お久しぶりです。
なんかこのフレーズ続くなー
でも実際そうなんだから仕方ないわ (^_^;)
お話、書き上がったんでアップしました。
楽しんでいただけると嬉しいんですが・・・
ていうか、需要はあるのかな~?
。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆
「なあ、今度の日曜、俺んち来ない?」
それは特に親しいわけではなく、かといってしゃべったことがないわけでもない、いわゆる単なるクラスメートからの突然の誘いだった。
「何、急に」
「いやあ、その日俺の誕生日でさ、母さんがパーティーやるから友だちたくさん呼べって。俺はそういうのめんどくさいし、中学生にもなって誕生日パーティーなんて恥ずかしいからいいって言ったんだけど。あ、もちろん無理にとは言わないけど」
めんどくさい、恥ずかしいというわりには、そいつの顔は嬉しそうに笑っていた。
「悪い、その日は用事があって・・・」
「やっぱそうだよな、忙しいよな、もうすぐコンクールだっけ?前も優勝したんだろ?レッスンとか大変だって俺も言ったんだけど、母さんが呼べ呼べってうるさくて」
最初とは打って変わって跳ね上がったように声のトーンが高くなる。
なるほど、ただのクラスメートの俺を招待したいのはこいつじゃなくて母親か。きっと俺にピアノを弾かせて 「息子のために弾いてくれたのよ~」 ってママ友とやらに自慢でもするつもりだろう。
俺はもう一度 「悪いな」 と断ると、なるべくうんざりした顔を見せないようにして教室を後にした。
「誕生日パーティーか・・・」
初めて誘われたのは俺がまだ幼稚園に通っていた頃だった。
その頃俺が知っていたパーティーというのは父親に連れられて行く、周りが大人ばかりのつまらないものだったから、出席者が子どもだけと聞いてワクワクしていた。しかしそれは期待に反し少しも楽しくないものだった。
確かに来ていたのは同い年の子どもばかりだったが、俺を誘ったその日の主役はべったりと母親に甘えていた。
俺には母親はいない。
死んだわけではない。
俺を産んだ生物学的な母は今でも存在しているがどこにいるかも知らないし、俺を疎ましがり避ける女は母親とはいえないだろう。だから俺には母親はいないし、そんなものはいらないと思ってる。中学生になった今はそんなドライな感じだが、小さかった俺の心は無防備で、目の前の光景が羨ましくて仕方なかった。
みんなでケーキを食べてゲームをして。夕方になって帰る時間になると、それぞれの母親が迎えに来て。もしかしたら俺も母さんが迎えに来てくれるかもという淡い期待は、運転手が現れた瞬間に粉々に砕け散った。
だから誕生日パーティーと聞いて思い出すのは、帰りの車の中、羨ましくて寂しくて悔しくて悲しくてわーわー泣いた幼かった自分。
数年ぶりに声をかけられた俺は心の奥深くに閉じ込めた嫌な過去を思い出し、それに引きずられるようにずるずると出てきた鬱屈した感情で胸の奥が痛くなった。
でも・・・本当は胸が痛いのは過去を思い出したからじゃなく、それによって、今だって何も変わってないんだとあらためて孤独を突きつけられたから。
俺には誕生日が二つある。一つは俺が生まれた日でもう一つは全然関係ない別の日。
有名女優である母親にとって俺の存在は世間には絶対に秘密で、誕生日もわざと別の日にしてあった。
運転手や家政婦はニセモノの誕生日を祝ってくれるが、関係ない日のうわべだけの形式的なそれに意味があるのか?
父さんはいつも仕事で世界中を飛び回ってるから、本当の誕生日にはプレゼントとメッセージカードが送られてくるだけで、その日を一緒に過ごしたことはなかった。
俺はプレゼントよりも一緒に食事をしたかった。ただ抱きしめて欲しかったのに・・・
今胸が痛むのは、今年もそうだとわかりきってるから。
今日誘われた今度の日曜日は俺の本当の誕生日でもあった。
一人で過ごす誕生日。
誰にも知られず、誰からも 「おめでとう」 と声をかけられることもなく、何でもない日のようにひっそりと過ぎ去っていくその日。
それはまるで、産んだ母親に疎まれ本当の誕生日すら明かせない俺は、「この世界の誰からも愛されていないんだよ」 と言われているようで。
いつの間にか俺の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
気づきたくなかった。孤独を鎧ではねのけ、平気な顔をしていた俺は、実は鎧の中は寂しさでいっぱいだったんだと。
中学生になっても俺の心の奥にはあの日大声で泣いた幼い自分が小さな姿のまま、ずっと息苦しいほどの暗闇に押し込められ潜んでいたことに気づき、静まり返った部屋の中布団を頭からかぶり、ずいぶん長い間声を殺して泣いた。
「嫌な夢を見たな・・・」
目が覚めた時、部屋の中は俺の頭の中を映し出しているようにどんよりと暗かった。
今でも時々見る昔の出来事。アイドルになりトップスターと呼ばれるようになっても未だに心の中にある苦い傷跡。
いつもまばゆい光を浴びているのにそれはうわべだけで、心は出口のない暗闇をさまよっているような気分。
俺は消化不良のような重いため息をついた。
パタパタというスリッパの音が止まる。ゆっくりとドアが開くのを確認すると、俺は目を閉じた。
そっと近づいてくる人の気配。
「・・・オッパ?」
俺の様子を窺うような小さな声が目の前で聞こえた時、俺はそれに手を伸ばした。
「きゃっ」
寝ている俺をのぞきこむようにしていたミニョの身体はあっさりと俺の上に落ちてくる。
「びっくりした、起きてたんですね」
「ああ、今起きたところだ」
じたばたと暴れるミニョに軽く口づけた。
「オッパ、お誕生日おめでとうございます」
シャーッという音とともに部屋が一気に明るくなり、俺は眩しさに目を細めた。
そうか、今日は俺の本当の誕生日だ。
カーテンを開けくるりと振り向いたミニョが光を背ににっこりと笑った。
「今日はすごくいいお天気ですよ。昨夜の雨がウソみたいにカラッと晴れて、風が爽やかに吹いて。葉っぱの上の滴は宝石みたいにキラキラ輝いてきれいだし、鳥の鳴き声も歌ってるみたいに素敵で、みんなでオッパのお誕生日をお祝いしてるみたいです」
くったくのない笑顔。ミニョにそう言われると本当にそんな気がしてくるから不思議だ。憂鬱だった気分が一瞬で吹き飛ぶ。
俺が指先だけをくいくいと曲げて呼べば、ミニョはスリッパの音を響かせベッドの傍らに立った。
「晩ご飯楽しみにしててくださいね。なーんて、自分でハードル上げて期待外れなんて言われちゃったらどうしよう・・・でもがんばってごちそう作りますから!」
胸の前でぐっと両拳を握るミニョ。
「朝もまだ食べてないのにもう夜の話か?」
「そうでした、朝ご飯食べましょ」
くるりと背を向けたミニョの腕を引っ張れば、バランスを崩した身体は再び俺の上に落ちてきた。
どうしてミニョは俺の望むものが判るんだろう。
宝物を抱えるように俺はミニョを抱きしめた。
「オッパ、朝ご飯冷めちゃいますよ」
「冷めてもミニョの料理はうまいからいいよ」
「お仕事遅れますよ」
「時間なら大丈夫だ、慌てる必要はない」
「そう、ですか。えっと・・・・・・じゃあ」
う~ん・・・と少し考え、はにかむように笑ったミニョの唇が俺の頬に触れた。控え目に何度も押しあてられたそれはマシュマロのように柔らかで、そして少しくすぐったい。
これはおめでとうのキスか?
こんなに穏やかで満ち足りた気分の誕生日は生まれて初めてだ。そう思うと、水面に落ちた滴が波紋を作るように、俺の胸に熱いものが広がっていった。
「オッパ・・・どうかしましたか?」
ミニョが心配そうな顔で俺を見下ろした。
「ん?」
「涙が・・・」
・・・涙?
何のことだと思った瞬間、目尻からこめかみに向かって、つうっと流れ落ちるものを感じた。まばたきをするともうひとしずく。
俺は泣いているのか?
そう自覚すると胸の奥がぎゅうっと締めつけられるように痛んだ。
思わず眉間にしわが寄る。
「どこか痛みますか?」
驚いたように俺から離れようとするミニョを、少しの間も手放したくなくて抱きしめた。
子どもの頃寂しさで押しつぶされるように痛んだ胸。でも今のこの痛みは感じが違う。
それは痛いのになぜか心地のいい、俺にとっては未知の感覚。
「何でもない、ただちょっと・・・・・・くすぐったかっただけだ」
多少無理がありそうな答えだが、俺の言葉を聞いたミニョの目がほっと緩むと悪戯色に変わった。クスリという小さな笑いとともに再び頬に降ってくるマシュマロの唇。
以前ミニョは自分のことを太陽の力を借りて輝く月のような存在だと言った。だが俺にとってミニョはそれだけじゃなく太陽の面も併せ持つ存在。
それは暗く沈んだ俺の心を明るく照らす元気な太陽。そして時には心地よい静寂と安らぎを与えてくれる穏やかな月。
頬よりも唇がいいと催促すれば、恥ずかしげに揺れた長いまつげが静かに伏せられる。
きっともうあんな夢は見ないだろう。
今までは嫌な思い出しかなかった誕生日がこれからはずっとこんな風に過ごせるかと思うと、俺は幸せな気持ちで甘いマシュマロをたっぷりと味わった。
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