日蝕 55 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

もぞもぞ・・・もぞもぞ・・・・・・

逃げ出そうとしているのか、腕の中でテジトッキが動く。


「おい、じっとしてろよ」


と言いつつ、ミニョが身動きするたび、二の腕にぷにぷにと柔らかいものがあたって、それはそれで悪くないんだが。


「でも、あの、気になることがあって・・・」


「何だ?それは」


「だから・・・あの・・・・・やっぱり、やめちゃダメです。やめないでください」


「そのことか」


「だってもったいないです。テギョンさんには素晴らしい才能があるんだし、それにやめちゃったら・・・テギョンさんの幸せはどうなるんですか」


「幸せ?」


一体何のことだ?


「前にお店で話してくれたじゃないですか。世界中の人がテギョンさんの曲を歌うようになったら、その時にテギョンさんは幸せを感じるって」


はて?俺はそんなことを言ったか?


「だからやめちゃダメです。私はテギョンさんに幸せになって欲しい・・・」


前に回した俺の腕にミニョが手を重ねた。

いつそんな話をしたのか憶えていない。ということはきっと何気なくした話なんだろう。というか、そもそもそんなこと考えたこともないような気が・・・

でも・・・いや、だからこそ、ミニョが憶えていてくれたことが嬉しかった。


「やめる云々が解決すればじっとしてるのか?」


「え?・・・それは、まあ・・・」


「だったら心配ない。俺は音楽をやめるつもりはないから」


驚いた顔のミニョ。振り返ったその目と鼻の先には俺の顔があり、唇が触れそうになると、慌てて前に向き直った。


「だって、テギョンさん、引退するって・・・」


「A.N.JELLはやめる、事務所も辞める、ファン・テギョンは引退する」


「ほら、やっぱり」


「最後まで聞け、引退するのは”韓国の芸能界”で、”ファン・テギョン”が、だ。これからは別の国で別の名前で音楽を続ける」


俺の父親、世界的に有名な指揮者-ファン・ギョンセ。

デビューしたての頃は、どこへ行ってもファン・ギョンセの息子だと紹介された。彼の息子だから呼ばれたんだと見え見えの番組も多くあった。

ジェルミは単純にテレビに出れると喜んでいたが、俺はそれがたまらなく嫌だった。

気にしないようにした。

いちいち気にしてたらきりがない。

もやもやした気持ちに蓋をした。

やがて俺たちはトップに立った。



『大きな後ろ盾の上に平然と胡坐をかいて座ってる』

 

 

シヌが本気で言ったかどうか判らないが、あんなこと言われてムカつかないわけがない。鍵をかけたはずの箱をこじ開けられたんだから。


ファンの声を思い出す。


『ファンジェ(皇帝)テギョン!ファン・テギョン!』


一体いつからそんな風に呼ばれるようになったのか。
ふと考えてしまう、俺が”ファン・テギョン”でなかったら・・・


シヌのことはムカつくが、A.N.JELLは護りたい。そしてもちろんミニョのことも。

”移籍”ではどうしてもその理由が注目される。事務所かメンバーとの間に何かあったのかと勘ぐられるのは避けられない。

そう考えたら、真っ先に頭に浮かんだのが、韓国の芸能界から去ることだった。

その場の勢いでやめると口にしたが、それでよかった気がした。


「もともと俺はアイドルになりたかったわけじゃない、音楽がやりたかったんだ。あのままじゃ歌以外の仕事がもっと増えそうだしな。厚化粧の女にべたべた触られるのはごめんだ。A.N.JELLもアジア以外じゃまだまだ知名度は低い。俺のことを全然知らないような国に行って曲を作るのもいいな。顔を出さずに名前も変えて」


どれもこれも建前だな。本当はミニョをシヌから遠ざけたかっただけだ。



いつの間にかミニョがおとなしくなっていた。


「まさか・・・寝たのか?」


「違います、テギョンさんが何を考えてるか判ったから」


「それでおとなしくなったのか」


「テギョンさんが音楽をやめないって聞いて、少し安心しました」


言葉とともに、ミニョが身体を預けるようにもたれかかってきた。





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