星の輝き、月の光 -16ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

帰国するテギョンを出迎えるためミニョは空港へ来た。いつもなら騒ぎになるからと家で待っているのだが、昨日のミナムの言葉が気になってじっとしていられなかった。もちろんミナムも本気で言ったわけではないだろうし、ミニョもそれは判っている。疑っているわけでもない。だけど胸の奥がざわざわとして気がついたら空港にいた。

どこから情報を手に入れてくるのかテギョンを待ち構えるようにファンの団体がミニョの前を陣取っている。やがてテギョンが姿を現すと辺り一帯は黄色い声に包まれた。しかしそのファンの声はいつものように憧れのスターに対して最大限の愛情を示すものとは少し違い、動揺や戸惑いの色が混ざっている。そのことに気づいたミニョはファンの集団をかき分けると前に進み出た。

そして目の前の光景に息をのんだ。

そこには色の濃いサングラスをかけわずかに口元に笑みを浮かべるテギョンと、同じように大きなサングラスをかけた髪の長い女の姿があった。テギョンの手は女の腰を抱き、二人はぴったりと寄り添うように歩いていた。

彼女に向けられる微笑み、それは今まで自分に向けられていたものと同じに見えたミニョは、心臓をわしづかみにされたように胸の痛みと息苦しさを感じた。

 

「ミニョ、来てたのか」

 

ミニョに気づいたテギョンが目の前で止まりサングラスをはずす。そこには恋人のミニョを前にしながら親しげに他の女の腰を抱いている後ろめたさも、気まずさもまったく感じられない、普段通りのテギョンがいた。

一瞬、もしかしたらこれは何かの撮影なのかもしれないと思い辺りを見回してみるが、スクープを狙う記者のカメラしか見あたらない。冗談だと思っていたミナムの言葉が再びよみがえり、ミニョの声が震えた。

 

「あ、あの、オッパ、そのひと・・・」

 

「後でゆっくりって思ったがちょうどいい。こないだ電話で言っただろ、帰ったら話があるって。つまり、こういうことだ」

 

テギョンが腰を抱いていた女に顔を近づけ唇を合わせた。キャーッという複数の悲鳴がバックミュージックとなって流れる。

 

「話すよりこっちの方が判りやすいだろ、これ以上説明は必要ないよな。お前はただのメンバーの妹だから、もう俺には近づかないでくれ」

 

ショックで固まるミニョを残し、テギョンはざわめきとカメラのフラッシュとともに遠ざかっていく。

 

「オッパ、待っ・・・」

 

 

もう俺には近づかないでくれ

 

 

テギョンの言葉が頭の中に響き目の前で起こったことに縛りつけられ、ミニョはその場から一歩も動けなかった。

 

 

 

 

 

ぼんやりとした目に映っているのは見慣れた天井。ミニョはゆっくりと身体を起こすと辺りをぐるりと見回した。

 

「・・・夢・・・?」

 

今いる場所が自分の部屋のベッドだと判り、ミニョは大きく安堵のため息をついた。

カーテンを開けるとすっかり昇りきった太陽が眩しい。

テーブルに置いてあった携帯には寝ている間にテギョンからメールが来ていた。

 

 

『今から飛行機に乗る。着いたら連絡する』

 

 

短いメッセージはいつもと同じなのに、やけに素っ気なく感じた。

 

「いやな夢だったな」

 

暑い季節でもないのにべったりと寝汗をかいている。身体を伝う汗は運動をした後のものとはまるで違い不快感しかない。ミニョは汗とともに悪夢も洗い流そうとシャワーを浴びた。

どうしてあんな夢を見たのか。それはもちろんミナムの言葉が原因だった。浮気してると言われ、そんなことはないと思っていてもいやな方へいやな方へと考えが流れてしまう。しかしそこには、どうしてテギョンは自分なんかを好きでいてくれるんだろうという後ろ向きな疑問がいつも心の奥底にあったから。

芸能界という華やかな世界をほんの数か月だけでも経験したミニョには、自分よりもテギョンにふさわしい素敵できれいな女性は山ほどいると実感していた。(性格の悪い女がいることも痛感しているが)

テギョンと一緒にいる時には楽しくて忘れている自信のなさが、一人でいるとふとした拍子に広がっていく。

 

「ああ、こんなんじゃダメよ」

 

ミニョはマイナス思考を追い払うように頭を振り、両手でほっぺたを軽く叩くとバスルームから出た。すると待ち構えていたかのように携帯が鳴った。もしかしたらテギョンからかもしれない、そう思い濡れた身体にバスタオルを巻きつけ慌てて電話に出たが、相手はテギョンではなくミナムだった。

 

「もう、お兄ちゃんが昨日変なこと言ったせいで、いやな夢見ちゃったじゃない」

 

とりあえず文句を言っておく。人に話すと正夢にならないと聞いたことがあるから。

電話に出るなりいきなり文句を言ってくるミニョに、何のことだよといつものミナムなら返すのだが今日はちょっと様子が違っていた。

 

「さっきから何度もかけてるのにどうして出ないんだよ!」

 

やけに慌てたような、いらついた声が響く。異変に気づいたミニョは、シャワー浴びてたのよという言葉をのみこんだ。

 

「何かあったの?」

 

答えはすぐには返ってこなかった。そしてその沈黙がミニョを緊張させた。

汗とともに排水溝に流したはずのいやな夢が脳裏によみがえった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「テギョンヒョンが・・・テギョンヒョンの乗った飛行機が・・・墜ちた・・・」

 

一瞬ミナムが何を言っているのか判らなかった。言葉は耳に入っていたが、まるで知らない国の言葉を聞いているかのように、脳の中には入ってこない。

 

 

テギョンヒョンノ ノッタ ヒコウキガ オチタ・・・

 

 

しばらくしてその意味を理解すると、ミニョの声は震えた。

 

「え?・・・やだ、お兄ちゃん・・・・・・変な冗談、言わないで」

 

「冗談なんかじゃない、冗談でもこんなこと言えるか」

 

苦しげに絞り出された声が、ミニョの思考を停止させた。

 

 

 

                

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暖かい光が降りそそぐ。

春の訪れはまだまだ先だが、今日は”昨日までの厳しい寒さはちょっとだけ休憩”とでもいうように穏やかな空気が身体を包んでいた。

くっと喉を伸ばすように見上げると、青い空には白い絵の具のついた筆でスッと線を引いたような長い長い飛行機雲。

 

「オッパが帰ってくる時もあんな風に見えるのかな」

 

仕事のため海外へ行ったA.N.JELLは明日の今頃には韓国に帰ってくるはず。明日になればテギョンに会えると思うと、ミニョはこみ上げてくる嬉しさを隠すことなく顔いっぱいに表しながら歩いていた。

 

「やっぱりミニョだ!ミニョ~ただいま-」

 

街を歩いていたミニョの横に大きなワゴン車が停まり、静かに開いたドアから飛び出してきたのは満面の笑みを浮かべたジェルミだった。

 

「え?え?ジェルミ?」

 

ちょうどA.N.JELL (といってもほとんどテギョン一人だが) のことを考えていたミニョの前に突然ジェルミが現れ、ミニョは目を丸くした。

 

「ほらーやっぱりミニョだったろ、俺のミニョセンサーは感度いいんだから。それに俺の目は望遠暗視機能付き!ミニョ限定だけど」

 

「まさか透視機能までついてないだろうな」

 

車から降りてきたミナムは驚くミニョの手を両手でしっかりと握り、得意げに笑うジェルミの手をミニョから引きはがした。

 

「ミニョただいま。元気だったか」

 

「うん、お兄ちゃんおかえり」

 

ギュッとハグをするミナムの背中から、ずるいぞーとジェルミが声を投げる。俺はお兄ちゃんなんだからいいんだよと舌を出して見せるミナムとむくれるジェルミ。

 

「おいおい、注目を集めてるぞ」

 

窓から顔を出したシヌが周りを見てみろと促した。

ここは街の大通り。A.N.JELLが突如現れたことに気づいた人たちがざわざわと騒ぎだす。ファンの黄色い声があがり、それを聞いて人が集まってきた。

 

「判ったよ。ほらミニョ、行くぞ」

 

「え?ちょっと、お兄ちゃん」

 

有無を言わせずミナムはミニョを車へと押し込んだ。

 

 

 

 

 

「帰ってくるの明日だと思ってた。オッパは?」

 

テギョンから明日帰ってくると聞いていたミニョ。思いがけず一日早く会えると思うと嬉しさも跳ね上がる。しかしハンドルを握っているのはマ室長で、他にはミナム、シヌ、ジェルミしかおらずテギョンの姿は見あたらない。ミニョを驚かそうとどこかに隠れているとも思えず、だいたいそんなスペースもなく、ミニョは車内を見回しながらミナムに疑問をぶつけた。

 

「明日帰るってさ」

 

「ほんとはみんなで明日帰るはずだったんだけど、一日早くなったんだ。でもテギョンヒョン用事があるからって一人で残ったの」

 

ミニョのすぐ後ろに座っていたジェルミが身を乗り出し、頭の上から顔を出した。

 

「そう、なんだ・・・」

 

もともと明日帰ってくるはずだったんだから予定通りといえば予定通りなのに、一瞬でも今日会えると思い、ぐぐぐっと上昇した期待は行き場を失い地面に落ちた。

 

「でも珍しいよな、いつもは仕事が終わったらさっさと帰りたがるのに」

 

「そうそう、どっちかっていうと、無理矢理早く帰る方だよね」

 

「そう言えばテギョンヒョンの様子、何か変じゃなかったか?落ち着きがないっていうか」

 

「ああそれ、俺も思ってた。でもそれたぶん、あの日からなんだよね」

 

「あの日?」

 

「うん、雨でロケが中止になった日。夕方出かけるの見かけたんだ。珍しいなーと思ったから憶えてる」

 

「ああ、あの日!俺も見た。濡れてたから帰ってきたとこだったと思う。雨が降ったのってあの日だけだったし、俺も憶えてる。横顔チラッと見えたけど、濡れてるのにやけに機嫌よさそうだったんだよな。次の日俺寝坊したけど怒られなかったから変だなとは思ってたんだ」

 

「それってもしかして、アレ、かな」

 

「ああたぶん、アレ、だろうな」

 

二人が顔を見合わせため息をつく。そしてミナムがミニョへと真面目な顔を向けた。

 

「テギョンヒョン・・・浮気してるぞ」

 

「「ええーっ!?」」

 

あまりにも意外で唐突な言葉にジェルミとミニョが大声をあげた。

 

「「何で?何でそうなるの?」」

 

「だってどう考えたって変だぞ。ちょっと汚れただけでもムッとするあのテギョンヒョンが、雨の中わざわざ出かけたんだぞ。濡れてるのに機嫌いいし・・・ってジェルミもそう思ったんじゃないのか?」

 

「俺てっきりおいしいケーキの店見つけたんだと・・・甘いものは苦手だって言ってるけど、ほんとは隠れて食べてると思うんだよね」

 

「んなワケあるか、ジェルミじゃあるまいし。だいたい早く帰れるのに一人だけ帰らないなんて、こっそり女と会ってるとしか思えないだろ」

 

俺の推理に間違いはない!とミナムが胸を張る。

 

「おいおい、あんまりミニョをいじめるな」

 

ミナムの言葉がショックだったのかしゅんと沈むミニョの姿に、シヌがそんなことないから大丈夫だと声をかけた。

 


      

                  

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昼過ぎに降りだした雨は次第に激しさを増していった。

もともと屋外での撮影がほとんどで天候に左右されることも計算されていたスケジュールは余裕を持たせてあり、その日の撮影はあっさりと中止になった。

 

「あれ?テギョンヒョン、出かけるの?」

 

「ああ、ちょっとな」

 

夕方、ホテルの部屋から出たテギョンは廊下でジェルミに声をかけられた。

 

「まだ結構降ってるのに・・・珍しいね」

 

降り出して数時間は経っている。当然路面にはところどころ水たまりができていて、こんな日に普段から汚れることを嫌がるテギョンがわざわざ出かけることにジェルミは少し驚いていた。

それはテギョン自身も意外に思っていることだった。いつもならこんな日は部屋でのんびりと過ごすはずなのに、なぜか今日は出かけたい衝動に駆られていたから。

 

「まあな」

 

どこに行くのかと聞かれるのもめんどくさいと思ったテギョンは短く返事をすると、さっさとエレベーターに乗った。

 

 

 

 

 

それは撮影が中止になりホテルへ帰るロケバスの中でのことだった。信号で停車した時、ふと窓の外に顔を向けたテギョンは一軒の店に目がとまった。古そうなたくさんの店が立ち並ぶうちの一軒。両隣に比べこれといって特に華やかさのない外装は、落ち着いているというよりも地味に見えた。ショーウィンドウはなく店のつくりや店名からでは何の店なのか判らない。大きな窓はあるためそこから中が見えるかと思ったが、雨のせいもあってよく見えず、バスも動き出したため結局何の店なのか判らないままホテルに着いてしまった。

その店が妙に気になって仕方なかった。仕事で訪れた国で偶然見かけただけの店なのに・・・

今日はこの後これといって予定はない。あるはずだった打ち合わせも急きょなくなった。

しばらく考えた末、テギョンはその店に行くことにした。

 

 

 

 

 

タクシーで数十分。車から降りたテギョンはバスの座席から見下ろした店を今目の前にし、その建物を軽く見上げた。通りかかった時と同様にこれといって目立つわけではなく、何がそんなに気になったのか判らない。ただ妙に惹かれるものを感じ、肩の滴を払うとドアを開けた。

店内に並んでいたのは腰の高さくらいのガラスでできたショーケース。入り口に立ち中を見回した後、それらの間をゆっくりと歩き出した。

しばらく歩くとなぜこの店が気になったのか判った気がした。

それはきっと運命だったから。

雨で渋滞していたせいか偶然運転手は昨日までとは違うルートでホテルへ向かった。

信号が赤になり偶然この店の前で停車した。

そして偶然打ち合わせがなくなり出かける時間ができた。

それらは偶然ではなく必然だとしたら・・・

つまり自分がこの店に来たのは必然で、まさに運命に導かれたに違いない。そう思った最大の理由、それは・・・

 

一目惚れだった。

 

見た瞬間に心を奪われた。気持ちが高揚しているのが自分でもよく判る。

こんなことは初めての経験で、戸惑う時間も考える余裕もそこにはなく、だからこそこの出会いは運命なんだと確信した。

一点を見つめたまま動かないテギョンに従業員が声をかけたがテギョンの反応はない。

目の前のもの以外は目に入らず、周りの音も聞こえないほど見惚れている。あまりにも集中していたからか、呼吸をすることすら忘れ、息苦しくなるほど。

 

「きれいだ・・・」

 

感嘆のため息とともに漏れた言葉。

美しく優雅で気品があり、だけどそれを誇示することなく控えめに佇んでいる。テギョンにはそう見え、その姿にどうしようもなく心惹かれた。

 

「・・・さま・・・お客様」

 

声をかけられていることに気づいたテギョンはハッと顔を上げた。目の前にいたのは怪訝な顔をしている従業員。

 

「すいません、あまりにもきれいで・・・」

 

店に入ってきた客がとあるショーケースの前で立ち止まり、じっと商品を見つめ身じろぎもせず、声をかけても無反応だと従業員としては警戒心を抱いても不思議ではないだろう。しかし注意しながら再び声をかけた客の、驚きつつ少し恥ずかしそうな表情に、従業員はホッと気を緩めた。

 

「ご覧になりますか?」

 

ショーケースの中にはネックレスや指輪などのジュエリーがずらりと並べられていて、テギョンが心奪われ一目惚れしたのは、その中の一つの指輪だった。実際に手に取って間近でそれを見てみると、ガラス越しに眺めていただけでは判らない繊細な輝きにあらためて感嘆のため息をついた。

ミニョに似合うだろうな・・・

どうだ!とばかりに大きな石がでん、と乗っかっているより、多少小ぶりだが複雑にカットされた石は派手さはないが静かな美しさをまとい、ミニョの指にぴったりだと思った。

喜んでくれるだろうか?

以前プレゼントしたヘアピンは今でも大切に宝箱にしまわれている。それを考えるとどんなプレゼントでも喜ぶと思う。しかもこの指輪は特別な意味を持つもの。

初めは驚きの表情を見せたミニョの顔がその後幸せそうな笑顔に変わるのを想像すると、テギョンの顔も自然と綻ぶ。

テギョンは迷うことなくそれを買うことにした。

受け取りは二週間後でちょうど帰国予定日の前日。

ホテルへ戻ったテギョンは「帰ったら大事な話がある」とだけミニョに伝え、電話を切った。

 

           

 

                                   

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