「隠れてないで下りてこいよ」
シヌは呼びかけるが二階は静かなまま。
「ミニョ、俺は約束を守りたいんだけど・・・下りてこないなら、テギョンに確認してもらおうか」
バタバタと慌てた足音が階段を下りてきた。
二階に顔を向けながらミニョを呼んでいたシヌの顔はくすりと笑っていたのに、裸足で駆け下りてきたミニョを見て、その笑みは波にさらわれるように引いていった。
「バス・・・ローブ?」
シヌが小さく呟いた。
「あ、あのっ、シヌさんっ、私、お店で待ってたんですけど、ちょっと事情があって・・・」
バスローブの胸元を押さえながらしゃべるミニョの顔は青ざめ、視線が泳ぐ。
「なるほど・・・どうしてテギョンがいたのか不思議だったんだけど、そういうことか。初めからミニョが呼んでたんだ。俺と会った後で、二人でここに来るつもりだったってわけか。で、その恰好か・・・」
「えっ?そんな・・・違いますっ!」
ミニョは大きく首を横に振った。
「シヌ、誤解してるようだが、ミニョのその姿はバーで酒をかけられたからシャワーを浴びさせただけだ。シヌが考えてるようなことは何もない。それに俺が店にいたのは、バスに乗ってるミニョを偶然見つけて、勝手に後を尾けたからだ」
ミニョは俺のことを好きだと言った。シヌと別れるとも。だからシヌが何をどう誤解しようが構わない。
しかしその内容はミニョを非難していたし、何よりミニョの名誉のためにも誤解を解いておきたかった。
俺はミニョの腕を掴むとシヌから護るように背中に隠した。
シヌはそれを静かな目で見ていた。
「ミニョ、上で聞いてたんだろ、俺たちの話。どっから聞いてた」
シヌの言葉はミニョに向けられているのに、その目はじっと俺を見ていた。
「それは、あの・・・・・・・・・女の人と、ホテルにって・・・」
シヌの目が笑ったように見えた。
「どう思った?」
「・・・・・・」
「テギョンとアヨンのつき合いは長いよ」
「・・・・・・」
「それでもテギョンがいいの?」
シヌの追及に揺れているのか、ミニョは黙ったまま。
「ミニョ、違う。いや、違うというか・・・とにかく後でちゃんと話す。シヌ、ミニョはお前と別れたがってる。フラれたんだからさっさと諦めて、ここから出て行け」
シヌがミニョにしようとしたこと、俺は許せない。今のシヌは俺には危険人物としか映らず、少しでもミニョから遠ざけたかった。
しかしミニョを追ってここまで来たシヌが、俺が帰れと言ったくらいで素直に帰るとは思えない。どう動くのかと身構えていたが。
「・・・判った・・・」
短い返事。
そこにはさっきまで挑戦的な笑みを浮かべていたシヌはいない。真っ直ぐに俺の目を見たシヌは、そのまま黙って俺の横を通り過ぎた。
あっけない・・・?
意外な行動に訝しみながらも俺はほっと息をついたが・・・
「ちょっと待ってください」
シヌの後ろ姿に、ミニョが声をかけた。
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