シヌのにおいがする。
その言葉に対するミニョの反応は、強い衝撃を受け落ち込んでいるように見えた。
「何なんだ、ったく・・・」
シヌの名前ばかり聞かされ落ち込みたくなるのは俺の方なのに。
「だいたい危ないところを救ってやったのは俺なのに、礼のひとつもないとは」
俺はいらいらとひとしきり部屋の中を歩き回ると、どすんと椅子に腰を下ろした。
ミニョがシヌを好きでも俺の気持ちは変わらない。そうは思っても傷つくものは傷つく。
俺はため息をつきながらシャワールームに目を向けた。
少しでもシヌとの繋がりを断ちたくてあんなことを言ったが、ミニョが出てきたら俺はどうするのか。あれこれ文句をつけて電話できないようにするか、それとも・・・
「そうか、ミニョが出てこなければいいんだ。服もタオルも何もなければミニョはあそこから出られない」
言った直後、俺はさっきよりも大きなため息をついた。
名案というより迷案だな。自分の発した言葉なのに情けなくなってくる。そんなことをしても何の意味もないのに。
じりじりと時間だけが過ぎていく。
10分経ち、20分経ち。
そろそろ出てくるだろうかとシャワールームの方をちらちら見ながら、更に時間は経ち。
「おい、もう1時間だぞ、いくら何でも遅すぎるだろう」
いつまでたっても出てこないミニョが気になり、俺はシャワールームの前に立った。
「俺は別に覗こうとしてるんじゃないからな。なかなか出てこないから心配で様子を見に来ただけだ」
誰に聞かせるわけでもないが、口に出して言ってみる。
半透明の扉は中がよく見えず、俺は耳をそばだてた。
シャワーの音は聞こえない。
「ミニョ?」
声をかけてみるが返事もない。
さっき少しふらついていたし、クスリの影響で中で倒れているのかも。
そう思った俺は急いで扉を開けた。
「キャッ!」
小さな叫び声とともに振り向いたミニョと俺の目が合った。俺の視界に飛び込んできたのは全身泡だらけのミニョ。そして泡は身体だけでなく、床にも大雪が降ったように積もっていた。
「お、起きてるなら返事をしろ、倒れてるかと思ったじゃないか」
うずくまるもこもことした泡のかたまりの隙間から肌が見え隠れする。裸を見られているという恥ずかしさも加わっているせいか、ところどころ見える上気した肌は濃いピンク色に染まっていた。
「私なら大丈夫ですから、早く閉めてくださいっ!」
顔を真っ赤にしながら見られている部分を少しでも少なくしようと、しゃがんでいるミニョは更に縮こまる。
「あ、ああ・・・」
そう返事をしながらも俺の目はミニョに釘付けになっていた。
白い泡を柔肌にまとい羞恥に顔を赤く染める姿は美しく、今すぐにでも手に入れたいという衝動に駆られる。ひと呼吸おいて拳を握りそれを思いとどまると、俺は扉を閉めようとした。しかし、泡から覗いている肩が上気しているだけとは思えないほど赤く、泡もピンク色に染まっていることに気づくと、俺は閉めかけた扉を再び大きく開いた。
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