シャワーを借りざっと汗を流した俺が部屋に戻ると、壁際に一組の布団が敷かれ、ミニョは部屋の反対側の壁にもたれながら、うとうとしていた。
「本当にどこでも寝れるんだな。そういえばピアノの下でも寝てたし・・・おい、起きろ、そんなとこで寝てたら尻が痛くなるぞ」
「あ、テギョンさん・・・私のことは気にしないで、お布団で寝てください」
「そういうわけにはいかないだろ」
俺は眠そうにしているミニョの腕を掴むと布団に押し込み、隣にすべりこんだ。
「え?ちょっと、テギョンさん」
「おい、こら、暴れるな、俺がはみ出すだろ」
ミニョがいるのは壁側。横並びの状態で押されれば、追い出されるのは俺だ。
「手は出さないから安心しろ」
顔を真っ赤にさせているミニョの頭を二の腕にのせ、そっと包み込むように抱きしめた。
「部屋も狭いがここも狭いな」
「だからやっぱりテギョンさんは一人で・・・」
「そうじゃない、くっついて寝れるのがいいと言ってるんだ」
密着した身体。
肩口にはミニョの顔。
髪に指を差し入れ、額に唇を押しつけた。
ここは古いアパートで部屋も布団も狭い。でも、どんなに立派なホテルのふかふかなベッドで眠るより、いい夢が見れそうな気がした。
こうして抱きしめているだけで、心の奥底から温かい感情が溢れ出し、どくどくと強く脈打つ鼓動はアップテンポな曲のように、楽しげなメロディーを俺の全身に巡らせる。
幸せで満ち足りた気分。
ああ、そうか・・・
「さっき言ってた俺の幸せって話・・・あれ本当は違うんだ」
言った憶えがなかった話、思い出した。
確かミニョは、小さなことだが朝からいろいろいいことが続いて、それに幸せを感じると言ったんだ。それを俺は小ばかにした。するとミニョは、だったらどんな時に幸せを感じるのかと、俺に聞いてきた。
ミニョが傍にいて、話をして、笑いかけてくれるのが幸せだと心の中で思ったが、口にはできなかった。
『世界中の人が俺の曲を・・・』
憶えていないはずだ、とっさに口から出た言葉だったんだから。
いろんな国へ行って、いろんな曲を書いて。その国の人みんなが、俺の曲を口ずさむ。そうなれば確かにそれを幸せだと感じるだろう。
でも・・・
「違う、というか・・・それだけじゃ足りないんだ。そこには絶対に欠かせない必要なものがある」
「何ですか?」
「ミニョだ」
シヌの言った通り、俺は欲張りだ。
俺一人ではいくら世界中の人が俺の曲を歌っても、幸せにはなれない。
ミニョがいなければ意味がない。
「ミニョがいつも俺の傍にいること、それが絶対条件だ」
「いつも?」
楽しい時も、嬉しい時も。
「そう、いつも」
哀しい時も、辛い時も。
「食事も外出も、寝る時も風呂も。あとは・・・」
「それは・・・・・・大変そうですね」
「トイレは除外する」
ミニョの頭が微かに揺れる。くすくすと小さな声が聞こえてきた。
「でも・・・・・・楽しそうです」
俺の胸に顔を埋めながら笑っているせいか、妙にくすぐったかった。
1クリックお願いします
更新の励みになります
↓