日蝕 46 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

いつものポーカーフェイスのように、シヌの背中からは何も読み取ることができない。

しかし、しばらくすると、大きく息を吐いたのが俺の手に伝わってきた。


「やっぱりダメだなチンピラは。使えないうえに口も軽い」


いつも穏やかな微笑みを浮かべている顔からは想像できない冷たい声。

振り向いたシヌはフッと鼻で笑った。

それを見て俺は拳を強く握った。

俺は疑いつつも否定して欲しかったんだと思う。「何わけの判らないこと言ってるんだ」と。

だけど俺の思いはあっさりと裏切られ、その衝撃は必死で抑え込んでいたものをプツリと切った。


「シヌッ!」


俺はシヌへ殴りかかった。しかしシヌはそれを片足を少し後ろに引き、上体を斜めに向けるというわずかな動きでかわし、俺の拳は空を切るだけだった。


「やめとけ、ケンカでテギョンに勝ったって、嬉しくも何ともない」


目標物を失ってよろける俺を見るシヌの目は、まるで相手にならない格下の者を見るかのように冷めていた。

自分が勝つのは当然だとでも言いたげな笑いが、口元に浮かんでいる。


「俺だってケンカなんてするつもりはない。今のシヌにはその価値さえない。俺はただシヌが何をしたのか判らせたいだけだ」


はっきり言って俺は殴り合いのようなケンカをしたことがない。しかしシヌがケンカ慣れしてるんだろうということは、今の身のこなし方で判った。

勝てる相手じゃないということも。

それでも俺はシヌを殴りたかった。今までの人生で人を殴りたいと思ったのは初めてのこと。

それくらい今の俺は、自分の中に激しく湧き上がるものを相手にぶつけたかった。


「何であいつらに襲わせるようなこと!・・・ミニョは俺を好きだと言った。フラれた腹いせか?」


「腹いせ?俺はそんな一時の感情に流されるようなことはしない」


「じゃあ何で」


「ミニョは俺から離れたいと言ったんだ、もう俺に抱かれるのは嫌だと。だったら一度、他の男に抱かれてみればいいと思った。見ず知らずの男にヤられれば、俺とのセックスがどれだけよかったか、身に染みて判るだろ。それにもうテギョンには会いたくなくなるはずだ。自分の身に起きたことを知られないためにもね。そして俺はミニョの傍にいて、傷ついた心を癒してやる。震える身体を優しく抱きしめながら・・・一石二鳥だろ?いや、三鳥か?でも結局、計画はパー。テギョンのせいで無駄金を払っただけになったな」


睨みつける俺の視線を避けることなく、真正面から受け止めたシヌは、罪悪感など微塵も感じられない目で俺を見ていた。

シヌの話を聞きながら、俺の全身は震えていた。握った拳は手のひらに爪が食い込んでいる。


目の前の男は一体何を言ってるんだ?


シヌの考えは俺には到底理解できないことだったし、理解したいとも思わなかった。もっとも頭に血が上っていて、何かを考えるなんて煩わしいこと、今の俺にはできない。

シヌの言葉はただの意味不明な単語の羅列になって、脳の表面をすべり、感情を逆なでする。


「勉強になった。今度はもうちょっとマシなヤツを雇うよ」


涼しい顔でそう言い放つシヌに、身体が動いた。

俺はシヌの胸ぐらを掴むと、思い切り顔を殴った。

しかしシヌの左頬に当たったと思った俺の拳は、パシッという乾いた音とともにシヌの手のひらに収まっていた。



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