会で行われる決勝戦へと思いを馳せた。」(Q)

頂点まであと1つ――。

だが試合後のコメントが悲壮感というか…あまりに切なくてこれが最後の感すら漂うのが気になる…。

 

しかし!

翌8/15決勝戦、中島翔子vs伊藤麻希。

伊藤ちゃんは手負いのうえ普段でも観客が“あぁ、もう終わりかな…” “また負けかな…”と思う局面を凌ぎ続け、まさかの勝利! 優勝! 感涙である!

 

伊藤麻希というコのこれまでを知ってると、この優勝はほんと感動的だった。

そして優勝後の発言も感動的だった。

(リング上でのマイク)「ずっと踏んだり蹴ったりの人生だった。アイドルクビになったりとか、小顔整形しても全然小顔にならなかったりとか、借金とかいっぱい背負ったし、トーナメント中に顔面を骨折するしさ。でもハッピーエンドって本当にあるんだなって… バッドエンドなんかなくてさ、それは物語の途中なだけで、ハッピーエンドって絶対に存在すると思う」

伊藤ちゃん名言。またこれは押井守の言うところの“勝負はやめないかぎり負けは確定しない”と同義だ。

(バックステージでのマスコミへのコメント)「人って幸せになれると変わるんですね。ずっと報われない人生ばかり歩んできたので人の幸せを妬んでいたんですけど、今はすごく晴れやかな気持ちがします。諦めなくて良かったな。ホントは、もうダメなんじゃないかって思ってたんだよね。「顔面骨折しても優勝したらカッコいいだろ?」とか強がって言っちゃったけどさ、ホントはさ、人生ずっと一緒に歩んできた伊藤の大事な顔に一生モンの傷負いたくないよって思ったんだよ。でも、伊藤の人生なんてとっくのとうに棒に振ってるからもういいやって。お客さんが楽しんでくれたらそれでいい。伊藤はこれまでいっぱい間違った人生を歩んできたと思ってたけど、伊藤の人生に何一つ間違いはなかった!伊藤がこうやって歩んできた人生は全部正解だった!だからみんなも諦めないで。バッドエンドなんかないって思ってる。物語の途中なだけだよ。みんな前を向いて」

としみじみと語った。

これまでの伊藤ちゃんを知ってると感動を禁じ得ない心穏やかなコメント。

あと高木からの「伊藤麻希、良い顔してる!おめでとう!」のツイートもグッときた。

伊藤ちゃんのプロレスの出発点はアイドル時代に高木に頭突きと中指立てをカマしたあの日だ。ヒストリーを知ってると高木のツイートは感慨深い&優しさに満ちている。

 

翌日の会見でも伊藤ちゃんは穏やかに語った。

「ずっと報われない人生というか、満たされない人生を送ってたんだけど。初めて結果を残して一番になってみたら、途端に性格が丸くなったんです。全部に対してやさしくなれるというか。たぶん人のことを見れる余裕ができたんでしょうね。今はすごく幸せな、穏やかな気持ちで過ごしています」

(瑞希と中島翔子に対してコメントがあればと聞かれ)「感謝です。負けてたらこんなこと言わなかったと思うんです。初めて感謝するという感情が沸きました。2人とも伊藤が持ってないものをたくさん持ってるから、リスペクトしてる。こんなこと昔だったら絶対言わなかったと思うんだけど。2日連続いい試合ができたと思うんです。それは2人に実力があって、伊藤のおかげじゃなくて、2人のおかげだと思ってる」

そして、かつて瑞希に負けてた頃に言ってた主役脇役云々発言があったわけだが、この会見で伊藤ちゃんは(優勝カップを指して)「これを持った時に主役になれたと思った、初めて」

 

ただ、人間・伊藤麻希としては率直に素直に祝福してあげたいのだが、破天荒さやアナーキーさが売りだったプロレスラー・伊藤麻希はこれからどうなってしまうのか――それが非常に気になったのだが、11月の山下とのタッグで臨んだタッグタイトルマッチ調印式では伊藤ちゃんのキレっぷりが豪快に炸裂で安心♪ やっぱ伊藤ちゃんはこうでなくちゃ。(どうな様相をカマしたかはYouTubeで東京女子公式がアップしてる動画『11.25後楽園ホール大会直前記者会見 山下、謎の愛の告白!混沌のプリンセスタッグ調印式!』で見れる)

 

2015年のミスiDで伊藤ちゃんは佐久間宣行賞というのを受賞している。

ミスiDというのは2012年にスタートし現在も続いているアイドル発掘みたいな、それも

「「ルックスやジャンルにとらわれず、新しい時代をサバイブしていく多様な女の子のロールモデルを発掘する」。その頃(※2012年)はまだ誰も見向きもしなかった「多様性」を全面に掲げ、ルックスや、定型の女の子らしさ、たくさんの「こうじゃなきゃいけない」から女の子が脱却して、女の子である前に、自分であることを祝福して生きられるように。やりたいことを諦めず、こんなふうに生きてもOKなんだという"新しいロールモデル"を一人でも多く送り出したい。」

「ムーミン谷では、まるで違う容姿やややこしい性格の、ムーミンやスナフキンやミイやニョロニョロ、ニンニやトフスランとビフスランたちが、誰もハブらず、ハブられず、一緒に暮らしています。時にぶつかり喧嘩もするけど、お互いを尊重し、好き勝手に安心して自分らしく生きられる場所。ミスiDもいつか、そんなムーミン谷のようになってほしいと願っています」

というプロジェクトで、

伊藤ちゃんに対する審査員たち(15人中 男性6人・女性9人)のコメントは感動的なぐらい絶賛に近い。

「自虐的な雰囲気を醸し出していましたが、(中略) いろんなものに負けずに、頑張ってほしいです!」(男性審査員)

「人を元気に楽しくするユーモアが存分にある子で、会ってとても好きになりました。(中略) 歳を重ねれば重ねるほど周りのほうからバタバタと倒れ自分のけがれない才能だけが荒地に遺ることでしょうそのときヤるだけです。生きのこりましょう。」(女性審査員)

「誰かと比べて、私はセンターになれないから駄目とか言っていたけれども、私はそういうのではなくて、麻希ちゃんなりの輝き方で、自分の立っている場所がセンターなんだと思って輝けばいいんじゃないかな? みんなはそれを見ていると思います。」(女性審査員)

「存在そのものが異質だし、謎の迫力もある。言うこと言うことがほとんど自虐で、それでもそんなに後ろ向きな気持ちにならずに笑うことができる。当人からしたらシャレになってない事ばかりでしょうし、面白がってていいのだろうか、という気もしますが、伝え方が上手いので上質なギャグになってしまうんですよね。賢くなければそんなポジションにはなれないでしょう。心を病みすぎないかどうかだけが心配ですが、トップレベルのコメディエンヌになれる可能性感じます!」(男性審査員)

「すごく頭の回転が速くて頭が良いからこそ、いろんなことに悩んできたんだなって感じました。これからはもっと自分の持ってる才能どんどん世に出していってください!」(女性審査員)

「この明るさと元気さには、人一倍苦労してるからこれだけ人の心を動かすのかなと思いました。(中略) 地頭もいいし、コミュ力が高いので、将来大活躍すると思います!もう、自虐ネタを卒業してほしい!!」(女性審査員)

「重くドス黒い闇の体験なのだけど、ちゃんとそれを笑いというエンターテイメントに変えられるその強さは、冗談じゃなくある意味天性の才能。入賞とはほんとに紙一重で、結果、佐久間Pが個人賞に選んでくれたとき期せずして拍手が起こったのは、つまりそれほどに「伊藤麻希をテレビで見たい」という選考委員共通の想いだと思うのです (中略) 伊藤麻希が「アイドルである」ということは本当の意味でいろんな人の希望になりえる。(中略) 一刻も早く全国区になるべき。なってください。」(男性審査員)

「たくさん戦って、たくさんうまくいかなくて、でもこの世界でやってこうという意思を感じました。」(男性審査員)

「今年の女性審査員ブースいちばんあっためたで賞。(中略) 大丈夫。(中略) たぶんみんな力貸してくれる。あなたになら貸したくなる。」(女性審査員)

「人生色々あると思うけれど、喋りも上手いし、自己表現能力も高いので、捻くれずに破天荒さそのままストレートに見せつけてみてほしい!」(男性審査員)

(G)

この当時の伊藤ちゃんはまだマイナーだった時代であり まだ孤独感と鬱屈の真っ只中の頃だったと思われるが(というかコレが開催されたのが2014年なんで、伊藤ちゃんが自殺しようとした年である)、見てくれている人はちゃんと見てくれている。評価してくれる人はちゃんと評価してくれる。

「この7年後、女子プロレスラーとして全米第2位の団体のメインイベントに立つことを彼女はまだ知らない。」(O)

先見の明。ミスiDの審査員たちの評価は正しかった。

「たくさんの「こうじゃなきゃいけない」から女の子が脱却して、女の子である前に、自分であることを祝福して生きられるように。やりたいことを諦めず、こんなふうに生きてもOKなんだという"新しいロールモデル"を一人でも多く送り出したい。」

まさに伊藤麻希はそうなった。

また、東京女子プロレスは空気が良いことで知られている。今年から東京女子に参戦するようになったSKE48の荒井優希いわく、

「所属選手の方たちが、全員とにかく優しい!」「今まで私が生きてきた中で一番優しくて温かい世界だと感じています。」「私がプロレスを続けたいと考えている一番の理由は、東京女子の先輩たちに出会えたことなんですよ。」(P)

温かい世界・居心地の良い世界は、世の中のどこかには必ずある。

「ムーミン谷では (中略) 誰もハブらず、ハブられず、一緒に暮らしています。(中略) お互いを尊重し、好き勝手に安心して自分らしく生きられる場所。」

自分が自分のままで在れる場所、村社会的な輩たちのいない場所、自分の個性と能力を最大限発揮でき、自分が輝ける場所に、伊藤麻希は遂に行き着いた。

彼女が2014年に自殺していたならここに辿り着く前に終わっていたし、伊藤麻希から感動や楽しさを与えてもらった人は多いが それも丸ごと無かったことになる。今年のプリンセスカップの感動の優勝も無かった。

人生の数々の“こん畜生”と思うこと、なかなか勝てない相手、そして屈辱的状況の自分自身に向かって中指を立て続けて頑張ってきた。

伊藤ちゃん、生まれてきてくれて、そして生き続けてくれて本当にありがとう!

 

 

 

【引用元】

A.『「私は弱者のカリスマ」アイドルをクビになったレスラー・伊藤麻希の究極ポジティブ論』(新R25 - シゴトも人生も、もっと楽しもう。)

 

B.『伊藤 麻希さん|誰にどう言われても、マイクは譲らない』(another life.)

 

C.『「闘うクビドル」伊藤麻希がプロレスデビュー4年目で見た輝く「世界」』(Rolling Stone Japan)

 

D.『『今こそ女子プロレス!』vol.1伊藤麻希 前編 「なんで自分はこうなんだ!」悩み続けたアイドル時代。伊藤麻希はプロレスに生きる道を見つけた』(Sportiva)

 

E.『自虐とブスいじりでブレイクしても心は病んでいた。“闘うクビドル”伊藤麻希が選んだセカンドキャリア』(Dybe!)

 

F.『【インタビュー】伊藤麻希、“アイドル界のイロモノ”から“プロレス界のカリスマ”へ「死にたくなったら、伊藤の試合を見に来い!」』(いとわズ)

 

G.『ミスID 10year Anniversary』(https://miss-id.jp/10year_anniversary) 及び 『ミスiD2015 佐久間宣行賞』(https://miss-id.jp/nominee/3191)

 

H.『アイドルグループをクビになった女子レスラーが「クビになる全てのサラリーマンをプロレスで応援します!」とエール!』(バトル・ニュース)

 

I.『元LinQ伊藤麻希、前代未聞の“卒業報告”が話題「かっこよすぎ」「ファンになった」』(モデルプレス)

 

J.『アイドル女子レスラーが整形による借金をリング上で激白!』(バトル・ニュース)

 

K.『『今こそ女子プロレス!』vol.1伊藤麻希 後編 プロレスラー伊藤麻希が強くなって失った「生き様」。見せる「必要がなくなった」と言い切れる理由』(Sportiva)

 

L.『【週末は女子プロレス#20】アイドルをクビになった"自称クビドル" 東京女子・伊藤麻希の夢は東京ドームのリング』(ENCOUNT)

 

M.『“アイドルをクビになった女子レスラー”伊藤麻希がプロレスファンに「脇役は主役に影響を与えるもの。名脇役になってお前らの人生変えてやるよ!」とメッセージ!』 及び 『【試合詳細】8・25 東京女子プロレス後楽園ホール大会 【プリンセスタッグ】沙希様&操vs山下実優&渡辺未詩 【インターナショナル・プリンセス】万喜なつみvsジゼル・ショー 中島翔子&里歩vs舞海魅星&鈴芽 瑞希vs伊藤麻希』(バトル・ニュース)

 

N.『【遠藤舞×伊藤麻希】アイドルを経てボイトレ講師・プロレスラーとして輝くふたりが語る、セカンドキャリアと美容整形(!?)』(耳マン)

 

O.YouTube『ミスiD2015 EntryNo.8 伊藤麻希 自己紹介動画』(2014/08/01アップ)のコメント欄より

 

P.『プロレス大賞新人賞・SKE48 荒井優希「アジャコング戦、気がついたら裏拳を喰らってたんこぶが」』(ENTAME next)

 

Q.『顔面骨折の伊藤麻希がトーナメントに強行出場し決勝進出!「ハッピーエンドがこの世界に存在するってこと証明してやるよ」』(バトル・ニュース)