日蝕 52 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

「テギョンさん、事務所まで辞めるって、どういうことですか!?芸能界やめるって、冗談ですよね!」


「俺は本気だ」


「そんな!せっかく私が・・・」


「せっかく私が?・・・そういえばミニョ、どうしてシヌが好きだなんて見えすいたウソついたんだ」


どう考えてもあの言葉はおかしい。俺はウソだと決めつけると、動かしていた手を止めた。


「それは、あの、その・・・」


ミニョは少し顔を俯け、ちらちらと俺の様子を窺うように目を動かしていたが、俺が詰め寄るとやがてポツリポツリと話し出した。


「テギョンさん、昔はすごいスキャンダルが、多かったって・・・事務所の力で握りつぶしてたけど、公になったらマズいのがたくさんあって・・・もう、ステージでは歌えなくなるって言われて・・・・・・証拠の写真があるから、マスコミにばら撒かれたくなかったら、テギョンさんのことは、諦めろって・・・」


「はあ?何だそれは、シヌのヤツ、そんなデタラメを!」


大きな声にミニョの身体がビクリと震えた。


「そんな話を信じたのか!?」


「信じてません!でも・・・こないだの週刊誌のこともあるし・・・・・・さっきの話・・・あれは、本当のこと、なんでしょ?」


「あ?ん・・・いや、まあ、あれは・・・」


勢いよく責めていた俺の目が泳ぐ。

ミニョと別れていた間のこととはいえ、アヨンを抱いたのは事実だ。


「好き・・・なんですか?」


「いや、あれは、その・・・」


「好きじゃない女(ひと)と!?」


探るようなミニョの目に、俺はたじろいだ。

”好き”か”嫌い”か。

二者択一なら確実に”好き”なんだが、そこに恋愛感情があったかどうかと問われると、俺の返事は曖昧になる。


「あれは、その・・・・・・・・・とにかく今は、時間がない!」


俺は言葉を濁すと、不満げな顔のミニョを横目に、止めていた手を再び動かし始めた。






「本当に・・・やめちゃうんですか?今なら冗談でしたで済みますよ。シヌさんだって、判ってくれたと思うし・・・」


シヌが努力して努力して手に入れた、トップアイドルという今の地位。それを俺はいとも簡単に手放せるんだという態度は、あいつにかなりのダメージを与えただろう。それに加え、ミニョは俺に向かって手を伸ばした。

表情を硬くして無言で去っていく後ろ姿を、俺も無言で見送った。

俺はシヌのことがまったく信用できなくなった。おとなしく帰ったのも、何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

そんな相手と一緒に仕事できるわけがない。


「ファン・テギョンは有言実行の男だ、やめると言ったらやめる」


「そんな・・・大騒ぎですよ」


「だからすぐにここを出るんだ。お前も早く着替えろ、そんな恰好じゃ外に出れないだろ」


ミニョはまだバスローブのまま。俺は適当に自分の服を渡すと、スーツケースに荷物を詰め込んだ。

ツアーや海外ロケで家を空けることが多い俺の荷造りは、あっという間だ。

最後に俺を呼び続ける携帯をポケットに突っ込むと、車へ向かった。




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