星の輝き、月の光 -21ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

疲れていたのは確かだ。

だけど少しも眠くない。

そしてついさっきまで感じていた疲れも、まるで魔法でも使ったかのように、きれいに消え去っていた。

理由は判っている。なぜかと考えるまでもない。

愛しい女を初めてこんな場所で抱きしめてるんだから、疲れなんて吹っ飛ぶだろう。

静寂で満たされた部屋に二人きり。

そのことを意識すると、途端に緊張感が俺を包み込んだ。


「テギョンさんの心臓の音がよく聞こえます」


「そ、そうか?田舎は静かだからな」


「ドクドクって・・・すごく速いような気が・・・それに何だか身体も熱いですよ、大丈夫ですか?」


「シャ、シャワーが熱かったんだ」


心配そうな顔で俺を見るミニョの瞳に吸い込まれそうだ。




『手は出さない』


『ファン・テギョンは有言実行の男だ』




どうしてあんなことを言ってしまったのか、と少し悔やんだ。


首元に鼻を近づける。

俺がいつも使っているボディーソープなのに、そこから香るのは少し甘さを含んだミニョの匂い。

腕、胸、脚・・・

触れているすべてが柔らかくて、気持ちよくて・・・



「あ、あの、テギョンさん?」


おとなしくなっていたミニョが、またごそごそと動き出した。


「こら、動くな」


「でも、あの・・・脚が・・・テギョンさんの脚が、動いてます」


指摘されて気づいた。いつの間にかミニョの脚を挟み、すりすりとその感触を楽しんでいることに。


「お、俺は手は出さないと言ったが、脚を出さないとは言ってない」


顔を上げたミニョと目が合い、俺は気まずくて視線を逸らした。


「ぷっ・・・くくっ・・・」


ミニョが笑いだす。その笑いはなかなか止まらなくて。

俺はそんなに可笑しなことを言ったんだろうか?

俺の胸で笑い続けるミニョ。

一応俺に気を遣ってるのか、笑うのを堪えようとして、でも堪えきれず、くすくすと身体を震わせ続ける。

その姿が可愛くて。

穏やかで幸せな時間。

俺がずっと求めていたもの。

ここはミニョの部屋で、ミニョの布団で・・・


あーもう、ダメだ!


俺はミニョに覆いかぶさり、そしてそのまま唇を塞いだ。


「んっ・・・テギョンさん、手は出さないって!」


「手は出してない、俺は口を出してるんだ」


「口を出すって・・・使い方、違ってませんか?」


「う、うるさい、嫌ならやめる、はっきり言ってくれ」


さっきのような笑いはミニョには起きていない。

俺を見つめる目。

恥ずかしげに少し流れた視線は、すぐに戻ってきた。


「いや・・・・・・じゃ、ない・・・です・・・」


カーッと真っ赤に染まる顔。

俺はゆっくりと顔を近づけ、深く深く、口づけた。





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シャワーを借りざっと汗を流した俺が部屋に戻ると、壁際に一組の布団が敷かれ、ミニョは部屋の反対側の壁にもたれながら、うとうとしていた。


「本当にどこでも寝れるんだな。そういえばピアノの下でも寝てたし・・・おい、起きろ、そんなとこで寝てたら尻が痛くなるぞ」


「あ、テギョンさん・・・私のことは気にしないで、お布団で寝てください」


「そういうわけにはいかないだろ」


俺は眠そうにしているミニョの腕を掴むと布団に押し込み、隣にすべりこんだ。


「え?ちょっと、テギョンさん」


「おい、こら、暴れるな、俺がはみ出すだろ」


ミニョがいるのは壁側。横並びの状態で押されれば、追い出されるのは俺だ。


「手は出さないから安心しろ」


顔を真っ赤にさせているミニョの頭を二の腕にのせ、そっと包み込むように抱きしめた。


「部屋も狭いがここも狭いな」


「だからやっぱりテギョンさんは一人で・・・」


「そうじゃない、くっついて寝れるのがいいと言ってるんだ」


密着した身体。

肩口にはミニョの顔。

髪に指を差し入れ、額に唇を押しつけた。

ここは古いアパートで部屋も布団も狭い。でも、どんなに立派なホテルのふかふかなベッドで眠るより、いい夢が見れそうな気がした。

こうして抱きしめているだけで、心の奥底から温かい感情が溢れ出し、どくどくと強く脈打つ鼓動はアップテンポな曲のように、楽しげなメロディーを俺の全身に巡らせる。

幸せで満ち足りた気分。


ああ、そうか・・・


「さっき言ってた俺の幸せって話・・・あれ本当は違うんだ」


言った憶えがなかった話、思い出した。

確かミニョは、小さなことだが朝からいろいろいいことが続いて、それに幸せを感じると言ったんだ。それを俺は小ばかにした。するとミニョは、だったらどんな時に幸せを感じるのかと、俺に聞いてきた。

ミニョが傍にいて、話をして、笑いかけてくれるのが幸せだと心の中で思ったが、口にはできなかった。


『世界中の人が俺の曲を・・・』


憶えていないはずだ、とっさに口から出た言葉だったんだから。

いろんな国へ行って、いろんな曲を書いて。その国の人みんなが、俺の曲を口ずさむ。そうなれば確かにそれを幸せだと感じるだろう。

でも・・・


「違う、というか・・・それだけじゃ足りないんだ。そこには絶対に欠かせない必要なものがある」


「何ですか?」


「ミニョだ」


シヌの言った通り、俺は欲張りだ。

俺一人ではいくら世界中の人が俺の曲を歌っても、幸せにはなれない。

ミニョがいなければ意味がない。


「ミニョがいつも俺の傍にいること、それが絶対条件だ」


「いつも?」


楽しい時も、嬉しい時も。


「そう、いつも」


哀しい時も、辛い時も。


「食事も外出も、寝る時も風呂も。あとは・・・」


「それは・・・・・・大変そうですね」


「トイレは除外する」


ミニョの頭が微かに揺れる。くすくすと小さな声が聞こえてきた。


「でも・・・・・・楽しそうです」


俺の胸に顔を埋めながら笑っているせいか、妙にくすぐったかった。





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もぞもぞ・・・もぞもぞ・・・・・・

逃げ出そうとしているのか、腕の中でテジトッキが動く。


「おい、じっとしてろよ」


と言いつつ、ミニョが身動きするたび、二の腕にぷにぷにと柔らかいものがあたって、それはそれで悪くないんだが。


「でも、あの、気になることがあって・・・」


「何だ?それは」


「だから・・・あの・・・・・やっぱり、やめちゃダメです。やめないでください」


「そのことか」


「だってもったいないです。テギョンさんには素晴らしい才能があるんだし、それにやめちゃったら・・・テギョンさんの幸せはどうなるんですか」


「幸せ?」


一体何のことだ?


「前にお店で話してくれたじゃないですか。世界中の人がテギョンさんの曲を歌うようになったら、その時にテギョンさんは幸せを感じるって」


はて?俺はそんなことを言ったか?


「だからやめちゃダメです。私はテギョンさんに幸せになって欲しい・・・」


前に回した俺の腕にミニョが手を重ねた。

いつそんな話をしたのか憶えていない。ということはきっと何気なくした話なんだろう。というか、そもそもそんなこと考えたこともないような気が・・・

でも・・・いや、だからこそ、ミニョが憶えていてくれたことが嬉しかった。


「やめる云々が解決すればじっとしてるのか?」


「え?・・・それは、まあ・・・」


「だったら心配ない。俺は音楽をやめるつもりはないから」


驚いた顔のミニョ。振り返ったその目と鼻の先には俺の顔があり、唇が触れそうになると、慌てて前に向き直った。


「だって、テギョンさん、引退するって・・・」


「A.N.JELLはやめる、事務所も辞める、ファン・テギョンは引退する」


「ほら、やっぱり」


「最後まで聞け、引退するのは”韓国の芸能界”で、”ファン・テギョン”が、だ。これからは別の国で別の名前で音楽を続ける」


俺の父親、世界的に有名な指揮者-ファン・ギョンセ。

デビューしたての頃は、どこへ行ってもファン・ギョンセの息子だと紹介された。彼の息子だから呼ばれたんだと見え見えの番組も多くあった。

ジェルミは単純にテレビに出れると喜んでいたが、俺はそれがたまらなく嫌だった。

気にしないようにした。

いちいち気にしてたらきりがない。

もやもやした気持ちに蓋をした。

やがて俺たちはトップに立った。



『大きな後ろ盾の上に平然と胡坐をかいて座ってる』

 

 

シヌが本気で言ったかどうか判らないが、あんなこと言われてムカつかないわけがない。鍵をかけたはずの箱をこじ開けられたんだから。


ファンの声を思い出す。


『ファンジェ(皇帝)テギョン!ファン・テギョン!』


一体いつからそんな風に呼ばれるようになったのか。
ふと考えてしまう、俺が”ファン・テギョン”でなかったら・・・


シヌのことはムカつくが、A.N.JELLは護りたい。そしてもちろんミニョのことも。

”移籍”ではどうしてもその理由が注目される。事務所かメンバーとの間に何かあったのかと勘ぐられるのは避けられない。

そう考えたら、真っ先に頭に浮かんだのが、韓国の芸能界から去ることだった。

その場の勢いでやめると口にしたが、それでよかった気がした。


「もともと俺はアイドルになりたかったわけじゃない、音楽がやりたかったんだ。あのままじゃ歌以外の仕事がもっと増えそうだしな。厚化粧の女にべたべた触られるのはごめんだ。A.N.JELLもアジア以外じゃまだまだ知名度は低い。俺のことを全然知らないような国に行って曲を作るのもいいな。顔を出さずに名前も変えて」


どれもこれも建前だな。本当はミニョをシヌから遠ざけたかっただけだ。



いつの間にかミニョがおとなしくなっていた。


「まさか・・・寝たのか?」


「違います、テギョンさんが何を考えてるか判ったから」


「それでおとなしくなったのか」


「テギョンさんが音楽をやめないって聞いて、少し安心しました」


言葉とともに、ミニョが身体を預けるようにもたれかかってきた。





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