ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 37 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

・・・にんじん?

 

人参をどうしたって?

 

・・・ん?いや違う。

 

・・・・・・にんしん?

 

にんしん、にんしん・・・・・・・・・・・・・・・妊娠!?

 

最初、聞き間違いだと思いたい脳が勝手に誤変換したが、しばらくして正しく変換し直された言葉にテギョンは驚いて目を見開いた。

ミニョを見れば申し訳なさそうに俯いている。様子をうかがうように上げた顔はテギョンと目が合うと脱兎の勢いで伏せられた。その場でじっと固まっている姿はひとまわり小さく見える。

それはさながら、追い詰められ逃げ場をなくしたウサギが怯えながら身を守ろうと縮こまっているようだった。

そう見えた理由は二つある。

一つ目は、ごめんなさいという言葉。謝るということは後ろめたいとかやましいとかとにかく罪悪感を抱いているからとしか思えない。

そして二つ目。はっきりいってこっちがメインだが、テギョンには身に覚えがなかったから。

目が覚めてから数週間。思うように動かない身体を抱えリハビリに励む毎日。移動は車椅子から松葉杖へとレベルアップしたがまだまだ体力は戻っておらず、したくてもできる状態ではない。だいいち病院で、なんて考えたこともない。それ以前はずっと昏睡状態だったし、シヌの身体を借りた時もキスしかしていない。

以上、二つのことを考え合わせテギョンの頭に浮かんだ結論は。

 

「・・・相手は誰なんだ?」

 

「え?」

 

ミニョは驚いた顔をしていた。

テギョンも自分の発した声の静かさに少なからず驚いていた。

シヌかジェルミか・・・

とっさにテギョンの頭に浮かんだのは身近な男の存在。しかしそれ以上のことは考えられなかったし、考えたくなかった。ミニョが自分を裏切ったあげく、そんな気配は微塵も感じさせずに平然と笑顔でいたなんて・・・・・・

崖の先端から突き落とされた気分だった。

サスペンスドラマのように、荒れ狂う海に向かい重力に引っ張られる途中で視界に映ったのは逆光で表情の読めない恋人の顔。しかし押したのがミニョなら落ちかけたテギョンを助けたのもミニョだった。

 

「オッパ・・・ですけど・・・」

 

「・・・ん?」

 

「・・・・・・・・・」

 

数秒間黙ったまま二人は顔を見合わせた。

 

「え?まさか私が他の人と・・・って思ったんですか!?」

 

「あ?いや、だって俺はずっと病院にいたし・・・」

 

“私のことそんな風に見てたんですか!?”と非難する目で見られたテギョンは自分を正当化しようと慌てて言葉を続けた。

 

「それに、ごめんて謝ったじゃないか。それってつまりそういうことなんじゃないのか。俺がいない間に他の男と・・・で、妊娠したって」

 

「違います、そんなことしてません!するわけないじゃないですか!!」

 

「でも俺は病院にいて・・・」

 

「15週目なんです」

 

「15週?」

 

「4か月です。だからたぶん、オッパがロケに行く前の、あの辺りかと・・・」

 

ミニョはカァーッと赤くなった顔を俯けた。

 

「ごめんなさいっていうのは、オッパが退院するって言ったから・・・。これから韓国に帰って復帰に向けていろいろと大変なのに、オッパに子どもがって判ったらマスコミが騒ぐだろうし、ファンも減っちゃうんじゃないかと思って」

 

テギョンもロケに行く前なら身に覚えがある。しかし何か月も前のことでいまいちピンとこない。

 

「あーコホン、俺は男だからそういうのよく判らないんだが・・・今まで気づかなかったのか?そういうものなのか?」

 

「私も初めてのことなんでよく判りません。それにいろんなことがありすぎて、きてなかったことにも気づかなかったんです。でも昨日そういえば・・・って。検査薬使ったら陽性反応が出て・・・」

 

帰りのバスで、最近ずっと生理がきてなかったことを思い出し、まさか・・・と思いドラッグストアに立ち寄った。

ホテルに帰ってトイレに入り・・・

まず最初に愕然とした。

頭の中が真っ白になった。

そして困惑した。

検査薬を持ったまま部屋の中をうろうろと歩き回った。

見間違いかもしれないと恐る恐るもう一度見てみたが、結果は変わらなかった。

 

「どうしよう・・・」

 

怖かった。

思いがけない妊娠に不安になった。

しかし同時に嬉しいという気持ちもわき起こる。

眠れなかった。

どうしたらいいのかと悩みながら朝を迎え、とにかくちゃんと病院で診てもらおうと思っていた矢先、出血に気づいた。

 

「お医者様に診てもらったら、妊娠15週でしかも切迫流産だって言われました」

 

「流産!?」

 

「いえ、あの、切迫流産ていうのは流産のリスクがある状態のことで、私の場合は出血も少しだし止まったみたいだからひとまず家で安静にしてるように、と。ですからさっき謝ったのは、退院まであと少しなのにここに来れなくなっちゃうことへのごめんなさいでもあって・・・」

 

妊娠の次は切迫流産という、今まで縁がなくそしてあまりにも衝撃的すぎる単語の連続に、テギョンはクラクラとめまいを覚えた。

 

 

 

                  

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