星の輝き、月の光 -4ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

それは月明かりのきれいな夜だった。

冴え冴えとした月が辺りを照らし、暗闇に立つ二人の姿をくっきりと浮かびあがらせている。事務所のテラスは他に人影もなく、二人きりで秘密の話をするにはうってつけの場所だった。

といってもわざわざ夜が来るのを待っていたわけではない。朝から言おう言おうと思っていたがなかなかチャンスがなく、こんな時間になってしまっただけ。しかしシヌはちょうどよかったと思った。夜盲症のテギョンに今の自分の顔をはっきり見られなくてすむから。

 

「話って何だ」

 

わずかに緊張感をまとった低音が闇にとける。細かい表情は読めなくても雰囲気や仕種でシヌの様子がいつもと違うということはテギョンにも判っていた。その上こんな時間にこんな場所へ呼び出すにはそれなりの理由があるんだろうと、何だか嫌な予感がした。

 

「明日、正式に発表することになったからその前にテギョンには自分の口から伝えたくて。俺・・・ミニョと結婚することにした」

 

それは衝撃的な告白だった。

 

「ミニョ・・・と?」

 

あまりにも予想外の言葉にテギョンの表情は固まった。

テギョンが別れたのは半年前。その後二人がつき合っているらしいという話はうわさ程度には耳にしていた。しかし直接本人に確認したわけではないし、そんなことあるわけないと信じていなかった。いや、信じたくなかったからあえてその話題に触れないようにしていたというのが正しいか。

 

「結婚?ミニョと?・・・・・・冗談だろ。ミナムならまだ判る、でもミニョは女だぞ」

 

テギョンは耳を疑った。半年前まで愛しあっていた目の前の男がいきなり女と結婚すると言い出したんだから無理もない。

 

「他に好きな人ができたって言ったよな、だから別れてくれって。俺はてっきりミナムだとばかり・・・でもそれってミニョのことだったのか?俺は女におまえを取られたのか?俺の何がいけない?何が足りなかった?俺は別れてからもずっとシヌだけを見てきたのに!」

 

今まで抑えこんできた感情が弾けた。

テギョンはシヌのシャツをつかむと引き寄せ強引に唇を合わせた。そのまま後頭部に手を回し荒々しいキスをする。差し入れた舌でシヌの舌を探り、荒ぶった感情のまま絡みつかせた。

 

「んふっ・・・」

 

乱暴なキスをしているテギョンの口から甘い息がもれる。

片方の手が頬を包み首筋をたどって、胸を撫で回した。

久しぶりに触れた身体。

すぐそばにいながらいつも見ていることしかできなかった。服の下に隠されたたくましい肢体を思い出し、テギョンの身体は熱くなる。ベッドで、バスルームで、ソファーの上で過ごした二人だけの密かな時間。燃えさかる炎のように激しく、ねっとりとしたハチミツのように甘くとろけた瞬間を思い出せと、テギョンの指先はシャツのボタンを一つ二つと外し、シヌの六つに割れた美しい腹筋をなぞりながら更に下へと向かった。そしてキラリと光る汗を流しながら何度も何度も二人の身体を熱くつなげたモノに指が触れそうになった瞬間、テギョンの暴挙はシヌの手によって阻まれた。

 

「テギョン、やめてくれ、俺たちはもう終わったんだ」

 

「結婚なんてウソだろ?ミニョは女じゃないか。俺へのあてつけにそんなこと言ってるだけだろ。俺がジェルミと寝たから・・・」

 

「ああ、あれはショックだったな」

 

「でも一回だけだ。あの時俺はひどく酔っぱらってて・・・自分でもどうしてあんなことしたんだろうってずっと後悔してる」

 

「ショックだったけど、別にあてつけなんかじゃない。俺はミニョを愛してる。ずっと男しか愛せないと思ってた俺に、それは違うと気づかせてくれたのはミニョなんだ」

 

「そんな・・・ウソだ。あいつより俺の方がおまえのこと判ってる。男同士、心だって、身体だって!」

 

テギョンはシヌの手を取ると自分の胸に押しつけた。

 

「ほら、よく俺のこと焦らしてただろ。こうやって撫で回して、舐めて・・・俺の感じてる顔が好きだって、ゾクゾクするって言ってたじゃないか」

 

「やめてくれ、悪いが俺はもうテギョンには何も感じない。どんな顔されても、抱きたいと思えないんだ」

 

氷のような言葉が鋭いナイフとなって胸に突き刺さる。プライドを捨てて縋っても、その手を冷たく振り払われ、絶望の淵に立たされたテギョンはそれでも納得いかないと、捨てられた子どものような目を向けた。それは傷つけられながらもひたすら愛を請う哀しい目。しかしテギョンが必死につなげようとした糸をシヌは容赦なく断ち切った。

 

「来年、子どもが生まれるんだ。俺はミニョと幸せな家庭をつくる。だからもう俺に何も期待するな。俺がテギョンのもとに戻ることは二度とない。俺にテギョンは必要ない、俺のことは忘れろ」

 

夜の冷気がテギョンを包む。

吐き捨てられた言葉が心を凍らせる。

 

「シヌ・・・待ってくれ・・・シヌ・・・・・・シヌ!」

 

魂の叫びのような声も冷たい背中にはね返された。

足もとがガラガラと音を立て崩れ落ちる感覚。

深い深い闇の中に、なすすべもなくテギョンは落ちていった。

 

 

―――― Fin ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええーっ、終わり!?そんなぁ・・・テギョンヒョンと別れたシヌヒョンがミニョと結婚、しかも子どもができたなんて衝撃的な展開なのに、ここで終わり!?」

 

パソコンでファンフィク(BL)を読んでいたジェルミは目を見開いて驚いた。

ジェルミのお気に入りのファンフィク。テギョン、シヌ、ジェルミの三角関係からミナムの登場で四角関係に発展し、最近はミニョも加わって、まったく先が読めない展開に、ドキドキワクワクと心躍らせていたのに、突然訪れた終幕は話の内容よりも驚きだった。

 

「ああ、それ、二部が終わって、来月から三部が始まるらしいよ」

 

しかしそれ以上に驚いたのは、いつからそこにいたのか後ろからミナムに声をかけられたこと。

 

「ミ、ミナム!?」

 

BL小説を読んでいるという秘密の趣味を知られたとジェルミは一瞬振り向くと、大慌てでノートパソコンをパタンと閉じた。

 

「そんなに慌てて隠さなくていいって、俺も読んでるから」

 

「へ?そうなの?」

 

思いもよらないミナムの言葉に、まさかこんな身近に同志がいたなんてとジェルミの顔が少し緩んだ。

 

「ああ、つい最近ファンフィクってのを知って、いろいろ検索してたら見つけたんだ。この作者すごいよな、俺に双子の妹がいるっていうのは別に隠してないけど名前は知らないはずだろ。でも俺がミナム(美男)だから妹ならミニョ(美女)にしようって理由でその名前にしたっていうんだから。偶然だろうけどズバリそのものだろ、びっくりだよな」

 

「あ、うん、そうだね。どんな人が書いてるんだろ」

 

「さあな。だけどまさか俺の妹が本当にミニョって名前で、メンバーの一人とつき合ってるなんて思いもしないだろうな。しかも相手がテギョンヒョンだなんて」

 

「だよね。あーあ、小説の中だけでも俺とミニョ、くっつけてくれないかなぁ。コメントでそれとなく頼んでみようかな」

 

「やめとけって、どうせ無理だって。それより俺たちがベッドインする可能性のが高い」

 

二人はそれぞれ頭の中でその場面を思い浮かべると、うへぇ~と嫌そうに顔をしかめた。

コンコンコン。

ドアがノックされスタッフが顔をのぞかせた。

 

「そろそろスタンバイお願いします」

 

スタッフの後ろから入ってきたワンが軽くメイクを直し、わいわいとしゃべりながら楽屋を出て行く二人を見送る。

 

「・・・三部はあの二人をくっつけようかしら・・・・・・」

 

ワンは遠ざかる背中を見ながらポツリと呟いた。

 

 

―――― Fin ――――

 

 

 

 

。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆

 

 

 

こんなお話でごめんなさい~(^_^;

 

 

 

突然降ってわいた妄想。

 

きっかけはネットニュースで読んだ、シネちゃんの結婚&妊娠記事でした。

 

 

いやー、驚きました。

 

それほど韓ドラは観てないんで、お相手の俳優さんの名前も知らなくて「誰?」って感じです(すみません)💦

 

 

テギョミニョファンの私はグンシネ推しなんで、相手がグンちゃんじゃなかったことがちょっとショックだけど、しょうがないよねー

 

せめて私が書くお話の中では幸せな二人を書きたい!

 

 

 

シネちゃん、お幸せに♡

 

 

 

そして、シネちゃんの結婚記事で一人で盛り上がった私の妄想の結果がコレです💦

 

 

何だかしょうもないお話ですが、こんなに短期間で書き上げたのはずいぶん久しぶりでした。

 

集中したー

 

 

ミニョが他の男と結婚、妊娠という話をテギョンが聞きショックを受けるというのが書きたかったんですが、こんな風になってしまいました。

 

ま、所詮書いてるのが私ですから、大目にみてやってください<(_ _)>

 

 

 

 

 

 

次の更新は「ひとりの夜はうさぎを抱きしめて」になります。

 

前回の記事の最後に「うさぎ・・・」と書きましたが、「ひとり・・・」の方がよかったんじゃないかと、ずいぶん後になって気づきました。(遅い・・・)

 

長いタイトルは書いてるとめんどくさくなるので、略すと「ひとうさ」かな?

 

 

残りあと数話。

 

最後までおつきあいいただけると嬉しいです(^▽^)

 

 

 

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“青天の霹靂”

“寝耳に水”

いいや、この驚きはそんな簡単な言葉では言い表せない。

例えるなら・・・

“空に向かって投げた小石がなかなか落ちてこないと思っていたら、実は大気圏を突き抜け宇宙へと飛び出していて、石を投げたことなどすっかり忘れた頃にとんでもない破壊力を秘めた隕石となって頭上に落ちてきたくらいの衝撃”

だろうか。

頭の中が真っ白で何も考えられないのか、それとも逆にいろんなことを考えすぎて無表情になってしまったのか。しばらくの間まるで時間が止まったかのように身動きひとつ表情ひとつ変えなかったテギョンだが、やがてゆらりと揺れた身体を松葉杖で支えるとドアの方へと歩き出した。それは一刻も早くこの場から去りたいとでもいっているように、おぼつかないながらも早い足取りだった。

 

「オッパ?」

 

「来るな!座ってろ」

 

どこへ行くのかとミニョが後を追いかけようとしたのをテギョンは顔を半分だけ振り向かせ言葉で制した。その口調は強く目も冷ややかで、背中はミニョを拒絶しているように見えた。

ミニョの足はその場に縫いつけられた。これ以上何か言ってまた冷たく返されるのが怖くて何も声をかけられず、テギョンが部屋から消えるのを見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

一人きりになった病室はまるで知らない場所で迷子になったような居心地の悪さと心細さを感じる。すぐに開くことを期待したドアは閉まったまま。

 

「やっぱり困るわよね、赤ちゃんができたなんていきなり言われても・・・」

 

退院できる、大勢のファンが待っていると話していた時の期待感あふれる笑顔は消え失せ、石像のように硬く冷たい表情で出て行ったテギョン。残されたミニョはため息をつくと、脱力したように椅子に座り下腹部にそっと手を当てた。

ここに新しい命が宿ってる・・・

昨日、それは思考を停止させてしまうほどのパワーでやってきた。

夜、しんと静まり返った借り物の部屋は余計に孤独を感じさせ、どうしようという言葉だけが頭の中を駆け巡った。

 

「オッパに電話・・・ううん、病院でちゃんと診てもらったわけじゃないし、もうこんな時間だし、それに何て言えば・・・」

 

一度は携帯を手にしたが結局かけられず、どうしようと繰り返し呟きながら同じところをうろうろと歩き回った。そしてふと頭に浮かんだのが、今自分がしている行動に対してのちょっとした疑問。

 

「こういうのって動物園の熊みたいって言うけどどうしてだろう」

 

これはもう現実逃避で絶対に今調べることじゃないと判っていても、気持ちは濁流にのって流されていく。

 

 

『目的もなく同じところを行ったり来たりするなど同じ行動を繰り返す行為を“常同行動”といいストレスが原因といわれています。動物園の動物に時折見られ・・・』

 

 

「ストレス?私今ストレス感じてるの?赤ちゃんができたことストレスに感じるなんて・・・」

 

目に飛び込んできた情報にショックを受け、新たな悩みを抱えたミニョの動物園の熊状態はしばらく続いた。

悩み自己嫌悪に陥り迎えた朝。出血していることに気づいたミニョは昨日以上に慌てた。

 

「もしかして・・・」

 

自分のことをストレスだと思う母親は嫌だと赤ちゃんがお腹から出ていこうとしているんじゃないかと思い、病院へ向かうタクシーの中、祈るように組んだ指先は白く震えていた。

 

 

 

 

 

座ってろと命令されたからではなく立ち上がる気力のないミニョは、いつもなら窓を開けて見る空を座ったままぼんやりと眺めた。

そこには重く垂れこめた雲から抱えきれなくなった雨が、先を争うように地面を目指していた。

 

「はぁ・・・傘持ってないのに・・・困ったな」

 

大きなため息と感情のこもらない声が、ガラス越しに聞こえてくる雨音にとけていく。

灰色の景色はミニョの心を侵食しながら雨足を強めていった。

ミニョにとって今のこの状況は予想外だった。思いがけない妊娠に最初は戸惑ったがそれ以上に嬉しいという気持ちが大きかった。テギョンも同じで、多少、いやかなり驚いたとしても喜び、これからのことを前向きに一緒に考えてくれると思ったのに、結果はこの通り、突然冷たくされ一人部屋に残されてしまった。

30分経ち、1時間経ってもテギョンは戻ってこない。

テギョンの考えが判らない。

 

「このままずっと戻ってこないかも・・・」

 

言葉にすると本当にそうなってしまいそうで慌てて口をつぐんだ。

そばにいてほしいのに・・・

雨の音だけが耳に響き余計に孤独を感じさせる。心細さからか無意識に自分で自分の身体を抱いた。

 

 

“またこいつの中に入ったらどうする”

 

 

不意にこの間のテギョンの言葉がよみがえった。

 

「まさか・・・ね。でもなかなか戻ってこないし、オッパ松葉杖で歩くの下手だから、階段から落ちて気を失ってるかも・・・」

 

そんな考えが頭を過ると一気に不安が高波となって押し寄せてきた。

ゴゴゴ・・・と大きな音をさせながら高く立ち上がった波が迫り、あっという間にミニョをのみこむ。

ミニョは恐る恐るテジトッキに手を伸ばすとくりっとした丸い目をのぞきこんだ。

 

「オッパ?・・・そこにいるんですか?・・・・・・もしいるなら返事をしてください、オッパ」

 

背後で空を切り裂くような稲光が走り轟音が空気を震わせた。いつもならビクリと反応するのに、今のミニョには叩きつける雨も大きな雷の音も耳に入らない。

意思のないプラスチックの目に一瞬光が宿ったように見えた。初めは控えめだった呼びかけは次第に強くなり、ガクガクと首がもげそうになるほど激しく揺する。

 

「オッパ、オッパ!」

 

不安に押しつぶされそうで何かに縋っていなくては耐えられなくなった心理状態のミニョは、ひたすらテジトッキを揺すりテギョンの名を呼び続けた。

 

 

 

。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 

 

 

 

お知らせ

 

 

次回の更新は27(土)の予定ですが、「ひとりの夜はうさぎを抱きしめて」はお休みになりそうです。

 

今、いきなり降ってわいた妄想で別のお話を書いているので。

しかもこの手のお話は勢いで書いているので、その勢いのままアップしないとずっと日の目を見ずに終わってしまうパターン💦

今まで何度あったことか・・・

 

 

というわけで、一応単なる私の希望ですが、土曜日までには仕上げてアップしたいと思います。

 

もしよろしければ、1話完結、ただの拙い妄想にお付き合いください。

 

 

 

あ、間に合わなかったら「うさぎ・・・」の続きになります<(_ _)>💦

 

 

 

                  

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・・・にんじん?

 

人参をどうしたって?

 

・・・ん?いや違う。

 

・・・・・・にんしん?

 

にんしん、にんしん・・・・・・・・・・・・・・・妊娠!?

 

最初、聞き間違いだと思いたい脳が勝手に誤変換したが、しばらくして正しく変換し直された言葉にテギョンは驚いて目を見開いた。

ミニョを見れば申し訳なさそうに俯いている。様子をうかがうように上げた顔はテギョンと目が合うと脱兎の勢いで伏せられた。その場でじっと固まっている姿はひとまわり小さく見える。

それはさながら、追い詰められ逃げ場をなくしたウサギが怯えながら身を守ろうと縮こまっているようだった。

そう見えた理由は二つある。

一つ目は、ごめんなさいという言葉。謝るということは後ろめたいとかやましいとかとにかく罪悪感を抱いているからとしか思えない。

そして二つ目。はっきりいってこっちがメインだが、テギョンには身に覚えがなかったから。

目が覚めてから数週間。思うように動かない身体を抱えリハビリに励む毎日。移動は車椅子から松葉杖へとレベルアップしたがまだまだ体力は戻っておらず、したくてもできる状態ではない。だいいち病院で、なんて考えたこともない。それ以前はずっと昏睡状態だったし、シヌの身体を借りた時もキスしかしていない。

以上、二つのことを考え合わせテギョンの頭に浮かんだ結論は。

 

「・・・相手は誰なんだ?」

 

「え?」

 

ミニョは驚いた顔をしていた。

テギョンも自分の発した声の静かさに少なからず驚いていた。

シヌかジェルミか・・・

とっさにテギョンの頭に浮かんだのは身近な男の存在。しかしそれ以上のことは考えられなかったし、考えたくなかった。ミニョが自分を裏切ったあげく、そんな気配は微塵も感じさせずに平然と笑顔でいたなんて・・・・・・

崖の先端から突き落とされた気分だった。

サスペンスドラマのように、荒れ狂う海に向かい重力に引っ張られる途中で視界に映ったのは逆光で表情の読めない恋人の顔。しかし押したのがミニョなら落ちかけたテギョンを助けたのもミニョだった。

 

「オッパ・・・ですけど・・・」

 

「・・・ん?」

 

「・・・・・・・・・」

 

数秒間黙ったまま二人は顔を見合わせた。

 

「え?まさか私が他の人と・・・って思ったんですか!?」

 

「あ?いや、だって俺はずっと病院にいたし・・・」

 

“私のことそんな風に見てたんですか!?”と非難する目で見られたテギョンは自分を正当化しようと慌てて言葉を続けた。

 

「それに、ごめんて謝ったじゃないか。それってつまりそういうことなんじゃないのか。俺がいない間に他の男と・・・で、妊娠したって」

 

「違います、そんなことしてません!するわけないじゃないですか!!」

 

「でも俺は病院にいて・・・」

 

「15週目なんです」

 

「15週?」

 

「4か月です。だからたぶん、オッパがロケに行く前の、あの辺りかと・・・」

 

ミニョはカァーッと赤くなった顔を俯けた。

 

「ごめんなさいっていうのは、オッパが退院するって言ったから・・・。これから韓国に帰って復帰に向けていろいろと大変なのに、オッパに子どもがって判ったらマスコミが騒ぐだろうし、ファンも減っちゃうんじゃないかと思って」

 

テギョンもロケに行く前なら身に覚えがある。しかし何か月も前のことでいまいちピンとこない。

 

「あーコホン、俺は男だからそういうのよく判らないんだが・・・今まで気づかなかったのか?そういうものなのか?」

 

「私も初めてのことなんでよく判りません。それにいろんなことがありすぎて、きてなかったことにも気づかなかったんです。でも昨日そういえば・・・って。検査薬使ったら陽性反応が出て・・・」

 

帰りのバスで、最近ずっと生理がきてなかったことを思い出し、まさか・・・と思いドラッグストアに立ち寄った。

ホテルに帰ってトイレに入り・・・

まず最初に愕然とした。

頭の中が真っ白になった。

そして困惑した。

検査薬を持ったまま部屋の中をうろうろと歩き回った。

見間違いかもしれないと恐る恐るもう一度見てみたが、結果は変わらなかった。

 

「どうしよう・・・」

 

怖かった。

思いがけない妊娠に不安になった。

しかし同時に嬉しいという気持ちもわき起こる。

眠れなかった。

どうしたらいいのかと悩みながら朝を迎え、とにかくちゃんと病院で診てもらおうと思っていた矢先、出血に気づいた。

 

「お医者様に診てもらったら、妊娠15週でしかも切迫流産だって言われました」

 

「流産!?」

 

「いえ、あの、切迫流産ていうのは流産のリスクがある状態のことで、私の場合は出血も少しだし止まったみたいだからひとまず家で安静にしてるように、と。ですからさっき謝ったのは、退院まであと少しなのにここに来れなくなっちゃうことへのごめんなさいでもあって・・・」

 

妊娠の次は切迫流産という、今まで縁がなくそしてあまりにも衝撃的すぎる単語の連続に、テギョンはクラクラとめまいを覚えた。

 

 

 

                  

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