星の輝き、月の光 -7ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

夜のうちに雨が降ったのか、カーテンを開けると朝日を浴びる木々は茂る葉に玉の露を光らせていた。

窓を開ければ少し湿り気を帯びた風がすうっと頬をなでる。

洗い流された空気は新しい朝を連れてきたのに、ミニョの心の一部はずっと時を止めたまま明けない夜の中にいた。

 

「おはようございます、オッパ」

 

ベッドにかける声は震えるほど緊張している。いつものことなのに、いつまで経っても慣れない朝のあいさつは、いっそのことこれが醒めない夢ならいいのにと心は後ろを向いた。

テジトッキの中にいるテギョンもどうやら眠っている時間があるらしい。眠るという表現があてはまるのか判らないが、魂としてそこにいるテギョンにも意識のない時間があると言っていた。ホッと気を緩めた時など、気がつくと知らない間にずいぶん時間が経っていることもある、と。そういう時はミニョが話しかけても返事はなく、再びテジトッキから声が聞こえるまでミニョは待つことしかできなかった。

この時間がミニョはたまらなく辛かった。

息もなく、鼓動もなく、体温もないテジトッキ。テギョンを感じられる唯一の声が聞こえないテジトッキは、本当にただのぬいぐるみのようで。

そこにいた魂さえ消えてしまったようで。

今までのはすべて夢の中の出来事のような気がして。

くったりとしたテジトッキを恐る恐る抱きしめると、不安でどんどん速くなる鼓動に息苦しさを感じ、打ち上げられた魚のように助けを求め口で大きく息を吸った。

 

 

 

 

 

ミニョにとって変化のないことが嬉しくもあり辛くもある日々。それはある日突然思いもよらない方向へ動き出した。

 

 

 

 

 

「本当・・・ですか?」

 

ミニョがテギョンが生きている(らしい)と聞いたのは、朝食の後いつものように膝の上にテジトッキを乗せ、リビングでくつろいでいる時だった。

 

「ああ、どうしてこんなことになったのか判らないが、ミナムの話では・・・」

 

驚きに目を見開いているミニョの耳にはその後のテギョンの話は入ってこなかった。

 

 

“生きている”

 

 

その言葉だけが頭の中でぐるぐると回り、思考を停止させ、胸を締めつける。そして鼓動がどんどん速くなり、それにつられるように呼吸も速く浅くなっていき。

 

「どうかしたのか?」

 

テギョンがミニョの異変に気づいた時には、ミニョはハァハァと短い呼吸の合間に何度もぐっと息をのみこむように唇を結んでいた。じっとテジトッキを見つめる瞳には見る間に涙があふれてきて。

 

「おい、ミニョ」

 

「・・・よかった・・・」

 

絞り出すような小さな声がこぼれると、まぶたにとどまりきれなくなった涙がぽろぽろと流れ落ちた。

どういうことかと聞く必要はなかった。自分にとって信じたくないことはなかなか受け入れられなくても、そうであってほしいと願っていたことは素直に受け入れられる。生きているという言葉がまさにそれだった。

理由も真偽も関係ない。

考える必要もない。

心で感じたことをそのまま受け入れるだけ。

 

「・・・よかった・・・・・・よかった・・・・・・」

 

テジトッキを胸にかき抱きながら何度も繰り返される声は涙で震えていた。

 

 

 

。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 

 

 

 

もう30話!

びっくり!

過去ののんびり更新がウソのよう(笑)

いやー「やれば出来るじゃん」と勝手に笑っております。

 

 

残るお話はあと少し・・・んーもうちょっと、になるのかな?

 

このままのペースで最後までいけますよーに(^▽^)

 

                  

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「父さんと、か・・・・・・あの人が?」

 

長年蓄積されたわだかまりはそう簡単には解けない。呼びたくても口には出せないのか思わず出そうになった言葉をわざとのみこんだのか、母さんという単語を喉の奥に押しこめたままテギョンは呟いた。

 

「あんな風にこっそり会ってわざわざウソつくとは思えないんだよね、そんな必要ないし。どうして秘密にしてるのか判んないけど、テギョンヒョンが生きてるのは間違いないと思う」

 

ミナムは偶然遭遇したテギョンの両親の会話を思い出し、確信したように一人で頷いていた。

 

「じゃあここにいる俺は何なんだ?それにさっき本当に死ぬかもしれないって言ったよな」

 

テギョンは何が何だか判らないといった顔で軽く頭を振った。

 

「ここからは俺の想像なんだけど・・・死んで魂だけになったんじゃなくて、生きてる身体から魂が抜け出ちゃったんじゃないかな。事故に遭って、死ぬかもって思った瞬間に、死にたくないって強く思ったとか」

 

目の前の無慈悲な惨状。

口の中に広がる鉄の味。

痛いという感覚すらおぼろげな状態で死を直感した時、頭の中に浮かんだのはミニョのことだった。

 

「それと、ヒョンの意識が戻らないのは現状に満足しちゃってるからじゃない。ヒョンは自分は死んだと思ってたんだろ。死んで存在が無になるよりは、身体はなくてもミニョのそばにいられるって。でもそれって危ないと思うんだよね。死にそうだった人が“生きたい”って強く思ったら、死の淵から戻ってきたって話あるだろ。逆に、生きてるのに自分は死んだって思ってたら、身体の方が本当に死んじゃうんじゃないかって・・・」

 

ミナムの言っていることを理解したテギョンの顔は青ざめていて、コクンと唾を飲みこむと一気に距離を詰め、そのままの勢いで締め上げるようにミナムの胸ぐらをつかんだ。

 

「どうしたら戻れる、俺の身体に!」

 

「え?う~ん、そうだなぁ・・・・・・ミニョにフラれてみる?「大っ嫌い!近づかないで!顔も見たくない!」とか言われればショックで戻れるかもよ。あと、シヌヒョンとイチャイチャしてるとこ見せられるとか。あーでもショック過ぎて本当に死んじゃうかもしれないね」

 

ハハハ、と笑うミナムのシャツを更に強くつかむとギロリと睨みつけた。

 

「俺は本気で戻りたいと思ってるんだ」

 

「んなこと言われても戻る方法なんて俺に判るわけないだろ。さっきのだってただの憶測だし。はっきりしてるのはヒョンの身体は昏睡状態で病院にいるけど、中身はここにいるってことだけ」

 

服をつかまれながら首をすくめて見せるミナムにテギョンは苦虫を噛みつぶしたように口元を歪めた。

 

「あれ?もしかして冷たいヤツだとか思ってる?仕方ないだろ、経験者じゃないし、それに俺、ヒョンのことリーダーとしては信頼してるし尊敬もしてるけど、妹の恋人としてはコノヤローって思ってるからね」

 

ミナムはテギョンの手を服から引きはがすと、大切な妹についた悪い虫でも見るような目で見上げた。そして自分の首を指さした。

 

「先週だったかな、ミニョのここにキスマーク見つけた」

 

ついさっきまでのからかうように明るかった声のトーンが一変し、暗く冷たいものになった。

“ギクリ”という擬音がピッタリと当てはまりそうな顔をしたテギョンがおどおどと目を泳がせる。

それはどう見ても後ろめたいことをしたと白状しているようなもので、ミナムの腹の底に沈んでいた怒りの感情がふつふつとよみがえってきた。

 

「シヌヒョンの身体で何やってんだよ、ミニョに何してくれたわけ?まさか!」

 

ずっと気になっていたこと。いくら中身がテギョンでも持ち主はシヌ。ミニョがそう簡単に身体を許したとは思えない。どんな風に言葉巧みに丸めこんだかしらないが、ミニョがよくても俺は絶対に許さないとミナムはテギョンを睨みつけ拳を強く握りしめた。

 

「違う!してない!さすがにそんなことは・・・するわけないだろ!ただあの時はちょっと・・・」

 

語尾が頼りなげに消えていく。

ベッドの中で包みこんだ身体は以前と同じで安らぎと同時に胸の高鳴りを連れてくる。触れる肌の温もりにこのまま抱いてしまいたいという衝動に駆られるが、ぐっと堪えた。

これは俺の身体ではない・・・

頭では理解していても、もしかしたら自分の身体はこのまま発見されず、どこかで人知れず朽ちていくかもしれない。いつまでこうしていられるのかも判らない。そう思ったら今ここにいる証を残したくなった。

 

「とにかく、ミナムが考えてるようなことはしてない」

 

一瞬気まずそうに俯いた視線はすぐに強い否定とともに上げられた。

 

「ふ、ん・・・ま、さすがにそれはないか。もし抱いたなんて言ってたら、ソッコー殴ってた」

 

そう言って口の端を上げたミナムは拳を軽くテギョンの頬に当て明るい声を出した。

 

「あーよかった。明日の朝、腫れた顔を氷で冷やしてるシヌヒョンに、何て説明するか考えなきゃいけなくなるとこだった。以上、俺の話は終わり。どうやったら戻れるのかは自分で考えてくれよ、早急に。ミニョの為にも」

 

俺はもう寝るからとテギョンを部屋から追い出すミナムは目の前の背中に呟いた。

 

「ほんと、よかった・・・よかったよ・・・・・・」

 

身体の奥から湧きあがるものを必死で押さえているためか語尾が微かに震える。

バタンとドアが閉まったと同時に頬を伝った光は、噛みしめた感情の大きさに比例してしばらく流れ続けた。

 

 

 

 

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「自分で呼んでおいてその顔は何だ」

 

「いやー、その顔でその声ってやっぱ違和感だらけっていうか・・・」

 

深夜ミナムの部屋をノックしたテギョンは不審そうな顔でじろじろと見るミナムにムッと口を尖らせた。

 

「ぬいぐるみを期待してたから」

 

「悪かったなメルヘンチックじゃなくて。テジトッキがてくてく歩いてたら可愛いんだろうがあいにくあいつは動けないんだ。だいたいミナムには声も聞こえないんだろ?」

 

「メルヘンチック?てくてく?俺の想像では床の上をスーッと滑るように移動する無表情のぬいぐるみなんだけど・・・ホラーの間違いじゃないの?」

 

「どっちでもいい、そんなことより・・・話があるんだろ」

 

「そうなんだけどさ」

 

ミナムはもったいつけるようにゆっくりとシヌ(テギョン)の周りを回り、頭のてっぺんから足の先までまるで品定めでもするかのように、いろいろな角度からその姿を見ていた。そして最後は顔へとたどり着く。

 

「何か調子狂うんだよね」

 

「仕方ないだろ、この顔が気になるなら見るな、目でも瞑ってろ。声だけ聞いてればいいじゃないか」

 

「あーなるほど、そういうことか。こないだミニョがヒョンの方見る時やたら目を瞑ってると思ったんだけど、ヒョンの指示だったんだ。でも俺、目瞑ると余計ミニョとそっくりに見えるからやめとくよ。ヒョンにキスでもされそうだから」

 

「そんなことするか!」

 

「へえー、じゃあミニョには何もしてないんだね。ま、そのカッコじゃさすがに手は出せないか」

 

一瞬テギョンの頭を過ったのは初めてシヌの姿でミニョの前に現れた時のこと。

指先に感じる温もり。

抱きしめた柔らかさ。

鼻腔をくすぐる甘い香り。

目を瞑ったまま見上げるミニョはキスを催促しているように見えて、わきあがる感情が抑えられなかった。

 

「す、するわけないだろ」

 

言葉を詰まらせ目を泳がせるシヌ(テギョン)を見てミナムが上目遣いで軽く睨む。

 

「ヒョンってウソつくの下手だよね、顔に全部出てるよ」

 

空港でテギョンが生きていることを知ったミナムはテギョンがミニョを騙していると思った。どうしてそんなことをするのか、そもそもそんなことが可能なのかということはさておき、死んだとウソをついてミニョを苦しめていると腹を立てた。そのままの勢いで話があると告げたが、テギョンを待っている間に少し冷静になってきたミナムの頭に浮かんだのはこの間のシヌ(テギョン)の様子だった。

 

 

「どうやら俺は死んだみたいだ」

 

 

そう話した時の顔はウソをついているようには見えなかった。その場を誤魔化そうとか丸めこもうという思惑はいっさい感じられない顔。本当のことを言っているとしか思えない。しかしギョンセは病院にいると言っていた。昏睡状態だと・・・

アン社長からテギョンが見つかったという話はない。そのことは毎日シヌが確認しているからミナムも知っている。ギョンセの言う通りテギョンが病院にいるなら、なぜその連絡を社長にしないのか・・・

 

「そんなことを聞くために呼んだのか?」

 

「違うよ、まあ兄としては気になることの一つではあるけど、話ってのは別のこと」

 

自分は死んだというテギョン。

見つかったことを秘密にするギョンセ。

判らないことだらけだがその中でミナムは一つの仮説を立てた。ギョンセの不可解な行動はいったん無視をして、テギョンの意識が戻らないのはミニョのそばにいるからではないか、と。もしそうなら・・・

 

「テギョンヒョン、本当は“死んでないんだろ?”」

 

反応をうかがうように表情の変化を見る。

 

「・・・違うか。じゃあ、“死んでないよね”・・・いや、やっぱりこれだな、“死んでないよ”」

 

疑問から確認、そして断定へ。言い方を変えてはいるが内容は同じ。ミナムが言っているのは、“テギョンは死んでいない”ということ。

きっぱりと言い切り強い視線を向けてくるミナムに、テギョンは訝しげな顔を向けた。

 

「その顔はやっぱり自覚してないんだね・・・じゃあ教えてあげる、ヒョンは死んでないんだよ。でもこのままじゃ本当に死んじゃうかもしれない」

 

「何を言ってるんだ?テジトッキの声は聞こえなくても、今の俺の声は聞こえてるだろ。死んでないならどうして俺はここにいるんだ?ここにいる俺は誰なんだ?」

 

事故に遭い気がついたらテジトッキになっていたテギョンには、“死んでない”という言葉は本来なら嬉しいはずなのに、すぐには信じられなくて、「そうだったのか」なんて素直には受け入れられない。だいたい生きているならこんな状態でここにいるはずがない。

 

「そのことなんだけど・・・」

 

ミナムは空港での出来事を話した。

 

 

 

                  

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