うるさく鳴り続けていた携帯の電源は切った。俺と連絡が取れないとなれば、遅くても明日の昼前にはマ室長が合宿所へ来るだろう。いつも泊まっているホテルも誰か来るだろうし、他の場所も・・・
電話ではなく、きちんと話をしなければいけないことは判っているし、もちろんそのつもりだ。だが今はもう少し時間が欲しかった。ゆっくりと考える時間と場所が。
「ミニョ、家はどこだ」
俺は住所を聞き出し、ナビに入力した。
助手席に座るミニョは黙ったまま。すれ違う車のヘッドライトに照らし出された顔は、思い詰めたように下唇を噛んでいた。
「こっちでいいんだよな」
ナビの案内通りとはいえ、暗い夜道を延々と走っていると、本当にこの道でいいのかと不安になる。
俺は時々ミニョに声をかけた。
表示されていたたくさんの建物は少しずつ減っていき、モニターにはうねうねとした道がどこまでも続くだけ。
「まったく、ホントに田舎だな」
いくら走っても代わり映えのしないモニターに、俺はため息をついた。
「・・・私のせい・・・・・・ですか?」
「ん?」
「A.N.JELLも・・・芸能界もやめちゃうなんて・・・」
グループどころか芸能界をやめるという言葉は、かなり大きなショックを与えていたようだ。
服の裾を握りしめながら、ミニョが沈んだ声でポツリと呟いた。
歌うことは好きだ。だが今後、平気な顔でシヌと同じステージに立つことは無理だろう。シヌがミニョを傷つけようとしたこと、俺は許せない。
プライベートだからと割り切ることのできない感情は声にも表れる。そんな状態で人前で歌うことはできない。
もともと俺は音楽がやりたかっただけ。CM、バラエティー、ドラマ、映画と、歌以外のスケジュールが増えるたび、仕事に対する違和感は膨らんでいった。
事務所との契約がもうじき切れる。更新するか悩んでいたところだった。
「お前は関係ない、もともと独立を考えてたんだ。今すぐにというわけではなかったが・・・まあ、それもまた違った方向へいってしまったがな」
ナビに案内され着いたのは、カフェ同様大自然に囲まれた静かな場所。辺りは暗くてよく見えないが、何よりその暗さが田舎だと物語っている。
ミニョが住んでいるのは古そうなアパートの一室だった。
もっともそれは電灯に照らされた部分がそう見えていただけであって、翌日、太陽の光の下で全体を見てみれば、曖昧な表現は必要なく、はっきりと”古い”という形容詞がぴったりな建物だったが。
「今日はいろいろと、ありがとうございました。じゃあ・・・・・・おやすみなさい」
車から降りたミニョがペコリと頭を下げる。それを見て俺の首は傾いた。
「おやすみなさいって・・・まさか、俺を部屋へ入れないつもりじゃないだろうな。車で寝ろというのか!?」
「え?テギョンさんはホテルに泊まるんじゃないんですか!?」
本気でそう思っていたんだろう。本当に驚いているのが声で判る。
「俺はただの運転手か!」
「いえ、あの、そういうつもりでは・・・」
口ごもるミニョを軽く睨むと、片手に荷物を持たせ、もう片方の手を使って、俺を部屋へと案内させた。
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