日蝕 33 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

ミニョのいる場所から男たちのテーブルまでは数メートル。俺は足早に近づき、楽しそうに話している男たちのテーブルに手を置いた。


「何を入れた?」


「は?何だよ、いきなり」


会話を邪魔された2人はムッとした顔で俺を見上げる。その表情は、さっきミニョに見せていたものとはガラリと変わって、ずいぶん攻撃的だった。


「あそこのグラス・・・運ぶ途中で何か入れただろ。俺のとこからはしっかり見えてたぞ」


俺は視線をミニョへと向けた。


それは偶然だった。

事故処理はほとんど終わったように見えたが、男がグラスを運んでくるのを見て、まさかあの男も途中でコケてミニョにぶっかけるんじゃないかと手元を注視してた時だった。男はグラスを左手に持ち、右手は上着のポケットに入れていたが、その手がポケットから出ると、持っていた何かをグラスへ入れるのが見えた。


「ずいぶんと手慣れたように見えたが・・・何度も練習してきたのか?それともよくやってることなのか?」


「俺が毒でも入れたってのか?ヘンないいがかりつけんじゃねーよ」


見た目はまともな恰好をしているが、その口調と目つきはまるでチンピラのようだ。


「入れたのが毒物ならいつまでもこんなとこにいないだろ、真っ先に疑われるだろうから。じゃあ何を入れたのか。こういう店で下衆な男が女のグラスに何か入れるとしたら、思いあたるのはひとつ。睡眠薬か?錠剤じゃすぐには溶けないから粉か液体だろうな。紙に包んで持ち込んだか瓶に入ってるか・・・で、それはまだポケットの中か?」


俺が口の片端を上げると男はギクリとした顔で右手をポケットへ突っ込んだ。

男の様子からそこに見られたくない何かが入っているのは間違いない。

グラスを運んでくる途中で何か入れるというのはつい最近見たドラマと同じで、まさかそれが現実に目の前で起こるとは思ってもみなかった。


「とりあえず、警察呼ぶか」


「ち、ちょっと待て、あんたファン・テギョンだろ、騒ぎになると面倒なんじゃないか。それにあんたには関係ないことだろ」


警察という言葉に、喧嘩腰だった男たちの態度は一変しておどおどとしたものになる。

確かにこの状況で警察に連絡すれば俺も事情を聞かれるだろう。マスコミが嗅ぎつければ煩わしいし、面倒なことは嫌いだ。クスリを盛られたのが見知らぬ女だったらほっといただろう。

だが、あそこにいるのはミニョで、無関係じゃない。


「あいにく、あいつは俺の連れなんだ」


「なっ!・・・チッ、話が違うじゃないか、1人じゃないのかよ・・・・・・なあ、ちょっと待ってくれ、俺たちは頼まれただけなんだ」


ただの言い逃れかも知れないが、男の言葉に俺は携帯へ伸ばした手を止めた。


「どういうことだ」


「依頼があったんだよ、女の写真と金が送られてきて、今日この店にその女が来るから拉致して欲しいって」


「誰からだ」


「さあ、知らないな。別に誰だろうと俺たちは金さえもらえればいいし。女拉致して指定の場所まで連れてって、約束の時間になったらそこへ誰かが助けに現れる。俺たちはそいつに殴られるフリをして終わり。成功報酬は前金の2倍」


男たちは普段からそういうことをしているのか、何でもないことのように話した。


「ろくでもないことしてるな」


一体誰がそんな依頼を?ミニョに惚れた誰かが、ミニョの気を引こうとそんなことを考えたのか?


「あんたさっき俺たちのことゲスって言っただろ。でもそいつのほうがもっとゲスいぞ。そいつ、時間になっても来なかったら、その女・・・ヤッてもいいって言ってたんだから」


訝しむ俺を見ながら男はニヤリと笑った。





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