星の輝き、月の光 -30ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

ヤッてもいい・・・


下卑た笑いが男の顔に浮かんだ。その言葉の意味することに、腹の底から怒りがこみ上げてくる。


「何だよそれ」


俺は男の胸ぐらを掴むと思いっ切り引っ張り上げた。

男たちに対する怒りで俺の身体は震え、今にも足が床から浮き上がりそうなほど男を持ち上げた。


「お、おい、結局は失敗したんだからいいだろ。怒るなら依頼してきた奴にしろよ」


俺は男を突き放すと急いでミニョのところへ戻った。


「誰と待ち合わせしてる」


ミニョがこんなところに1人で飲みに来るとは思えない。誰かが一緒のはずだ。


「シヌさん、ですけど」


「他には」


「いいえ、誰も」


「ここに来ることを誰かに話したか?」


矢継ぎ早の俺の質問に、ミニョは気圧されたようにただ首を横に振った。


あの男たちに”依頼”したヤツは、ミニョがここへ来ることを知っていた。待ち合わせはシヌだけで、他の誰にも話してないなら、そいつはどうやって今日ミニョがここへ来ることを知ったんだ?

シヌが誰かに話したのか?

その誰かがミニョを狙ってるのか?

危ないところを助けてミニョの気を引こうとしてるのかと思ったが、ミニョを傷つけるのが目的なのか?


「待ち合わせは何時だ?」


「もう過ぎちゃったんですけど・・・でもついさっき、遅れるって連絡が・・・」


今日ジェルミはラジオにシヌが出ると言っていた。番組は生放送でまだ始まっていない。シヌはこの時間にここに来れないことは判っていたはずだ。それなのについさっき遅れるという連絡を?


俺はさっきの男たちにもう1度話を聞こうと振り返ったが、すでにテーブルに男たちの姿はなかった。


「チッ・・・とにかくここから出るぞ」


「私、シヌさんと約束してるんです」


「シヌはこれからラジオだ。1時間待ったって来やしない」


「それでも・・・約束してるんです。私、シヌさんが来るまでここにいます」


シヌにならどれだけ待たされても平気だという顔に俺はムカついた。


「そんな約束どうだっていいだろ」


「どうでもよくないです。今日はすごく大事な・・・大事な用事があるんです。だから私、シヌさんを待ちます」


「そんなにシヌに会いたいのか」


「会いたい、というか・・・会わなきゃいけないんです」


俺から目を逸らし俯くミニョ。だがその言葉にはどうしてもシヌに会うんだという強い意志が感じられた。

しかし俺も引くわけにはいかない。とにかく少しでも早くここから離れた方がいいだろう。


「俺は許可しない。シヌには具合が悪くなったから帰るとでもメールしておけ」


「そんな・・・」


俺は有無を言わせずミニョの腕を掴むと店から連れ出し、停めてあった車に押し込んだ。




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この世の中は不思議で溢れている。いや、不思議というより、俺の理解を越えていると言った方がしっくりくるか。


まずは今、目の前でビビンバをかきこんでいるマ室長がそうだ。

この男、トップアイドルグループ”A.N.JELL”のマネージャーだという自覚があるんだろうか。

加入前の新メンバーに整形を受けさせたところまでは百歩譲って理解を示してやろう。俺のように完璧な容姿の人間と並ぶからには、多少なりとも見映えをよくしておかないとバランスが悪すぎて、グループの質が落ちるからな。

しかし、だからといって整形に失敗したのを隠し、その場をつくろうために双子の片割れを本人と偽って連れて来るなんて言語道断!

しかも新メンバーは男なのに、連れて来たのは女だぞ!


「おい、テギョン、さっきからこっちをじっと見てるが、まさかこれを狙ってるんじゃないだろうな。お前たちは今日一日オフでも俺は忙しいんだ。今食べておかないとあとはいつ食事ができるか判らないんだからこれはやれないぞ。ああ、俺のように有能なマネージャーは忙しくてたまらん。せめてご飯くらいゆっくり食べたいよ」


「誰がそんなもの欲しがるか」


まったく、マ室長の言動は理解できないことが多すぎる。

誰が有能だって?

この男のダメっぷりのせいで、どれだけ俺たちが迷惑をこうむってるか。自分がいかにできないヤツか判らないというのは、それはそれで大した才能かも知れないが、そんなものに振り回されるこっちはたまったもんじゃない。






「シヌヒョン、ミナム知らない?」


外から入ってきたジェルミがシヌに声をかけた。


「さあ、さっきまでその辺にいたが・・・ミナムがどうかしたのか?」


「ジョリーの散歩行こうって約束したのに、待っててもなかなか来ないんだ。ミナムー、ミナムー」


ジェルミ・・・こいつもよく判らないな。

ミナムのことをよく思っていない様子だったのに、ミナムが女だと判った途端、やたらと構いたがる。

おいしいアイスの店があるから食べに行こうとか、ケーキを買いに行こうとか、食べ物に関することが多いが・・・女は甘い物好きだと相場が決まってるから誘いやすいのか?

先週も一緒にジョリーの散歩に行ってたな。口の端にクリームをつけて帰って来たから、シュークリームでも食べて来たんだろう。散歩が目的なのか、食べるのが目的なのか。

変な写真撮られてないだろうな。

プライベートでもアイドルとして恥ずかしくない行動をしてくれよ。






「ジョリーの散歩か・・・俺も出かけるから途中まで一緒に行こう。新しいお茶を買いに行くとこだったんだ」


シヌの場合は最初からよく判らないヤツだったな。

感情の起伏が乏しいのか、大声で笑うことも声を荒らげることもなく、いつも穏やかな笑みを浮かべてて。でも俺は知っている。カメラが向けられていないと、口は笑ってても時々目が笑っていないことを。

心の中じゃ何考えてるか判らない油断のできないヤツ。

この間も今日みたいに「買いたい物があるから途中まで一緒に行こう」とジョリーの散歩に出かけたが、帰りはタクシーで帰って来たぞ。だったら最初から車で出かければいいのに、どうしてそんなめんどくさいことをするんだ?

そもそもシヌはミナムが来るまで、ジョリーの散歩なんて行ったことなかったのに。






パタパタと階段を下りてくる足音がした。


「何だミナム、上にいたのか。早くジョリーの散歩行こ」


二階から下りてきたのはミナム。

こいつもよくわからんヤツだ。

兄のためとはいえ、男のフリをして男ばかりのアイドルグループに入るとは。しかも俺と同室になった時、俺のベッドのすぐ横に布団を敷いたんだぞ。

女としての自覚がないとしか思えん。

いつも何かやらかす事故多発地帯。

こいつの事故に何度巻き込まれたことか。


「ジェルミ、ちょっと待ってください。これ、ヒョンニムに渡してから・・・と、うわっ!」


ミナムは階段の一番下の段を踏み外し、びたんと床に寝そべった。そしてその拍子に持っていたバケツ型の容器を落とし、開いた蓋から、中に入っていたものが床に散らばった。それは紫色のころころとした親指の先ほどの軽そうな物体。


「あああっ、ポップコーンが!せっかくヒョンニムの目にいいと思ってブルーベリー味のを買ってきたのに~」


ガバッ!という擬音が聞こえてきそうなほど勢いよく起き上がったミナムは、床に転がっているバケツを覗いた。


「よかった、まだ中に残ってました」


「おい、まさかそれを俺に食べろと言うんじゃないだろうな」


「ブルーベリーは目にいいんですよ」


「そういう問題じゃない。まだ中に残ってたと言いながら、さっきから落ちてるやつそのバケツに入れてるじゃないか」


ミナムは散乱しているポップコーンをかき集めては、バケツの中へと戻していた。


「大丈夫、三秒ルールです」


「何わけのわからんことを言ってるんだ」


どうしてここでバスケの話が?やっぱりこいつの思考回路も俺には謎だ。


「ミナムー、早くジョリーの散歩行こー」


「ちょっと待ってください、すぐに片づけますから」


まったく、俺の周りには理解しがたいヤツらばかりだな。


「おいミナム、散歩なんて行ってる暇はないぞ。今からキーボードの練習だ、さっさと来い」


昨日も間違えたくせに、ジェルミとのんびり散歩なんてさせるか。シヌも一緒だと?冗談じゃない。

俺は地下の練習室へと向かいながら、人差し指の先でクイクイとミナムを呼んだ。


「はい、ヒョンニム、すぐ行きます!ごめんなさいジェルミ、散歩はまた今度誘ってください」


パタパタと俺の後をついてくるミナム。

その足音を聞きながら、俺はニンマリと笑った。






ここにいるのは理解不能なヤツらばかりだが、その中でも一番理解できないのは、俺自身のことかもな。

ミナムがシヌやジェルミに笑顔を向けるたび、不愉快な気分になる。

楽しそうに話していれば内容が気になってイライラする。

事故多発地帯で俺に迷惑をかけまくっているこいつのことが気になって仕方ない。

本当に理解に苦しむが・・・どうやら俺はコ・ミナムに惚れてしまったみたいだ。


「あーあ、ジョリーの散歩、楽しみにしてたのに・・・」


「ミナム、つべこべ言ってないで練習しろ。上手く弾けたら後で買い物にでも連れてってやる」


「本当ですか。ヒョンニム、ありがとうございます」


「喜ぶのはまだ早い、上手く弾けたらと言っただろ。それと・・・」


俺は拳を口元にあてると小さく咳払いをした。


「二人きりの時はヒョンニムはやめろと言っただろ」


「あ、そうでした。でも私のこともミナムって呼んでますよ、オッパ」


したり顔で俺を見るミナム。


「う、うるさい、さっさと始めろ」


はーい、と言ってキーボードを弾く姿を見ながら俺は首を傾げた。

本当にどこがいいんだろうか?

いくら考えても答えが出ない。

時間のムダだ。

だから俺は考えるのはやめて、心に従うことにした。


「ミニョ」


名前を呼ばれ、顔を上げたミニョにキスをする。唇が触れただけの軽いキスなのに、一瞬で顔を真っ赤に染めるミニョが可愛くて仕方ない。

俺は常日頃、よく考えて行動する方なんだが・・・

たまには心のままにというのも、悪くないな。



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ミニョのいる場所から男たちのテーブルまでは数メートル。俺は足早に近づき、楽しそうに話している男たちのテーブルに手を置いた。


「何を入れた?」


「は?何だよ、いきなり」


会話を邪魔された2人はムッとした顔で俺を見上げる。その表情は、さっきミニョに見せていたものとはガラリと変わって、ずいぶん攻撃的だった。


「あそこのグラス・・・運ぶ途中で何か入れただろ。俺のとこからはしっかり見えてたぞ」


俺は視線をミニョへと向けた。


それは偶然だった。

事故処理はほとんど終わったように見えたが、男がグラスを運んでくるのを見て、まさかあの男も途中でコケてミニョにぶっかけるんじゃないかと手元を注視してた時だった。男はグラスを左手に持ち、右手は上着のポケットに入れていたが、その手がポケットから出ると、持っていた何かをグラスへ入れるのが見えた。


「ずいぶんと手慣れたように見えたが・・・何度も練習してきたのか?それともよくやってることなのか?」


「俺が毒でも入れたってのか?ヘンないいがかりつけんじゃねーよ」


見た目はまともな恰好をしているが、その口調と目つきはまるでチンピラのようだ。


「入れたのが毒物ならいつまでもこんなとこにいないだろ、真っ先に疑われるだろうから。じゃあ何を入れたのか。こういう店で下衆な男が女のグラスに何か入れるとしたら、思いあたるのはひとつ。睡眠薬か?錠剤じゃすぐには溶けないから粉か液体だろうな。紙に包んで持ち込んだか瓶に入ってるか・・・で、それはまだポケットの中か?」


俺が口の片端を上げると男はギクリとした顔で右手をポケットへ突っ込んだ。

男の様子からそこに見られたくない何かが入っているのは間違いない。

グラスを運んでくる途中で何か入れるというのはつい最近見たドラマと同じで、まさかそれが現実に目の前で起こるとは思ってもみなかった。


「とりあえず、警察呼ぶか」


「ち、ちょっと待て、あんたファン・テギョンだろ、騒ぎになると面倒なんじゃないか。それにあんたには関係ないことだろ」


警察という言葉に、喧嘩腰だった男たちの態度は一変しておどおどとしたものになる。

確かにこの状況で警察に連絡すれば俺も事情を聞かれるだろう。マスコミが嗅ぎつければ煩わしいし、面倒なことは嫌いだ。クスリを盛られたのが見知らぬ女だったらほっといただろう。

だが、あそこにいるのはミニョで、無関係じゃない。


「あいにく、あいつは俺の連れなんだ」


「なっ!・・・チッ、話が違うじゃないか、1人じゃないのかよ・・・・・・なあ、ちょっと待ってくれ、俺たちは頼まれただけなんだ」


ただの言い逃れかも知れないが、男の言葉に俺は携帯へ伸ばした手を止めた。


「どういうことだ」


「依頼があったんだよ、女の写真と金が送られてきて、今日この店にその女が来るから拉致して欲しいって」


「誰からだ」


「さあ、知らないな。別に誰だろうと俺たちは金さえもらえればいいし。女拉致して指定の場所まで連れてって、約束の時間になったらそこへ誰かが助けに現れる。俺たちはそいつに殴られるフリをして終わり。成功報酬は前金の2倍」


男たちは普段からそういうことをしているのか、何でもないことのように話した。


「ろくでもないことしてるな」


一体誰がそんな依頼を?ミニョに惚れた誰かが、ミニョの気を引こうとそんなことを考えたのか?


「あんたさっき俺たちのことゲスって言っただろ。でもそいつのほうがもっとゲスいぞ。そいつ、時間になっても来なかったら、その女・・・ヤッてもいいって言ってたんだから」


訝しむ俺を見ながら男はニヤリと笑った。





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