「テギョンさん、事務所まで辞めるって、どういうことですか!?芸能界やめるって、冗談ですよね!」
「俺は本気だ」
「そんな!せっかく私が・・・」
「せっかく私が?・・・そういえばミニョ、どうしてシヌが好きだなんて見えすいたウソついたんだ」
どう考えてもあの言葉はおかしい。俺はウソだと決めつけると、動かしていた手を止めた。
「それは、あの、その・・・」
ミニョは少し顔を俯け、ちらちらと俺の様子を窺うように目を動かしていたが、俺が詰め寄るとやがてポツリポツリと話し出した。
「テギョンさん、昔はすごいスキャンダルが、多かったって・・・事務所の力で握りつぶしてたけど、公になったらマズいのがたくさんあって・・・もう、ステージでは歌えなくなるって言われて・・・・・・証拠の写真があるから、マスコミにばら撒かれたくなかったら、テギョンさんのことは、諦めろって・・・」
「はあ?何だそれは、シヌのヤツ、そんなデタラメを!」
大きな声にミニョの身体がビクリと震えた。
「そんな話を信じたのか!?」
「信じてません!でも・・・こないだの週刊誌のこともあるし・・・・・・さっきの話・・・あれは、本当のこと、なんでしょ?」
「あ?ん・・・いや、まあ、あれは・・・」
勢いよく責めていた俺の目が泳ぐ。
ミニョと別れていた間のこととはいえ、アヨンを抱いたのは事実だ。
「好き・・・なんですか?」
「いや、あれは、その・・・」
「好きじゃない女(ひと)と!?」
探るようなミニョの目に、俺はたじろいだ。
”好き”か”嫌い”か。
二者択一なら確実に”好き”なんだが、そこに恋愛感情があったかどうかと問われると、俺の返事は曖昧になる。
「あれは、その・・・・・・・・・とにかく今は、時間がない!」
俺は言葉を濁すと、不満げな顔のミニョを横目に、止めていた手を再び動かし始めた。
「本当に・・・やめちゃうんですか?今なら冗談でしたで済みますよ。シヌさんだって、判ってくれたと思うし・・・」
シヌが努力して努力して手に入れた、トップアイドルという今の地位。それを俺はいとも簡単に手放せるんだという態度は、あいつにかなりのダメージを与えただろう。それに加え、ミニョは俺に向かって手を伸ばした。
表情を硬くして無言で去っていく後ろ姿を、俺も無言で見送った。
俺はシヌのことがまったく信用できなくなった。おとなしく帰ったのも、何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
そんな相手と一緒に仕事できるわけがない。
「ファン・テギョンは有言実行の男だ、やめると言ったらやめる」
「そんな・・・大騒ぎですよ」
「だからすぐにここを出るんだ。お前も早く着替えろ、そんな恰好じゃ外に出れないだろ」
ミニョはまだバスローブのまま。俺は適当に自分の服を渡すと、スーツケースに荷物を詰め込んだ。
ツアーや海外ロケで家を空けることが多い俺の荷造りは、あっという間だ。
最後に俺を呼び続ける携帯をポケットに突っ込むと、車へ向かった。
1クリックお願いします
更新の励みになります
↓