「テギョンさん!?」
ミニョの動揺した声。
それはそうだろう、閉まると思った扉は再び開かれ、ずんずんと泡を踏みながら俺が中へ入ってきたんだから。
「テギョンさん、ちょっと、やめてください」
俺はミニョの泡まみれの腕を掴むとその上にのっている泡を手のひらで拭い取り、息をのんだ。
「・・・おい、何やってんだ!」
腕を掴まれしゃがんだまま俺を見上げるミニョは、俺の大きな声に身体をびくつかせながらも、とにかく早くここから出て行って欲しいと俺を追い出そうとする。しかし俺はシャワーヘッドを手に取ると、泡だらけのミニョにお湯をかけた。
「キャッ」
勢いよく噴き出したお湯が泡を洗い流していく。露わになる肌。
「やめてください、テギョンさん!」
「恥ずかしがってる場合じゃないだろ。自分で何してるか判ってるのか」
うずくまっていたミニョを無理矢理立たせ、全身の泡を洗い流すと、そこに現れたのは俺の思った通り痛ましい姿だった。
柔らかな肌はスポンジで何度も強く擦られたんだろう。すっかり赤くなり、すりむけて、ところどころ血がにじみ出ている。首も肩も脚も・・・俺に背中を向けているから前はよく見えないが、たぶん胸や腹も同じ状態だろう。
「血が出てるじゃないか、どうしてこんなになるまで・・・」
「血?・・・え?あ、ほんとだ。いたっ・・・気づかなかった・・・」
俺に言われて初めて気がついたようで、ミニョは自分の腕を見て驚いていた。
俺はミニョをバスタオルでぐるりと包み込み、シャワールームから引っ張り出した。椅子に座らせ、とりあえずバスタオルから出ている部分の傷の具合をみる。ひときわ赤くなっているところにそっと触れてみると、俺の指先に赤いものがついた。
「わざとじゃないんですよ、本当に気づかなくて。あそこにあったボディソープ、すごくいいにおいがしたから、いっぱい泡作って、いっぱい擦ったら、私もあのにおいがするかなって思って。・・・・・・あの・・・怒ってます?」
ミニョは顔色を窺うかのように上目遣いで俺を見た。
自分もあのにおいがするかと思って、だと?
それは俺がシヌのにおいがする間は電話に出させないと言ったからか?
つまりミニョはシヌからの電話に出たいから、傷がつくほど身体を擦ってたというのか?血がにじみ出るまで?
俺は震える拳を握りしめ、ぐっと奥歯を噛むと、ミニョを睨みつけた。
「どれだけ俺を傷つければ気が済むんだ。俺の電話には1度も出ないくせに、シヌの電話に出たいからって見せつけるように・・・そこまですることないだろ!」
しつこくつきまとう俺に全身で迷惑だと言っているのかと腹が立つ。
「誤解です!見せつけるとか、そんなんじゃないです!」
「だったら何でこんなこと」
「それは、あの・・・その・・・」
はっきりと答えられず、顔を逸らし口ごもるミニョに俺は更にいら立った。
「ああ、もう、理由なんてどうだっていい、何があっても俺の気持ちは変わらない。その口から何度シヌの名前が出ても俺のことを避けていても関係ない。誰にも渡したくない、俺はお前が好きだ!」
俺はミニョを強く抱きしめた。
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