星の輝き、月の光 -24ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

出て行こうとするシヌを引き止めたミニョは、二人だけで話がしたいと言った。

何も言わずに出て行こうとしたんだから、シヌは俺の言葉に納得したんだと思う。それでも話がしたいというミニョは、けじめとして、自分の口からきちんと別れを告げたいということだろうか。

しかし部屋に二人きりにするのが不安だった俺は、なぜか俺が近くにいるのを嫌がったミニョを説得し、少し離れたところから様子を窺うことにした。




リビングにミニョとシヌ、俺は腕組みをしながら冷蔵庫にもたれて。

どんな言葉を交わしてるのか・・・

内容までは聞こえてこないが、シヌの手には携帯があり、ミニョは妙にそれを気にしているように見えた。

シヌが納得してるならそれほど時間はかからないはず。

しかしすぐに済むと思っていた二人の会話はなかなか終わらず、俺はいらいらと指先で腕を叩いていた。

シヌと話しながらミニョが時々俺を見る。二度、三度と、ためらいがちに。

重たい空気が流れてくる。

何だか嫌な予感がする。

そして数分後、それは現実のものとなった。




なぜそんなことになったのか判らないが、俺の前には俯くミニョがいた。


「あの、テギョンさん、ごめんなさい・・・」


『ごめんなさい』


それはついさっきまでの流れでは、俺に向けられる言葉ではないはず。それなのにミニョは俺にそう言うと、俯いたまま頭を下げた。


「ちょっと待て、どういうことだ」


「私、やっぱり、シヌさんが・・・」


俯くミニョの横ではシヌが口元に静かな笑みを浮かべて立っていた。

わけが判らない。

俺のことを好きだと言ったのはついさっきだ。なのにその同じ口から、今度はまったく逆の言葉が放たれたんだから。

柔らかな身体を抱きしめ、甘い唇を味わい、最高に幸せな気分に包まれていたのに。

あれは夢だったのかと思うようなまさかの展開に、俺の思考はついていけない。


「テギョン、ミニョを責めるなよ。ミニョはもう一度よく考えて出した答えに、素直に従っただけだ」


「ミニョ・・・本当なのか?」


ミニョはシヌに肩を抱かれながら、小さく頷いた。

シヌがニヤリと笑いながら俺を見ている。


「急にどうして・・・そんなんじゃ俺は納得できないぞ」


「・・・ごめんなさい・・・私、やっぱり・・・シヌさんが・・・・・・好き・・・なんです・・・」


下を向いたまま、絞り出すようにミニョが呟いた。最後の方は消え入りそうなほど小さな声で。


違う、これはミニョの本心じゃない。


もし本当にシヌが好きだというなら、俺に後ろめたい気持ちがあっても、俺の顔を見て、俺の目を見ながら言うはずだ。今まで真剣に伝えようとしたことは、しっかりと俺の目を見て言っていた。

だから違う。

どうしてそんなことを言うのか判らないが、絶対に違う・・・



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「隠れてないで下りてこいよ」


シヌは呼びかけるが二階は静かなまま。


「ミニョ、俺は約束を守りたいんだけど・・・下りてこないなら、テギョンに確認してもらおうか」


バタバタと慌てた足音が階段を下りてきた。

二階に顔を向けながらミニョを呼んでいたシヌの顔はくすりと笑っていたのに、裸足で駆け下りてきたミニョを見て、その笑みは波にさらわれるように引いていった。


「バス・・・ローブ?」


シヌが小さく呟いた。


「あ、あのっ、シヌさんっ、私、お店で待ってたんですけど、ちょっと事情があって・・・」


バスローブの胸元を押さえながらしゃべるミニョの顔は青ざめ、視線が泳ぐ。


「なるほど・・・どうしてテギョンがいたのか不思議だったんだけど、そういうことか。初めからミニョが呼んでたんだ。俺と会った後で、二人でここに来るつもりだったってわけか。で、その恰好か・・・」


「えっ?そんな・・・違いますっ!」


ミニョは大きく首を横に振った。


「シヌ、誤解してるようだが、ミニョのその姿はバーで酒をかけられたからシャワーを浴びさせただけだ。シヌが考えてるようなことは何もない。それに俺が店にいたのは、バスに乗ってるミニョを偶然見つけて、勝手に後を尾けたからだ」


ミニョは俺のことを好きだと言った。シヌと別れるとも。だからシヌが何をどう誤解しようが構わない。

しかしその内容はミニョを非難していたし、何よりミニョの名誉のためにも誤解を解いておきたかった。
俺はミニョの腕を掴むとシヌから護るように背中に隠した。

シヌはそれを静かな目で見ていた。


「ミニョ、上で聞いてたんだろ、俺たちの話。どっから聞いてた」


シヌの言葉はミニョに向けられているのに、その目はじっと俺を見ていた。


「それは、あの・・・・・・・・・女の人と、ホテルにって・・・」


シヌの目が笑ったように見えた。


「どう思った?」


「・・・・・・」


「テギョンとアヨンのつき合いは長いよ」


「・・・・・・」


「それでもテギョンがいいの?」


シヌの追及に揺れているのか、ミニョは黙ったまま。


「ミニョ、違う。いや、違うというか・・・とにかく後でちゃんと話す。シヌ、ミニョはお前と別れたがってる。フラれたんだからさっさと諦めて、ここから出て行け」


シヌがミニョにしようとしたこと、俺は許せない。今のシヌは俺には危険人物としか映らず、少しでもミニョから遠ざけたかった。

しかしミニョを追ってここまで来たシヌが、俺が帰れと言ったくらいで素直に帰るとは思えない。どう動くのかと身構えていたが。


「・・・判った・・・」


短い返事。

そこにはさっきまで挑戦的な笑みを浮かべていたシヌはいない。真っ直ぐに俺の目を見たシヌは、そのまま黙って俺の横を通り過ぎた。


あっけない・・・?


意外な行動に訝しみながらも俺はほっと息をついたが・・・


「ちょっと待ってください」


シヌの後ろ姿に、ミニョが声をかけた。




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左手はシヌのシャツを掴んだまま、右手はシヌの左手に収まったまま。俺は両方の手を震わせながらシヌを睨みつけていた。

ケンカで勝っても嬉しくないと言っていたわりに、唇の両端をゆっくりと引き上げているシヌの顔は、いつもの微笑みではなく、あきらかにかすり傷ひとつ負わせることができない俺に、愉悦を感じているようだった。


「よくそんなひどいこと言えるな。ミニョを傷つけて何とも思わないのか」


「どうしても傍に置きたい、それだけ愛してるんだ」


「違う、そんなの愛じゃない。ただの執着だ」


「どっちだって構わないだろ。何をそんなに感情的になってるんだ、たかが女のことで」


「たかが?ミニョのことそんな風に思ってたのか」


「俺が言ってるのはテギョンのことだよ」


「何?」


シヌの上がっていた口角が下がっていく。そして不愉快そうに眉間にしわを寄せると、いつまで掴んでるんだと俺の左手をベリッとシャツから引きはがした。


「女とホテルに行ってるんだろ。撮られたのは一人みたいだが、何人と寝てるんだ?ミニョもその一人にしたいだけなんだろ。テギョンの方こそミニョに執着してるだけじゃないのか」


ホテル?撮られる?

シヌの言っていることがすぐには理解できなかったが、しばらく考えると俺の頭に一冊の雑誌が浮かんだ。

一度だけアヨンとホテルに行った。

あの後週刊誌に記事が出ると社長に呼び出され小言を言われたが、黙って頭を下げただけだった。

あの時の俺はどうかしていた。ミニョにフラれたことがショックだったとはいえ、どうして俺は・・・


「あれは・・・違う・・・」


「違う?あの写真がでっちあげだとでも?」


「確かにあれは・・・・・・でも、アヨンとは・・・」


「アヨン?・・・アヨンって確か・・・」


シヌは何かを考えるように視線を止め、次の瞬間、吐き捨てるように短く笑った。


「ハッ、テギョン、まだあの店に行ってたのか」


アヨンが誰か判ったのか、呆れたように笑うシヌの肩が大きく揺れた。


「ミニョのことが好きだと言いながら、店に通って、ずっと別の女を抱いてたってわけか。ミニョがアフリカに行ってる間も、帰ってきてからも、ずっと」


「違う、アヨンとはあの時だけだ」


「そんな話、信用できると思うか?」


「シヌがどう思おうが勝手だ。でも事実だ」


「そうだな、俺にどう思われても関係ないよな。でも・・・ミニョはどう思うだろう」


「何?」


くっくっとシヌの肩が揺れる。


「ミニョ、そこにいるんだろ、さっきから気配を感じる。下りてこいよ」


シヌは二階に向かって声をかけた。





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