星の輝き、月の光 -28ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

それは俺がずっとずっと聞きたかった言葉。

だけどあまりにも強く望んでいたからだろうか、素直に喜ぶ俺と、幻聴かもと一瞬躊躇する俺がいた。


「信じられないな・・・」


独り言のように呟いたが、拒絶されたと思ったのか、俺の言葉にミニョの表情が凍りついた。それは本当に何というか、悲愴感漂う顔で。

でも今の俺はそれを一瞬で吹き飛ばす言葉を知っている。


「嬉しくて・・・まるで夢でも見てるみたいだ」


「夢じゃないですよ」


目に涙をためていたミニョの顔に笑みが浮かんだ。


実際に俺が見たのは、シヌと2人で去って行く夢だったから、たとえこれが夢だとしてもかなりの進歩だ。だけど夢なら覚めないで欲しいなんて思ったりしない。もしこれが夢なら、こうしている時間がもったいない。そんなものにはさっさと背を向けて現実のミニョを捕まえに行く。だから俺は手を伸ばした。


「これが夢じゃないって確証が欲しい」


俺はもう1度ミニョを抱きしめた。今度は優しく包み込むように、ぬくもりを確かめるように。

額にキスを落とし、赤く染まる頬に唇で触れて。

俺がミニョの目を覗き込めば、ミニョも俺を見つめ返す。

少しだけミニョの顔を上向かせると、俺はわざとゆっくり顔を近づけていった。

恥ずかし気に揺れる瞳がよく見える。そして少しずつ、少しずつ、近づいてくる艶やかな赤。そのバラのような唇に触れる寸前でミニョは目を伏せた。

柔らかな感触を味わうように楽しむように、軽くついばんでみる。上唇と下唇を交互に食んで。

何度かくり返していると、やがてミニョが控え目ではあるが、俺に合わせるように唇を動かし始めた。

強く重ねる唇。

うっすらと開いた歯の間から舌を差し入れ、ミニョの舌を探り出す。舌先で触れ、追いかけ、絡めて。


「んっ・・・んんっ・・・」


鼻から抜けるミニョの甘い声を間近で聞きながら、むさぼるような深い口づけを、角度を変え何度も何度も。

俺は崩れ落ちそうになるミニョの腰を片腕で抱えると、もう片方の手で頬を包み込んだ。

今、俺の腕の中にあるものの存在を確かめたくて、その手を頬から首へ、肩から腕へと撫でるようにすべらせていく。

途中で傷に触れたのか、ミニョは身体を強ばらせるように筋肉を収縮させた。それでも俺の背中に手を回し、キスに応え続けるミニョ。

その姿が愛おしくて。

放してやりたい。

でも放せない。

やっと手に入れたという喜びが大きすぎて、ミニョを求める気持ちが強すぎて、ミニョの身体を労わる余裕が今の俺には欠けている。

優しく包んでいたはずの俺の腕はいつの間にか力が入り、ミニョの身体を強く抱きしめ、唇を重ね続けていた。




        1クリックお願いします

        更新の励みになります

                     ↓


にほんブログ村



 

ミニョの濡れた髪が頬に触れた。

バスタオルで包んだだけの身体はしっとりとしてみずみずしく、玉の露を輝かせている。

俺がいつも使っているボディソープの香りがする。それとこれはミニョ自身のにおいだろうか、首筋に顔を埋めていると、甘いにおいが鼻腔をくすぐった。


ミニョは動かなかった。こんな風に抱きしめられ、放してくださいと俺を拒むかと思ったのに、俺の腕の中でおとなしくしている。

ミニョの顔を覗くと、ひとすじの涙が頬を伝っていた。


「悪い、痛かったか」


そういえば身体のあちこちに傷があるんだったと思い出した俺は、ミニョが痛みのため身動きもできないのかと慌てて腕を解いた。

拘束から解放されたミニョは、ずり下がりかけたバスタオルを胸元でしっかりと掴み直し、口をキュッと結んだ。

俯き加減の顔からポタリと涙が零れ落ちる。


「ごめん、つい興奮して」


そんなに痛かったのかと心配してミニョの顔を覗き込むと、ミニョは涙を拭いながら首を横に振った。


「違うんです、痛いんじゃなくて・・・いえ、痛いのは痛いんですけど、でも違うんです。そうじゃなくて・・・」


下唇を噛み、すん、と鼻をすする。


「あの・・・におい・・・消えました?」


「え?」


「さっき、シヌさんのにおいがするって・・・」


「ああ、あれか、あれは・・・ウソだ。服から酒のにおいはしたが、シヌのにおいなんてしない」


「本当に?じゃあ、今の私、どんなにおいがします?」


「・・・俺がいつも使ってるボディソープだ」


俺の返事を聞いた途端、ミニョの目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。

ほっとした気の緩みからか、次から次へと溢れ出る涙は、拭っても拭っても収まる気配がない。


「そんなにシヌの電話に出たいのか・・・」


悔しいが、ほんの少しもミニョの気持ちを俺に向けられないのかと、絶望感に包まれた。しかしミニョは再び首を大きく横に振った。


「違うんです、テギョンさんと同じにおいがするのが嬉しくて・・・」


泣くのを堪えようとしているのか、ミニョは涙を拭いながら息を詰めた。

俺と同じにおいで嬉しい?

さっきまでさんざんシヌの名前を聞かされ、電話に出たがっていたミニョを見ている俺は、そこから俺と同じにおいで嬉しいという言葉がどうつながるのか判らない。


「こんなこと言って、信じてもらえるか判らないし、言えないこともたくさんあってうまく説明できないけど・・・」


ミミョは何度か深呼吸をくり返し、最後にもう1度、すん、と鼻をすすると、顔を上げた。


「私もテギョンさんが好きです。どんなことがあったとしても、テギョンさんのことが好きです」





        1クリックお願いします

        更新の励みになります

                     ↓


にほんブログ村




 

「テギョンさん!?」


ミニョの動揺した声。

それはそうだろう、閉まると思った扉は再び開かれ、ずんずんと泡を踏みながら俺が中へ入ってきたんだから。


「テギョンさん、ちょっと、やめてください」


俺はミニョの泡まみれの腕を掴むとその上にのっている泡を手のひらで拭い取り、息をのんだ。


「・・・おい、何やってんだ!」


腕を掴まれしゃがんだまま俺を見上げるミニョは、俺の大きな声に身体をびくつかせながらも、とにかく早くここから出て行って欲しいと俺を追い出そうとする。しかし俺はシャワーヘッドを手に取ると、泡だらけのミニョにお湯をかけた。


「キャッ」


勢いよく噴き出したお湯が泡を洗い流していく。露わになる肌。


「やめてください、テギョンさん!」


「恥ずかしがってる場合じゃないだろ。自分で何してるか判ってるのか」


うずくまっていたミニョを無理矢理立たせ、全身の泡を洗い流すと、そこに現れたのは俺の思った通り痛ましい姿だった。

柔らかな肌はスポンジで何度も強く擦られたんだろう。すっかり赤くなり、すりむけて、ところどころ血がにじみ出ている。首も肩も脚も・・・俺に背中を向けているから前はよく見えないが、たぶん胸や腹も同じ状態だろう。


「血が出てるじゃないか、どうしてこんなになるまで・・・」


「血?・・・え?あ、ほんとだ。いたっ・・・気づかなかった・・・」


俺に言われて初めて気がついたようで、ミニョは自分の腕を見て驚いていた。

俺はミニョをバスタオルでぐるりと包み込み、シャワールームから引っ張り出した。椅子に座らせ、とりあえずバスタオルから出ている部分の傷の具合をみる。ひときわ赤くなっているところにそっと触れてみると、俺の指先に赤いものがついた。


「わざとじゃないんですよ、本当に気づかなくて。あそこにあったボディソープ、すごくいいにおいがしたから、いっぱい泡作って、いっぱい擦ったら、私もあのにおいがするかなって思って。・・・・・・あの・・・怒ってます?」


ミニョは顔色を窺うかのように上目遣いで俺を見た。


自分もあのにおいがするかと思って、だと?

それは俺がシヌのにおいがする間は電話に出させないと言ったからか?

つまりミニョはシヌからの電話に出たいから、傷がつくほど身体を擦ってたというのか?血がにじみ出るまで?


俺は震える拳を握りしめ、ぐっと奥歯を噛むと、ミニョを睨みつけた。


「どれだけ俺を傷つければ気が済むんだ。俺の電話には1度も出ないくせに、シヌの電話に出たいからって見せつけるように・・・そこまですることないだろ!」


しつこくつきまとう俺に全身で迷惑だと言っているのかと腹が立つ。


「誤解です!見せつけるとか、そんなんじゃないです!」


「だったら何でこんなこと」


「それは、あの・・・その・・・」


はっきりと答えられず、顔を逸らし口ごもるミニョに俺は更にいら立った。


「ああ、もう、理由なんてどうだっていい、何があっても俺の気持ちは変わらない。その口から何度シヌの名前が出ても俺のことを避けていても関係ない。誰にも渡したくない、俺はお前が好きだ!」


俺はミニョを強く抱きしめた。





        1クリックお願いします

        更新の励みになります

                     ↓


にほんブログ村