星の輝き、月の光 -22ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

「狭い、ですけど・・・」


開かれたドア。暗い壁に触れたミニョの指先からパチンと音がして、部屋の中が明るくなった。


「本当に、狭いな・・・」


ワンルーム・・・といえば聞こえはいいが、布団を敷いたらそれだけで部屋の大部分を占めてしまいそうな空間は、思わず言葉を失うほど。合宿所のぬいぐるみ部屋の方が、よほど広く感じられた。


「やっぱりテギョンさんはホテルの方が・・・」


「夜中だぞ、今から俺にまた車を走らせろと言うのか?何分かかると思ってる。それとも近くに立派なホテルでもあるのか?」


「・・・ありません・・・」


「だったら俺はここに泊まる」


困り顔のミニョを尻目に、俺は中へ入った。






「ふうっ・・・疲れたな・・・」


今日はいろんなことがあった一日だった。ありすぎだろう!というくらい。

俺は大きく息を吐くと、壁を背もたれにして、床に腰を下ろした。


『芸能界をやめる』


勢いで出た言葉だったが後悔はしていない。将来的には独立することを考えていたが、そこへ向かう道は一つじゃないことに気がついたから。

しかし事務所を辞めるのは、今日明日というのは無理だろう。契約も、リーダーとしての責任もある。

これからどう動くか・・・

考えることは山ほどある。でも今は、少し離れたところから不安げな表情で俺を見ているミニョの温もりを感じたかった。

何も言わずに手を伸ばした。

おずおずと俺の手を取ったミニョを引っ張れば、バランスを崩した身体が倒れかかってくる。俺はそれを抱きとめると前を向かせ、脚の間に座らせた。

後ろから包み込み、肩にあごをのせる。


「ちょっ、ちょっと、テギョンさん!?」


もがくミニョを押さえこむように前に回した手に力を込めた。


「俺は眠い、暴れるな」


「だったらすぐにお布団敷きます、使ってください」


「一緒に寝ようと誘ってるのか?」


「ち、違います!私は床でもどこでも寝れるんで、お布団はテギョンさんが使ってください」


「どこでも寝れるなら、布団で俺とでも寝れるな」


「へ!?あ、あの、それは・・・」


「ぷっ・・・くっくっ・・・」


きっとミニョの顔は真っ赤になっているんだろう。頬に伝わる熱で判る。


裏返った声。

甘い香り。

やっと手に入れた宝物。


わたわたと慌てる姿が楽しくて、俺は捕獲したテジトッキが逃げないように、腕の檻に閉じ込めていた。





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うるさく鳴り続けていた携帯の電源は切った。俺と連絡が取れないとなれば、遅くても明日の昼前にはマ室長が合宿所へ来るだろう。いつも泊まっているホテルも誰か来るだろうし、他の場所も・・・

電話ではなく、きちんと話をしなければいけないことは判っているし、もちろんそのつもりだ。だが今はもう少し時間が欲しかった。ゆっくりと考える時間と場所が。


「ミニョ、家はどこだ」


俺は住所を聞き出し、ナビに入力した。

助手席に座るミニョは黙ったまま。すれ違う車のヘッドライトに照らし出された顔は、思い詰めたように下唇を噛んでいた。


「こっちでいいんだよな」


ナビの案内通りとはいえ、暗い夜道を延々と走っていると、本当にこの道でいいのかと不安になる。

俺は時々ミニョに声をかけた。

表示されていたたくさんの建物は少しずつ減っていき、モニターにはうねうねとした道がどこまでも続くだけ。


「まったく、ホントに田舎だな」


いくら走っても代わり映えのしないモニターに、俺はため息をついた。


「・・・私のせい・・・・・・ですか?」


「ん?」


「A.N.JELLも・・・芸能界もやめちゃうなんて・・・」


グループどころか芸能界をやめるという言葉は、かなり大きなショックを与えていたようだ。

服の裾を握りしめながら、ミニョが沈んだ声でポツリと呟いた。


歌うことは好きだ。だが今後、平気な顔でシヌと同じステージに立つことは無理だろう。シヌがミニョを傷つけようとしたこと、俺は許せない。

プライベートだからと割り切ることのできない感情は声にも表れる。そんな状態で人前で歌うことはできない。

もともと俺は音楽がやりたかっただけ。CM、バラエティー、ドラマ、映画と、歌以外のスケジュールが増えるたび、仕事に対する違和感は膨らんでいった。

事務所との契約がもうじき切れる。更新するか悩んでいたところだった。


「お前は関係ない、もともと独立を考えてたんだ。今すぐにというわけではなかったが・・・まあ、それもまた違った方向へいってしまったがな」






ナビに案内され着いたのは、カフェ同様大自然に囲まれた静かな場所。辺りは暗くてよく見えないが、何よりその暗さが田舎だと物語っている。

ミニョが住んでいるのは古そうなアパートの一室だった。

もっともそれは電灯に照らされた部分がそう見えていただけであって、翌日、太陽の光の下で全体を見てみれば、曖昧な表現は必要なく、はっきりと”古い”という形容詞がぴったりな建物だったが。


「今日はいろいろと、ありがとうございました。じゃあ・・・・・・おやすみなさい」


車から降りたミニョがペコリと頭を下げる。それを見て俺の首は傾いた。


「おやすみなさいって・・・まさか、俺を部屋へ入れないつもりじゃないだろうな。車で寝ろというのか!?」


「え?テギョンさんはホテルに泊まるんじゃないんですか!?」


本気でそう思っていたんだろう。本当に驚いているのが声で判る。


「俺はただの運転手か!」


「いえ、あの、そういうつもりでは・・・」


口ごもるミニョを軽く睨むと、片手に荷物を持たせ、もう片方の手を使って、俺を部屋へと案内させた。





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「テギョンさん、事務所まで辞めるって、どういうことですか!?芸能界やめるって、冗談ですよね!」


「俺は本気だ」


「そんな!せっかく私が・・・」


「せっかく私が?・・・そういえばミニョ、どうしてシヌが好きだなんて見えすいたウソついたんだ」


どう考えてもあの言葉はおかしい。俺はウソだと決めつけると、動かしていた手を止めた。


「それは、あの、その・・・」


ミニョは少し顔を俯け、ちらちらと俺の様子を窺うように目を動かしていたが、俺が詰め寄るとやがてポツリポツリと話し出した。


「テギョンさん、昔はすごいスキャンダルが、多かったって・・・事務所の力で握りつぶしてたけど、公になったらマズいのがたくさんあって・・・もう、ステージでは歌えなくなるって言われて・・・・・・証拠の写真があるから、マスコミにばら撒かれたくなかったら、テギョンさんのことは、諦めろって・・・」


「はあ?何だそれは、シヌのヤツ、そんなデタラメを!」


大きな声にミニョの身体がビクリと震えた。


「そんな話を信じたのか!?」


「信じてません!でも・・・こないだの週刊誌のこともあるし・・・・・・さっきの話・・・あれは、本当のこと、なんでしょ?」


「あ?ん・・・いや、まあ、あれは・・・」


勢いよく責めていた俺の目が泳ぐ。

ミニョと別れていた間のこととはいえ、アヨンを抱いたのは事実だ。


「好き・・・なんですか?」


「いや、あれは、その・・・」


「好きじゃない女(ひと)と!?」


探るようなミニョの目に、俺はたじろいだ。

”好き”か”嫌い”か。

二者択一なら確実に”好き”なんだが、そこに恋愛感情があったかどうかと問われると、俺の返事は曖昧になる。


「あれは、その・・・・・・・・・とにかく今は、時間がない!」


俺は言葉を濁すと、不満げな顔のミニョを横目に、止めていた手を再び動かし始めた。






「本当に・・・やめちゃうんですか?今なら冗談でしたで済みますよ。シヌさんだって、判ってくれたと思うし・・・」


シヌが努力して努力して手に入れた、トップアイドルという今の地位。それを俺はいとも簡単に手放せるんだという態度は、あいつにかなりのダメージを与えただろう。それに加え、ミニョは俺に向かって手を伸ばした。

表情を硬くして無言で去っていく後ろ姿を、俺も無言で見送った。

俺はシヌのことがまったく信用できなくなった。おとなしく帰ったのも、何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

そんな相手と一緒に仕事できるわけがない。


「ファン・テギョンは有言実行の男だ、やめると言ったらやめる」


「そんな・・・大騒ぎですよ」


「だからすぐにここを出るんだ。お前も早く着替えろ、そんな恰好じゃ外に出れないだろ」


ミニョはまだバスローブのまま。俺は適当に自分の服を渡すと、スーツケースに荷物を詰め込んだ。

ツアーや海外ロケで家を空けることが多い俺の荷造りは、あっという間だ。

最後に俺を呼び続ける携帯をポケットに突っ込むと、車へ向かった。




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