左手はシヌのシャツを掴んだまま、右手はシヌの左手に収まったまま。俺は両方の手を震わせながらシヌを睨みつけていた。
ケンカで勝っても嬉しくないと言っていたわりに、唇の両端をゆっくりと引き上げているシヌの顔は、いつもの微笑みではなく、あきらかにかすり傷ひとつ負わせることができない俺に、愉悦を感じているようだった。
「よくそんなひどいこと言えるな。ミニョを傷つけて何とも思わないのか」
「どうしても傍に置きたい、それだけ愛してるんだ」
「違う、そんなの愛じゃない。ただの執着だ」
「どっちだって構わないだろ。何をそんなに感情的になってるんだ、たかが女のことで」
「たかが?ミニョのことそんな風に思ってたのか」
「俺が言ってるのはテギョンのことだよ」
「何?」
シヌの上がっていた口角が下がっていく。そして不愉快そうに眉間にしわを寄せると、いつまで掴んでるんだと俺の左手をベリッとシャツから引きはがした。
「女とホテルに行ってるんだろ。撮られたのは一人みたいだが、何人と寝てるんだ?ミニョもその一人にしたいだけなんだろ。テギョンの方こそミニョに執着してるだけじゃないのか」
ホテル?撮られる?
シヌの言っていることがすぐには理解できなかったが、しばらく考えると俺の頭に一冊の雑誌が浮かんだ。
一度だけアヨンとホテルに行った。
あの後週刊誌に記事が出ると社長に呼び出され小言を言われたが、黙って頭を下げただけだった。
あの時の俺はどうかしていた。ミニョにフラれたことがショックだったとはいえ、どうして俺は・・・
「あれは・・・違う・・・」
「違う?あの写真がでっちあげだとでも?」
「確かにあれは・・・・・・でも、アヨンとは・・・」
「アヨン?・・・アヨンって確か・・・」
シヌは何かを考えるように視線を止め、次の瞬間、吐き捨てるように短く笑った。
「ハッ、テギョン、まだあの店に行ってたのか」
アヨンが誰か判ったのか、呆れたように笑うシヌの肩が大きく揺れた。
「ミニョのことが好きだと言いながら、店に通って、ずっと別の女を抱いてたってわけか。ミニョがアフリカに行ってる間も、帰ってきてからも、ずっと」
「違う、アヨンとはあの時だけだ」
「そんな話、信用できると思うか?」
「シヌがどう思おうが勝手だ。でも事実だ」
「そうだな、俺にどう思われても関係ないよな。でも・・・ミニョはどう思うだろう」
「何?」
くっくっとシヌの肩が揺れる。
「ミニョ、そこにいるんだろ、さっきから気配を感じる。下りてこいよ」
シヌは二階に向かって声をかけた。
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