「テギョンさん、お願いです、降ろしてください。私、シヌさんを待ってないと」
「ダメだ、とにかくすぐにここから離れるぞ」
俺はドアをロックすると車を発進させた。
走り出してからも「降ろしてください」と何度も訴えていたミニョ。そんなミニョの様子がおかしいと感じたのは、それからすぐのことだった。
目の辺りを手で押さえ、何かを振り払うようにしきりに頭を振っている。
「どうかしたのか」
「・・・何だか急に・・・すごく、眠くなって・・・」
「まさか、さっきの店の・・・飲んだのか!?」
「少し、だけ・・・」
「バカ!飲むなって言っただろ!」
「でもあれ、お酒じゃなくて、ジュース・・・」
「そういう問題じゃない、あれには・・・おい、ミニョ!」
俺との会話の途中でうなだれるように眠ってしまったミニョ。どう考えてもグラスに入れられた睡眠薬が原因だろう。
さっきの2人組の男とそいつらに依頼したというヤツに俺はあらためて強い憤りを覚えた。
合宿所に着いても目覚める気配のないミニョを抱き上げ、俺の部屋へと運び込む。ベッドに寝かせると、ミニョの服からはウェイターがこぼした酒の匂いがした。
横たわるミニョの傍らに腰かけ顔を覗き込む。
柔らかな寝顔。これが自然に眠っている顔なら穏やかな気持ちで眺めていられるんだが、そうではないと知っている俺の心は怒りと不安が入り乱れていた。
顔にかかっている髪を指ですくい上げ横へと流す。こんなに間近でゆっくりとミニョの顔を見るのはどれくらいぶりだろう。
俺は前髪から覗く額に唇を押しつけた。
「ん・・・」
覚醒が近いのか、ミニョがわずかに動き出した。
「ミニョ?」
しかし声をかけても目は開かず、返事は寝息だけ。再び名前を呼びながら軽く身体を揺すると、今まで穏やかだった表情がこわばり、眉間にしわが寄った。
「ん・・・違う・・・シヌさん・・・ごめんなさい・・・」
どんな夢を見ているのか・・・
会えなかったことを詫びてるのか?
危ないところを助けたのは俺なのに、きっとミニョはそんなこと気づきもしないで頭の中はシヌのことでいっぱいなんだろうか。
どうしても会わないといけない大事な用とは何なんだ?
眠っていてもシヌの名前を口にするミニョを見ながら、俺はやるせない気持ちでいっぱいだった。
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