日蝕 56 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

シャワーを借りざっと汗を流した俺が部屋に戻ると、壁際に一組の布団が敷かれ、ミニョは部屋の反対側の壁にもたれながら、うとうとしていた。


「本当にどこでも寝れるんだな。そういえばピアノの下でも寝てたし・・・おい、起きろ、そんなとこで寝てたら尻が痛くなるぞ」


「あ、テギョンさん・・・私のことは気にしないで、お布団で寝てください」


「そういうわけにはいかないだろ」


俺は眠そうにしているミニョの腕を掴むと布団に押し込み、隣にすべりこんだ。


「え?ちょっと、テギョンさん」


「おい、こら、暴れるな、俺がはみ出すだろ」


ミニョがいるのは壁側。横並びの状態で押されれば、追い出されるのは俺だ。


「手は出さないから安心しろ」


顔を真っ赤にさせているミニョの頭を二の腕にのせ、そっと包み込むように抱きしめた。


「部屋も狭いがここも狭いな」


「だからやっぱりテギョンさんは一人で・・・」


「そうじゃない、くっついて寝れるのがいいと言ってるんだ」


密着した身体。

肩口にはミニョの顔。

髪に指を差し入れ、額に唇を押しつけた。

ここは古いアパートで部屋も布団も狭い。でも、どんなに立派なホテルのふかふかなベッドで眠るより、いい夢が見れそうな気がした。

こうして抱きしめているだけで、心の奥底から温かい感情が溢れ出し、どくどくと強く脈打つ鼓動はアップテンポな曲のように、楽しげなメロディーを俺の全身に巡らせる。

幸せで満ち足りた気分。


ああ、そうか・・・


「さっき言ってた俺の幸せって話・・・あれ本当は違うんだ」


言った憶えがなかった話、思い出した。

確かミニョは、小さなことだが朝からいろいろいいことが続いて、それに幸せを感じると言ったんだ。それを俺は小ばかにした。するとミニョは、だったらどんな時に幸せを感じるのかと、俺に聞いてきた。

ミニョが傍にいて、話をして、笑いかけてくれるのが幸せだと心の中で思ったが、口にはできなかった。


『世界中の人が俺の曲を・・・』


憶えていないはずだ、とっさに口から出た言葉だったんだから。

いろんな国へ行って、いろんな曲を書いて。その国の人みんなが、俺の曲を口ずさむ。そうなれば確かにそれを幸せだと感じるだろう。

でも・・・


「違う、というか・・・それだけじゃ足りないんだ。そこには絶対に欠かせない必要なものがある」


「何ですか?」


「ミニョだ」


シヌの言った通り、俺は欲張りだ。

俺一人ではいくら世界中の人が俺の曲を歌っても、幸せにはなれない。

ミニョがいなければ意味がない。


「ミニョがいつも俺の傍にいること、それが絶対条件だ」


「いつも?」


楽しい時も、嬉しい時も。


「そう、いつも」


哀しい時も、辛い時も。


「食事も外出も、寝る時も風呂も。あとは・・・」


「それは・・・・・・大変そうですね」


「トイレは除外する」


ミニョの頭が微かに揺れる。くすくすと小さな声が聞こえてきた。


「でも・・・・・・楽しそうです」


俺の胸に顔を埋めながら笑っているせいか、妙にくすぐったかった。





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