出て行こうとするシヌを引き止めたミニョは、二人だけで話がしたいと言った。
何も言わずに出て行こうとしたんだから、シヌは俺の言葉に納得したんだと思う。それでも話がしたいというミニョは、けじめとして、自分の口からきちんと別れを告げたいということだろうか。
しかし部屋に二人きりにするのが不安だった俺は、なぜか俺が近くにいるのを嫌がったミニョを説得し、少し離れたところから様子を窺うことにした。
リビングにミニョとシヌ、俺は腕組みをしながら冷蔵庫にもたれて。
どんな言葉を交わしてるのか・・・
内容までは聞こえてこないが、シヌの手には携帯があり、ミニョは妙にそれを気にしているように見えた。
シヌが納得してるならそれほど時間はかからないはず。
しかしすぐに済むと思っていた二人の会話はなかなか終わらず、俺はいらいらと指先で腕を叩いていた。
シヌと話しながらミニョが時々俺を見る。二度、三度と、ためらいがちに。
重たい空気が流れてくる。
何だか嫌な予感がする。
そして数分後、それは現実のものとなった。
なぜそんなことになったのか判らないが、俺の前には俯くミニョがいた。
「あの、テギョンさん、ごめんなさい・・・」
『ごめんなさい』
それはついさっきまでの流れでは、俺に向けられる言葉ではないはず。それなのにミニョは俺にそう言うと、俯いたまま頭を下げた。
「ちょっと待て、どういうことだ」
「私、やっぱり、シヌさんが・・・」
俯くミニョの横ではシヌが口元に静かな笑みを浮かべて立っていた。
わけが判らない。
俺のことを好きだと言ったのはついさっきだ。なのにその同じ口から、今度はまったく逆の言葉が放たれたんだから。
柔らかな身体を抱きしめ、甘い唇を味わい、最高に幸せな気分に包まれていたのに。
あれは夢だったのかと思うようなまさかの展開に、俺の思考はついていけない。
「テギョン、ミニョを責めるなよ。ミニョはもう一度よく考えて出した答えに、素直に従っただけだ」
「ミニョ・・・本当なのか?」
ミニョはシヌに肩を抱かれながら、小さく頷いた。
シヌがニヤリと笑いながら俺を見ている。
「急にどうして・・・そんなんじゃ俺は納得できないぞ」
「・・・ごめんなさい・・・私、やっぱり・・・シヌさんが・・・・・・好き・・・なんです・・・」
下を向いたまま、絞り出すようにミニョが呟いた。最後の方は消え入りそうなほど小さな声で。
違う、これはミニョの本心じゃない。
もし本当にシヌが好きだというなら、俺に後ろめたい気持ちがあっても、俺の顔を見て、俺の目を見ながら言うはずだ。今まで真剣に伝えようとしたことは、しっかりと俺の目を見て言っていた。
だから違う。
どうしてそんなことを言うのか判らないが、絶対に違う・・・
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