夜のうちに雨が降ったのか、カーテンを開けると朝日を浴びる木々は茂る葉に玉の露を光らせていた。
窓を開ければ少し湿り気を帯びた風がすうっと頬をなでる。
洗い流された空気は新しい朝を連れてきたのに、ミニョの心の一部はずっと時を止めたまま明けない夜の中にいた。
「おはようございます、オッパ」
ベッドにかける声は震えるほど緊張している。いつものことなのに、いつまで経っても慣れない朝のあいさつは、いっそのことこれが醒めない夢ならいいのにと心は後ろを向いた。
テジトッキの中にいるテギョンもどうやら眠っている時間があるらしい。眠るという表現があてはまるのか判らないが、魂としてそこにいるテギョンにも意識のない時間があると言っていた。ホッと気を緩めた時など、気がつくと知らない間にずいぶん時間が経っていることもある、と。そういう時はミニョが話しかけても返事はなく、再びテジトッキから声が聞こえるまでミニョは待つことしかできなかった。
この時間がミニョはたまらなく辛かった。
息もなく、鼓動もなく、体温もないテジトッキ。テギョンを感じられる唯一の声が聞こえないテジトッキは、本当にただのぬいぐるみのようで。
そこにいた魂さえ消えてしまったようで。
今までのはすべて夢の中の出来事のような気がして。
くったりとしたテジトッキを恐る恐る抱きしめると、不安でどんどん速くなる鼓動に息苦しさを感じ、打ち上げられた魚のように助けを求め口で大きく息を吸った。
ミニョにとって変化のないことが嬉しくもあり辛くもある日々。それはある日突然思いもよらない方向へ動き出した。
「本当・・・ですか?」
ミニョがテギョンが生きている(らしい)と聞いたのは、朝食の後いつものように膝の上にテジトッキを乗せ、リビングでくつろいでいる時だった。
「ああ、どうしてこんなことになったのか判らないが、ミナムの話では・・・」
驚きに目を見開いているミニョの耳にはその後のテギョンの話は入ってこなかった。
“生きている”
その言葉だけが頭の中でぐるぐると回り、思考を停止させ、胸を締めつける。そして鼓動がどんどん速くなり、それにつられるように呼吸も速く浅くなっていき。
「どうかしたのか?」
テギョンがミニョの異変に気づいた時には、ミニョはハァハァと短い呼吸の合間に何度もぐっと息をのみこむように唇を結んでいた。じっとテジトッキを見つめる瞳には見る間に涙があふれてきて。
「おい、ミニョ」
「・・・よかった・・・」
絞り出すような小さな声がこぼれると、まぶたにとどまりきれなくなった涙がぽろぽろと流れ落ちた。
どういうことかと聞く必要はなかった。自分にとって信じたくないことはなかなか受け入れられなくても、そうであってほしいと願っていたことは素直に受け入れられる。生きているという言葉がまさにそれだった。
理由も真偽も関係ない。
考える必要もない。
心で感じたことをそのまま受け入れるだけ。
「・・・よかった・・・・・・よかった・・・・・・」
テジトッキを胸にかき抱きながら何度も繰り返される声は涙で震えていた。
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もう30話!
びっくり!
過去ののんびり更新がウソのよう(笑)
いやー「やれば出来るじゃん」と勝手に笑っております。
残るお話はあと少し・・・んーもうちょっと、になるのかな?
このままのペースで最後までいけますよーに(^▽^)