ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 38 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

“青天の霹靂”

“寝耳に水”

いいや、この驚きはそんな簡単な言葉では言い表せない。

例えるなら・・・

“空に向かって投げた小石がなかなか落ちてこないと思っていたら、実は大気圏を突き抜け宇宙へと飛び出していて、石を投げたことなどすっかり忘れた頃にとんでもない破壊力を秘めた隕石となって頭上に落ちてきたくらいの衝撃”

だろうか。

頭の中が真っ白で何も考えられないのか、それとも逆にいろんなことを考えすぎて無表情になってしまったのか。しばらくの間まるで時間が止まったかのように身動きひとつ表情ひとつ変えなかったテギョンだが、やがてゆらりと揺れた身体を松葉杖で支えるとドアの方へと歩き出した。それは一刻も早くこの場から去りたいとでもいっているように、おぼつかないながらも早い足取りだった。

 

「オッパ?」

 

「来るな!座ってろ」

 

どこへ行くのかとミニョが後を追いかけようとしたのをテギョンは顔を半分だけ振り向かせ言葉で制した。その口調は強く目も冷ややかで、背中はミニョを拒絶しているように見えた。

ミニョの足はその場に縫いつけられた。これ以上何か言ってまた冷たく返されるのが怖くて何も声をかけられず、テギョンが部屋から消えるのを見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

一人きりになった病室はまるで知らない場所で迷子になったような居心地の悪さと心細さを感じる。すぐに開くことを期待したドアは閉まったまま。

 

「やっぱり困るわよね、赤ちゃんができたなんていきなり言われても・・・」

 

退院できる、大勢のファンが待っていると話していた時の期待感あふれる笑顔は消え失せ、石像のように硬く冷たい表情で出て行ったテギョン。残されたミニョはため息をつくと、脱力したように椅子に座り下腹部にそっと手を当てた。

ここに新しい命が宿ってる・・・

昨日、それは思考を停止させてしまうほどのパワーでやってきた。

夜、しんと静まり返った借り物の部屋は余計に孤独を感じさせ、どうしようという言葉だけが頭の中を駆け巡った。

 

「オッパに電話・・・ううん、病院でちゃんと診てもらったわけじゃないし、もうこんな時間だし、それに何て言えば・・・」

 

一度は携帯を手にしたが結局かけられず、どうしようと繰り返し呟きながら同じところをうろうろと歩き回った。そしてふと頭に浮かんだのが、今自分がしている行動に対してのちょっとした疑問。

 

「こういうのって動物園の熊みたいって言うけどどうしてだろう」

 

これはもう現実逃避で絶対に今調べることじゃないと判っていても、気持ちは濁流にのって流されていく。

 

 

『目的もなく同じところを行ったり来たりするなど同じ行動を繰り返す行為を“常同行動”といいストレスが原因といわれています。動物園の動物に時折見られ・・・』

 

 

「ストレス?私今ストレス感じてるの?赤ちゃんができたことストレスに感じるなんて・・・」

 

目に飛び込んできた情報にショックを受け、新たな悩みを抱えたミニョの動物園の熊状態はしばらく続いた。

悩み自己嫌悪に陥り迎えた朝。出血していることに気づいたミニョは昨日以上に慌てた。

 

「もしかして・・・」

 

自分のことをストレスだと思う母親は嫌だと赤ちゃんがお腹から出ていこうとしているんじゃないかと思い、病院へ向かうタクシーの中、祈るように組んだ指先は白く震えていた。

 

 

 

 

 

座ってろと命令されたからではなく立ち上がる気力のないミニョは、いつもなら窓を開けて見る空を座ったままぼんやりと眺めた。

そこには重く垂れこめた雲から抱えきれなくなった雨が、先を争うように地面を目指していた。

 

「はぁ・・・傘持ってないのに・・・困ったな」

 

大きなため息と感情のこもらない声が、ガラス越しに聞こえてくる雨音にとけていく。

灰色の景色はミニョの心を侵食しながら雨足を強めていった。

ミニョにとって今のこの状況は予想外だった。思いがけない妊娠に最初は戸惑ったがそれ以上に嬉しいという気持ちが大きかった。テギョンも同じで、多少、いやかなり驚いたとしても喜び、これからのことを前向きに一緒に考えてくれると思ったのに、結果はこの通り、突然冷たくされ一人部屋に残されてしまった。

30分経ち、1時間経ってもテギョンは戻ってこない。

テギョンの考えが判らない。

 

「このままずっと戻ってこないかも・・・」

 

言葉にすると本当にそうなってしまいそうで慌てて口をつぐんだ。

そばにいてほしいのに・・・

雨の音だけが耳に響き余計に孤独を感じさせる。心細さからか無意識に自分で自分の身体を抱いた。

 

 

“またこいつの中に入ったらどうする”

 

 

不意にこの間のテギョンの言葉がよみがえった。

 

「まさか・・・ね。でもなかなか戻ってこないし、オッパ松葉杖で歩くの下手だから、階段から落ちて気を失ってるかも・・・」

 

そんな考えが頭を過ると一気に不安が高波となって押し寄せてきた。

ゴゴゴ・・・と大きな音をさせながら高く立ち上がった波が迫り、あっという間にミニョをのみこむ。

ミニョは恐る恐るテジトッキに手を伸ばすとくりっとした丸い目をのぞきこんだ。

 

「オッパ?・・・そこにいるんですか?・・・・・・もしいるなら返事をしてください、オッパ」

 

背後で空を切り裂くような稲光が走り轟音が空気を震わせた。いつもならビクリと反応するのに、今のミニョには叩きつける雨も大きな雷の音も耳に入らない。

意思のないプラスチックの目に一瞬光が宿ったように見えた。初めは控えめだった呼びかけは次第に強くなり、ガクガクと首がもげそうになるほど激しく揺する。

 

「オッパ、オッパ!」

 

不安に押しつぶされそうで何かに縋っていなくては耐えられなくなった心理状態のミニョは、ひたすらテジトッキを揺すりテギョンの名を呼び続けた。

 

 

 

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お知らせ

 

 

次回の更新は27(土)の予定ですが、「ひとりの夜はうさぎを抱きしめて」はお休みになりそうです。

 

今、いきなり降ってわいた妄想で別のお話を書いているので。

しかもこの手のお話は勢いで書いているので、その勢いのままアップしないとずっと日の目を見ずに終わってしまうパターン💦

今まで何度あったことか・・・

 

 

というわけで、一応単なる私の希望ですが、土曜日までには仕上げてアップしたいと思います。

 

もしよろしければ、1話完結、ただの拙い妄想にお付き合いください。

 

 

 

あ、間に合わなかったら「うさぎ・・・」の続きになります<(_ _)>💦

 

 

 

                  

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