星の輝き、月の光 -23ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

俺の言葉に反応したのは、シヌよりもミニョの方が先だった。

「えっ!」という声とともに、ずっと俯いていた顔が勢いよく上げられた。


「テギョンさん!どうして急に!そんな・・・」


大きく見開かれた目が不安げに揺れている。


「見ての通り、俺たちの関係は最悪だ。こんな状態でバンドが続けられると思うか?」


「でも、A.N.JELLにはテギョンさんがいなきゃ」


「ボーカルならミナムがいる。それに・・・ギタリストは必要だ。そう考えれば俺が抜けるのが妥当だろう」


俺はシヌに視線を向けた。


「テギョン、何を考えてる?」


「知ってるだろ、俺は自分勝手で、わがままなんだ」


皮肉を込めて、口の片端を上げた。

俺の突然の宣言に、シヌの顔からは優越的な笑みも苦々しい表情も消え、訝しむようにしわの寄った眉間と、細められた目だけが残っていた。それは ”どうせ本当にやめる気なんかないくせに” と疑っているようだった。


「社長への連絡は早い方がいいな」


俺はシヌの持っていた携帯に目を向け、ちょうどいいからとシヌに電話をかけさせた。そして社長が出ると、シヌの手から携帯を奪い、周りにも声が聞こえるようにした。


「アン社長、俺です」


「ん?何だテギョンか。どうした、こんな時間に」


「急な話で申し訳ないんですが・・・俺は今日でA.N.JELLを抜けます」


「・・・・・・は?・・・・・・ハハハ、テギョンでもそんな冗談を言うんだな」


「冗談じゃありません」


「ちょっと待て!急に何を言い出すんだ!?」


「それと契約の件ですが、更新はしないことにしたので事務所も辞めます。詳しい話は、また後日」


「おい、ギョン!」


俺は一方的に用件だけ言うと、電話を切った。

シヌの手に戻った携帯は、社長からだろう、呼び出し音が鳴り続けているが、シヌは電話に出ることなく、理解できないといった目で俺をじっと見ていた。


「正気か?」


「ああ、至ってな」


「辞めてどうする。別の事務所に移籍するのか」


「いいや・・・・・・俺は芸能界をやめる」


「テギョンさん!」


おろおろと何か言いたげに揺れていたミニョの目が、驚きに震えた。


「俺はシヌと勝負をした憶えはないし、したいと思ったこともない。それでもまだそんなものに拘るなら、今度は相手をしてやろう。A.N.JELLをやめ、事務所も辞めた俺と勝負したいならな。でもミニョは関係ない、お前のくだらない感情にミニョを巻き込むな!」


俺はシヌに向かって語気鋭く言い放つと、不安そうな顔をしているミニョに手を伸ばした。


「ミニョ、そんなとこで何をしてる。お前のいる場所はそこじゃないだろ」


何かを訴えるようなミニョの目。

そして俺の差し出した手に、ピクリと反応する。

そろりと上がる手を掴むと、俺はぐいと引き寄せた。


「今あるものを・・・これから手にできるすべてのものを放棄するつもりか?」


「ああ、ファン・テギョンはな。それは俺の望む世界じゃない。これからの俺は”皇帝”じゃない、ただの一人の男として輝いてやる」


俺の言葉の意味が判ったのか、シヌの表情が険しくなった。


「ずいぶん簡単に言うんだな」


「簡単に言ったつもりはないんだが・・・これから社長を説得しないといけないし、考えることも山ほどある。でも、今俺が一番に考えてるのは、ミニョのことだ」


歯噛みしているのか、シヌの表情は強張っている。

ミニョを腕の中に閉じ込め、俺は身体の横で拳を握るシヌに、静かな目を向けた。




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「テギョン、ずいぶん情けない顔をしてるぞ。その顔を見たら・・・ファンは幻滅するかもな」


俺の打ちひしがれた様子を見て、シヌは嬉しさが隠しきれないといった感じで顔に笑みを浮かべていた。


「俺の勝ち、だ」


「・・・勝ち?」


「そうだよ、前にも言っただろ、俺の勝ちだって」


シヌがくすくすと肩を揺らした。


「ミニョは俺を引き止めた、そして俺が好きだと言った、だから俺の勝ち。素直に負けを認めたらどうだ?だいたいテギョンは欲張りなんだよ。恵まれた環境で育って、才能もカリスマ性もある。抱えきれないほどいろんなものを持ってるくせに、その上ミニョも手に入れようなんて。自分勝手でわがままで・・・・・・ファン・ギョンセという大きな後ろ盾の上に平然と胡坐をかいて座ってる」


シヌの顔からスッと笑みが消えた。目も口も微笑むことをやめると、俺を突き刺す氷の視線だけがその場に残った。


「俺はずっと、テギョンが嫌いだった」


あまりにも感情的に俺に対する嫌悪を露にするシヌは初めて見た。




父さんとはジャンルは違うが、同じ音楽という世界にいることは間違いない。

だが父さんに何かしてくれと頼んだことはないし、むしろ俺は彼を避けていた。



『ファン・ギョンセという大きな後ろ盾・・・』



そんな風に見られていたとは知らなかった。

しかし、これがずっと抱えてきたシヌの素直な気持ちなんだろう。言い争いをするのは初めてではないが、今日のシヌは今まで見たことのないシヌだった。

勝手な男だと、事務所の会議室で対峙した時とは違う・・・

いや、思い返してみると、あの時のシヌと今のシヌはかぶる。ミニョがどうこうというより、俺に勝ったと優越感に浸った表情の方が印象に残っていた。


俺はふと、アヨンの言葉を思い出した。

ミニョを手に入れたことよりも、それによって俺がダメージを受けることの方がシヌは嬉しいんじゃないか・・・と。

俺に対する敵対心、コンプレックス・・・


ミニョは相変わらず俯いたまま。

シヌを好きだと言ったくせに、肩を抱かれている身体は、嫌がっているように見えた。

やっぱり違う、さっきのはミニョの本心じゃない。シヌと話をしたわずかな時間に、俺を避ける何かがあったのは間違いない。


シヌが俺に近づき耳打ちをした。


「俺たちが一人の女を取り合ってるなんて知れたら、マスコミがすぐに喰いつくぞ。一般人だからとマスコミはある程度抑えられても、ファンは黙ってないだろう。ミニョを護りたいと思うなら、この場合、手を引くのはテギョンの方じゃないか?」


一度消えた微笑みが、再びシヌに戻っていた。


コンサートの告白は演出ということにしてあった。対してシヌはミニョとのツーショットが何度もネットに載っている。ミニョが俺のもとに戻れば、一人の女を取り合ったと面白おかしく書かれるだろう。

どこへ行ってもそのことで記者に追いかけられ、ジェルミとミナムにも迷惑をかける。そしてファンの非難は相手に・・・ミニョに集中する。


ミニョを護るためにはどうしたらいいか・・・


俺は決断した。


「嫉妬か?醜いな。そんなもののせいで、今ミニョに心にもないことを言わせてるなら、俺がそれを断ち切ってやる」


俺は一度深く呼吸すると、腹の底に力を入れ、笑みを浮かべているシヌを睨むように見据えた。


「俺はA.N.JELLをやめる」




。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆



マイページが変わっちゃったーΣ(・ω・ノ)ノ!

 


これはちょっと・・・



使いにくいよ~

 


慣れるまで時間がかかりそう(iДi)




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「あのー、どうして私はこんなとこにいるんでしょうか?」


その日の午後、ザワザワと多くの人が行き交う場所で、私は首を傾げながら目の前の人の流れを呆然と見ていた。


「どうしてって、下手くそだったキーボードが少しはマシになったから、約束通り買い物に連れて来てやったんじゃないか」


「でも、あの、ここ・・・韓国じゃないみたいですけど」


「あたり前だ、パスポート持って飛行機に乗っただろ」


合宿所の練習室で、「上手く弾けたら買い物に連れてってやる」と言われた数時間後、私はヒョンニムと二人でなぜか日本の空港にいた。


「買い物するためにこんなとこまで来たんですか!?」


「A.N.JELLは韓国じゃ有名だ。たとえファンじゃなくても俺たちを見かければカメラを向ける。しかし残念だが、幸いなことに日本ではまだそれほどでもない。特に ”コ・ミナム” はただの一般人と変わらない。ここならゆっくり買い物ができる」


そんなことも判らないのかとヒョンニムは大きなため息をついた。


「それはそうかもしれませんけど、でもわざわざこんなとこまで・・・」


「うるさいミナム、つべこべ言うな。忙しい俺が買い物につき合ってやってるんだぞ、感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない。ほら、時間がないんだ、さっさと行くぞ」


「あ、ちょっと待ってください、ヒョンニム~」


ずんずんと大股で歩き出したヒョンニムの後を、私は小走りで追いかけた。






「まずは服だな」


そう言って連れてこられたのは高そうな服ばかりが並ぶお店。


「そうだな・・・これか?いや、これだな」


俺と一緒に歩くならヘンな恰好をされては困ると、ヒョンニムが服を選んでくれた。


ずっと修道院にいた私は、服といえば修道服か動きやすいTシャツにジーンズで、合宿所でも男物の服ばかり。普通に女の子が着る華やかでひらひらした可愛い服は着なれないから、何だか恥ずかしい。

でも嬉しくて。

鏡の前で一回転すると、ふわりとスカートが広がった。


「ヒョンニム何て言うかな?可愛い・・・は無理でも、まあまあだなくらいは言ってくれるかな・・・」


どきどきしながら試着室のカーテンを開けると、ヒョンニムは私を見て驚いたように目を見開いた。


「どう・・・ですか?」

 

「・・・・・・・・・」


無言の返事が、「ダメだ、お前にはそういう服は似合わない」と言っているよう。

私がしゅんと俯くと、ヒョンニムは小さな咳払いをした。


「い、いいんじゃないか。まあ俺が選んだんだから、悪いはずがない」


そう言いながらあからさまに視線を外されると、言葉の信憑性を疑いたくなるんですけど。

もっとちゃんと見てほしくて、私はヒョンニムの顔を覗き込んだ。


「あれ?もしかして、熱があるんですか?顔が赤いような・・・」


おでこに触れようと伸ばした手をヒョンニムがむんずと掴んだ。


「な、何でもない、服はそれでいいな。次は靴を買いに行くぞ」


「え?あ、ちょっと!」


体調が悪いなら帰りましょうと言う私の言葉を無視して、ヒョンニムは隣の靴屋へと私を引っ張って行った。


「そこへ座れ」


言われるまま私がフィッティング用の椅子に座ると、ヒョンニムは店内をぐるりと一周し、戻ってきた時にはその手に一足の靴を持っていた。そして私の目の前に片膝をついて座った。


「ヒョンニム!」


私の前で片膝をつくという行動だけでも自分の目を疑うほど驚いているのに、私の足をがしっと掴み、履いている靴を脱がせてるんだから、私は更に驚いた。

自分の選んだ靴を私に履かせてくれるヒョンニム。

こんな風に男の人に靴を履かせてもらうなんて初めて。

映画のワンシーンのようで、何だかお姫様にでもなった気分。


「サイズもよさそうだし、その服にもピッタリだな」


ヘンな恰好をされては困ると顔をしかめていたわりに、私に靴を履かせてくれているその声は何だか楽しそう。

さすが俺、とニッコリ微笑むヒョンニムの顔を見て、私は自分の顔が赤くなるのを感じた。






「これでやっと買い物ができるな」


「ヒョンニム、やっとって・・・今までのは何だったんですか?」


「ミナムがミニョへ変わるためのただの着替えだ。女の恰好になったんだ、今からは俺のことをヒョンニムと呼ぶなよ。もしヒョンニムと言ったら・・・罰としてその場で俺にキスをすること」


「そんな!ヒョ・・・」


私はさっそくヒョンニムと言いそうになり、慌てて手で口を塞いだ。


「ん?ヒョ?何だ?」


「オッパ、無理です。キスなんて、そんな・・・」


「じゃあ俺の方からしようか?」


私はブンブンと首を横に振った。


韓国ではどこにいてもすぐ注目を集めてしまうヒョンニムも、ここではカメラを向けられることはないみたい。だから、「見られてないから平気だろ」って本当にキスしそう。

でも、きっとそう言って私をからかってるだけだと思う。私の反応を見て楽しんでるだけ。

だって口に拳をあてて、笑ってるんだもの。


私がヒョンニムって言わなければいいのよね・・・


「判りました。オッパ、買い物に行きましょう」


時々(?)強引で意地悪だけど、基本的には優しいオッパ。選んでくれた靴も、私が転ばないようにとヒールは少し低め。それでも時々足をくじいてしまいそうになると、オッパは仕方ないなと手を繋いでくれた。


「足首でも痛めて、俺のせいだと言われたらたまらないからな」


つっけんどんだけど、大きな手から伝わる温もりはそのままオッパの優しさに感じられた。

歩くスピードもいつもよりゆっくりで、私の歩調に合わせてくれている。

短い時間だったけど、いろんなお店に入ってご飯も食べて、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。






韓国に帰ると、空港のトイレで着替えをし、私はミナムに戻った。


「今日はどうもありがとうございました。とっても楽しい・・・デートでした」


「デート?ただの買い物だろ?」


冷蔵庫を開け水を飲んでいたヒョンニムは、口の片端をわずかに上げ、すました顔でそう言った。


「ヒョンニムにはただの買い物でも、私には立派なデートです」


「ふ、ん・・・好きにしろ。それよりも今、ヒョンニムと言ったな」


ヒョンニムの眉がぴくりと動く。


「へ?でも私は今、男の恰好をしてるんで、あの話は無効では・・・というか、私をからかっていただけじゃ・・・」


「二人きりの時はヒョンニムはやめろといつも言ってるだろ」


青いビンを置いたヒョンニ・・・オッパはニヤリと笑いながら私を見た。何となくだけど、次の行動が予測できてしまう。

思った通り近づいてくるオッパ。その分私は後退った。


私たちの関係は秘密。

ここは合宿所のキッチンで、いつ誰が来るかも判らないのに・・・

すぐに壁にぶつかった背中。逃げ場を失った私は、あっという間に抱きしめられた。

密着する身体。私の顔はオッパの胸に押しつけられる形になり。

こんな風に抱きしめられることにまだ慣れていない私の心臓は急に暴れ出し、一気に 顔が熱くなる。


「え?あの、ちょっと・・・」


どうしたらいいか判らなくて焦る私。てっきり、その反応を見てオッパは楽しんでるだけだと思ったのに・・・


「ミニョ、今日の恰好・・・可愛かった」


予想外に真剣な声に私の胸は、きゅんと痛くなる。

耳に息を吹きかけるように囁いた唇は、そのまま私の唇を塞ぎ・・・


「ミナム~、いるの~?」


突然のジェルミの声に、私は心臓が止まりそうになるほど驚いた。

一瞬触れた唇は声が近づいてくると、私を抱きしめていた身体ごと離れていった。


「ミナム~?あ、ヒョンもいた。二人でどっか出かけてたの?さっき下のぞいたらいなかったけど」


「あ、あの、それは・・・」


「気分転換に買い物に行っただけだ」


ヒョンニムは私の方をチラリと見て口の片端に笑みを浮かべると、何事もなかったかのように再び手にした青いビンをぐいっと傾けた。


「なんだ~、一緒に行きたかったな~、俺も今、買い物に行ってきたんだ。ミナム、アイス買ってきたから一緒に食べよ。また俺が食べさせてあげる♪」


ニコニコと笑顔のジェルミ。

反対にヒョンニムの顔は一瞬で険しくなって・・・


「ちょっと待て・・・・・・コホン、あいにくミナムはまだ練習が残ってる。多少マシにはなったが、まだまだだからな。さあ、休憩は終わりだ、一秒たりとも無駄にするな。アイスなんか食べてる暇はない、続きを始めるぞ!」


ヒョンニムはキッと私を睨み、練習室への階段を指さした。そしてジェルミに釘をさす。


「ジェルミ、絶対に邪魔するなよ」


「判ってるよ・・・ミナム、頑張ってね!終わったらアイス食べよ♪」


「ほらミナム、さっさとしろ!」


語気を強くするヒョンニムに急かされて、私は慌てて階段を下りて行った。


練習室。

ドアを閉めたヒョンニムの手元がガチャリという音を立てる。


「もしかして・・・鍵かけたんですか!?」


「誰にも邪魔されたくないからな」


振り向いたヒョンニムの顔は機嫌が悪いのか、眉間にくっきりとしわが刻まれていた。


「ええーっと、練習ですね」


どうして急に不機嫌になったのかは判らない。でもヒョンニムは時々そういうことがあるから、私は特に気にも留めなかったんだけど・・・


そそくさとキーボードに向かおうとした私の腕をヒョンニムが掴んだ。


「お前、ジェルミにアイスを ”食べさせて” もらったのか?」


「え?違います、食べさせてもらったわけじゃなくて・・・ジェルミが新商品のアイスを食べてたんで、私がどんな味ですかって聞いたら、味見する?って、持ってたスプーンを私の口に・・・」


「それを ”食べさせてもらった” と言うんじゃないのか?」


ヒョンニムの頬がぴくぴくと引きつり、目は私の身体を射抜こうとしてるんじゃないかと思うくらい鋭く光る。


「ったく、油断ならないな・・・もうジェルミには話しかけるな、話しかけられても無視しろ、絶対に二人きりになるな。あと、シヌも同じだからな」


「そんな無茶な・・・」


「うるさい!」


くんっ、と引っ張られた身体。

背中をドアに押しつけられた。

すぐ近くにヒョンニムの顔。


「あ、あの、練習は・・・」


「黙ってろ」


近づいてくる唇。あっという間に口を塞がれて。

強引なキス。

でもその唇は、突然のことに固まる私の心と身体を解きほぐすように、甘く、優しくて。

角度を変え、何度も繰り返される口づけは徐々に深くなっていく。

私の目をのぞきこんだ後、耳たぶを食み、甘く囁かれる低い声。


「ミニョ・・・サランヘ・・・」


「んっ・・・オッパ・・・」




その日、私は夜遅くまで練習室から出してもらえなかった。





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