第二回 正しい動きと斬り方講座最終回。
一回で終わらせる予定が長々と三回になってしまいましたw
 
 

第二回 前編

 

筆者の意図が上手く伝わらない恐れがあるので初めに。

当記事は、プラモデルを用いた古流剣術における剣の振り方を再現したものであって

模型レビューの類では御座いませんので誤解の無きように。

 

 

まずは前回できなかった突きから。

誤った例。

直立または軽い跳躍から腕の力だけで行う突き。

所謂、剣道突き。

竹刀を「当てる」ならこれでOKなんでしょうけど

真剣ではこれじゃまず刺さりません。

腕の力だけの突きは実は貫通力がかなり低く、

対象に接触した際に表面の反発力に負け、下手すると刀が吹っ飛んでいきます。

旧日本軍の記録に豚の臀部へ剣道突きを入れたところ軍刀が吹っ飛んでいったというのがあるとか。

動物には筋肉の反発があるので更に難度が上がるのが容易に想像できる。

 

正しい例。

まずは足運び。
突きの際の足運びも基本の歩き方(前編参照)と全く同様。
重心移動が肝となる突き技にはそれがより顕著に表れます。
突き技は体幹が全てと言っても過言ではない。
因みにワタクシ、とある時期から体幹をもの凄い意識する様になったのですが
キッカケはしっかり腰を入れた突き技が絶対安定することに気付いたから。
それまでは突き技が苦手だったのですが今や大得意ですw
ガトチュ・エロスタイム!!
上半身のバネのみで繰り出す牙突零式は本当に上半身だけで突いたら絶対刺さりませんw
 
続いて腕。
ただ腕を前に出すのではなく構えた位置から前腕で柄を絞りながら相手に向かって突き出す。
この動作、ある程度の経験がある人ならば実際にやってみて凄く腑に落ちると思います。
そのくらい自然な形で突きが出る。

 

まとめると
腰を落として前進と同時に前腕で柄を絞りながら突き出す。
青眼に構えた位置からこの動作を行うと自然と相手の鳩尾へ突きが入ります。
切先を少し上げれば喉元を狙えるし、
半身構えの片手平突きで肋骨の隙間へ突き入れる変化技にも移行できる(まさに牙突の形)
 
兎にも角にも腰で突けということ。
腰の入ってない突きほどしょぼいものはないw
 
 
ここから応用編。

誤った例に散々、死に体・死に体と書いてきましたが説明していきましょう。

まずはこちら、

最もよく起こるパターン

前回書いた剣の止めが出来なくて切先が下を向いてしまっているヤツ。

そして居合道師範クラスの人達さえも気付かず平然とやってるヤツ。

止められない刀の勢いに加えて、手首が曲がり完全にコントロール失ってる状態なんですこれ。

たとえ僅かな時間であっても、その一瞬の隙が命取りになる。

 

つまりこういう事ですよ

攻撃を避けられた!!

自分の命を預けるべき刀が下を向き制御不能。

相手は既に攻撃体勢に移行している(敵の動きは適当ですw武術的なものではない)

は…はやい……ぐふっ!

へんじがない ただのしかばねのようだ

 

刀がコントロールを失っているので完全無防備状態を自ら作ってしまった。

その隙に懐に入られ一太刀浴びせられて絶命してしまいましたとさ。

 

この症状は正しい振り方を身に付ければ改善できるはず。

地面を叩いて刀や床を傷つける恐れがあるのでしっかり見直しましょう。

 

 

試斬でよく起こるダメなパターンLv1

本当は切先がもっと下がる(可動範囲の問題で再現不可)

剣の止めが出来なくて勢い余って横に流れるヤツ

相手から剣が外れるのは剣術における死に体です。

見てるこっちが怖いので正しい動作を身に付けてください。

素人の試斬体験でよく見る姿(脱力自由落下バージョン)もこれ。

 

つまりこういう事ですよ

攻撃を避けられた!!

身体の重心が横に流れて身動きが取れない

相手は既に攻撃体勢に移行している(敵の動きは適当ですw武術的なものではない)

あ、隙だらけ

ざくりぐさりぶすり

ぎゃーーーーーーー

 

前方に敵が居るにも関わらず身体ごと剣が横に流れたがために自ら隙を作ってしまった。

見事、その隙を突かれて討ち取られてしまいました。

身体が横に流れるということは重心も横に傾いてしまいます。

人間の身体の構造上、重心が傾くと元に戻るまでに僅かな硬直時間が発生します。

武道やってる人なら覚えがありませんか?

 

この症状も頑張ればまだ改善できるレベルだと思うので

正しい振り方と正しい動きをしっかりに身に付けましょう。

刀を自分の足に当てて怪我しないように。

 

 

試斬でよく起こるダメなパターンLv2

勢い任せに斬って剣も身体も止められず思いっ切り横に流れるヤツ。

こちらも素人の試斬体験でよく見る姿(力自慢君バージョン)

…まあ、こちらも素人どころか未熟な腕前の経験者がよく起こすんですけどね。

身体が横に流れるのは剣術における死に体です。

見てるこっちが怖いのでもっと腕を上げてから挑戦してください。

 

つまりはこういう事ですよ

なにぃ!?避けただとッ!!

やべー!身体が固まって動かん!!

ふはは!馬鹿めがーーー!!

ウボアアアァァ!!

 

身体が横に流れれば流れるほど硬直時間は長くなり、元に戻るまでの時間も長くなります。

当然ながら隙だらけの時間が長くなる。

相手が攻撃体勢に移行していなくてもその時間すら与えてしまうわけです。

 

基礎が成っていない証拠です。

もっと基礎練習を積んで正しい振りと動きを身に付けてから試斬に挑戦してください。

怪我してからじゃ遅いんだよ。

 

 

試斬でよく起こるダメなパターンLv3

たまに見る試斬で目も当てられないヤツw

力任せに叩き斬るとこれになります。

剣が流れに流れて明後日の方向にふっ飛び、身体もありえない方角を向く。

完全なる死に体ですw

見てるこっちが怖いのでもう斬るのやめてくださいませ。

一歩間違えたら大怪我するよ。

 

当然こうなる

なにぃ!?我が渾身の一撃を避けただとッ!!

マズイ!身体の自由がきかん!!

お前馬鹿じゃねーの

ぬわーーっっ!!

 

控えめに言って酷い。

説明するのも馬鹿馬鹿しい。

 

論外なので

徹底的に基礎練習を叩き込みもっともっと経験を積んでください。

今のままではあまりにも危険過ぎる。

自分どころか周りの人にも命に係わる様な大怪我をさせてしまうかもしれません。

 

 

Lv3より上に行くと渾身の力で巻き藁をぶっ叩いて凄い音立てながら試斬台を倒すヤツ。

 

 

 えー、はい。

ただ斬れりゃ良いってもんじゃないんだよ。

姿勢が崩れに崩れてただ斬るだけで良いならそれはただの大道芸

姿勢を崩さず斬ることが真の武道。

武道とは武術。

武術とは戦うための技術。

戦いで使いものにならない大道芸は武術にあらず。

 
そして、試斬はあくまで試斬であって
こればかりやっていても正しい武術の動きは身に付きません。
普段の形稽古通りの動きで正しく物を斬ることが出来るか。
これが全てです。
形稽古がいかに大事かという事を試斬を通して再認識できるかと思います。
そういった事から不伝流では段位取得者のみ試斬を許可しています。
 

 

続いて正しい例。

まずは前回のおさらい
身体が相手の方を向いている
身体の重心を安定させたまま移動
腰を入れて斬る

脇を締める

肘は大きく曲げない

柄を絞る

対象を引き斬る

剣を身体に引き寄せる

剣を定位置で止める(止の点でもう一段柄を絞る)

切先は下に向けない

 

試斬の場合も同じ。

普段の形と同じ様に斬るだけ。

 

攻撃を避けられた場合であっても

切先が相手の方を向き、身体の重心も安定していれば

そのまま間髪入れずに追撃に移行することができます。

こちらは可動範囲の問題で再び振りかぶりに行ってますが

斬り下ろした切先の位置からそのまま突きに持っていく方がより合理的。

他にも切先を変化させ切り上げor水平斬りに持っていったりも可能。

相手との間合いに応じて様々な動きへと変化させる事が出来ます。

こういった瞬時に剣を変化させる動作は

↑この持ち方だからこそできるわけで

↓こちらの持ち方では

確実に一呼吸遅れ、瞬時に剣を変化させるとはいきません。

実際にやってみれば一発でわかると思います(たぶん初心者にもわかるはず)

 

おまけ

我ら不伝流では回避・体転・攻撃の動作を一呼吸で行うため

横に避けられたと思った瞬間に首が落とされますw

回避された=死となりますw

 

 

昔、youtubeかなんかで見た演武(演舞?)の動き。

殺陣かと思って見てたのですが、実は列記とした武道と知り驚愕…

まあ、迫力があって見た目にはカッコイイんですがね…

向かって左側に居る敵を斬った想定の技の様ですが…

身体がヒン曲がって重心がおかしな方へ向いてる

刀が明後日の方向へブッ飛んでる

相手に頭を突き出している

死に体要素が三つも重なってまして…

 

つまりはこういう事よ…

避けられた

あ、隙だらけ

はい、さようならw

身体の重心がブレているので反撃を認識できても咄嗟に身体が反応出来ない。

自分の命を預けるべき武器が相手の方を向いていない。

更には武器よりも自分の頭の方が前に出て、尚且つ相手の方を向いているので

「どうぞ首取ってください」と言っている様なものであるw

完全に殺陣動きなんですよこれ。

ある意味、一撃必殺(防がれor躱されたら自分が死ぬ)

 

上体が大きく曲がると一方向へと重心が偏ってしまいます。

この偏りには必ず硬直時間が発生し、咄嗟に別方向へ身体を動かす事ができません。

つまり、この硬直した瞬間が完全に無防備な状態。

何度も言うけどこれが死に体。

人体の構造上、これに抗う事は絶対にできません。

僅か1~2秒程度の硬直ですが1~2秒もあれば人は簡単に殺られますw

 

 

同じく、上記の様な低く沈み込む形であっても本来の武術の動きはこう。

足位置は逆だが、不伝流無一剣・壱の形トドメの一撃がこれとほぼ同じ。

渾身の一撃を避けられても…

 

そのまま追撃の突きを入れる事ができる。

この場合も、腕だけで突くのではなく

右足前のまま前進と同時に腰を入れて突く。

因みに後ろに避けられた場合、相手は追撃の突きを入れる格好の的と化しますw

 

横へ避けられた場合

因みに、現代武道に横の動きはほとんど見られない。

本来の日本古武術は横の動きこそが最重要なんだけど…

 

間髪入れずに刀を引き寄せ

ちょっと腕を引き過ぎましたね…

ここまで引く必要はなく、手首から軽く左側へ曲げる程度で十分。

 

体転しつつ水平斬りへ変化。

左足前に入れ替えているが、間合いによっては右足前の切り上げも可。

現代の剣道等では右足前であることが大前提ですが、

古流には左足前の技は至極当然に存在します。

いかなる場合も臨機応変に。敵は待ってくれないんですよ。

 

 

最後に

前編のド頭にて、今や世界的に広まった柔道を見て

「こうやって武道の本質が失われて行くだろうなと実感」

と思いの丈をぶちまけさせていただきましたが

昨今の斬れれば良いだけ道や殺陣演武(演舞?)道の動画なんかを見てると

居合の本質もまた失われて行くのを強く実感しています。

そもそも居合とは元々が暗殺術なわけでして、

鞘の内から始まり相手に気取られない様に抜くのはそういうこと。

今や不意の攻撃に対する防御の技という誤解が大きく広まっています。

 

太平の世を迎えた江戸時代260年の間、

一時期は武術そのものの存続自体が危ぶまれるほどに衰退してしまいます。

徳川吉宗治世の武芸奨励によって再び武士の間で武芸が隆盛しますが、

時すでに遅しだったのかもしれない。

この時点で失伝して久しい戦国時代発祥の兵法も数多くあった事でしょう。

 

幕末期の剣術流派の写真が意外と残っており、検索するとネット上でも閲覧することができます。

そしてあまりにも姿勢が大きく崩れている事に驚愕します。

少なくとも既に幕末期から剣術の形が崩壊していた事がよくわかります。

これが現代に到るまでに少しずつ少しずつ崩れて行き、今や目も当てられない状態になっていると…

 

よくyoutubeなんかで最強の剣客ランキングみたいなが上がってるのを目にしますけど

幕末の剣客と塚原卜伝、富田勢源、伊東一刀斎といった戦国時代の剣豪が一緒くたに扱われていますが

最早、比較するのも甚だしい。

戦国の剣豪は別次元の強さです。

もしかすると同時代には河上彦斎や中村半次郎といった幕末最強クラスの剣豪がその辺にゴロゴロ居たのかもしれない…

相手の命を奪う事に特化した戦国時代の武術はそのくらいに次元が違うという事なんです。

戦国時代は生き残る為には日常的に人を斬らねばならなかった時代の剣術

江戸時代は人を斬ることが御法度とされた時代の剣術。

そういうことです。

 

以上、全三回に渡る第二回 正しい動きと斬り方講座でした。