星の輝き、月の光 -18ページ目

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

「オッパ!」


修道院にいるはずのミニョが急に現れたことに驚いたテギョンは、大きく目を見開いた。


「ミニョ、どうしてここに」


動揺するテギョンを見てミニョは大きく息を吸うと、ずんずんと大股でベッドに近づいた。


「私はその人みたいに美人じゃないし、スタイルもよくありません。ドジでオッパに迷惑ばっかりかけてます。でもオッパが好きです。この気持ちなら誰にも負けない自信があります!私もっと努力します。事故多発地帯って言われないように気をつけるし、ダイエットもします。だから・・・だから!」


テギョンが手にしている携帯を涙目で見つめ、ぐっと奥歯を噛みしめる。他の女性の存在にかなりのショックを受けたが、このままおとなしく、何も言わず引き下がるなんてできない。

テギョンをとられたくない、捨てられたくない、その一心でミニョは自分の気持ちをテギョンにぶつけた。

こらえていた涙が頬を伝う。一度流れることを許してしまった涙は堰を切ったようにあふれ、頬に幾すじもの跡をつくった。

相手の女性がこの部屋にいるわけではないが、電話で「愛してる」と話してた以上、浮気現場を見つかったようなもの。しかしうろたえるでもなく、開き直るでもなく、テギョンはコキッと首を傾けた。


「その人みたいって・・・一体何のことだ?」


「とぼけないでください、私、聞いてたんです、オッパが「愛してる」って・・・その電話、こないだ週刊誌に載ってた人でしょ?」


ぐずっと鼻をすするミニョと携帯を交互に見ていたテギョンは、ぱしぱしと何度かまばたきし、フッと鼻で小さく笑うと、手にあるそれをスッとミニョの目の前に差し出した。


「テギョンヒョン、話が違うじゃないか、ミニョの声が聞こえてくるんだけど、どういうこと?」


「へ?・・・お兄ちゃん?」


”熱愛!”と週刊誌に載っていた女性と話していると思っていたのに、電話から聞こえてきたのはなぜかミナムの声。


「え?え?何で?どうしてお兄ちゃんが・・・・・・はっ!まさか、愛してるって、お兄ちゃんのこと!?」



露わになった真実に更なるショックを受けたミニョの顔が青ざめる。


「そんなわけないだろ!」


驚きで開きっぱなしになっている口に手を当て、じりじりと後退るミニョを見て、テギョンは大きなため息をついた。






「どうして急に修道院に泊まれなんて言ったんですか?」


事の発端は昨日テギョンが帰ってきた時に言った言葉。二股疑惑は晴れたがやっぱりミニョには理由が判らない。テギョンは渋るように口元を歪ませていたが、詰め寄ってくるミニョに身体をのけ反らせながら、仕方ないと口を開いた。


「昨日・・・具合が悪くて病院に行ったら、インフルエンザだと言われた」


「え!どうして黙ってたんですか、早く横になってください。熱は?高いですか?薬は飲みました?私、つきっきりで看病します!」

 

「そういうと思ったからしばらく修道院に泊まってくれと言ったんだ」


「え?」


「薬は飲んだ、熱はまだ少し高いが明日には下がるだろう。少し頭痛はするが大したことない。それよりも俺が心配なのはミニョにうつらないかということだ」


ミニョの反応はテギョンの予想通りだった。インフルエンザにかかったと言えば、看病すると言ってきかないだろう。ミニョにうつしたくないテギョンは何も告げず、とにかく一刻も早くミニョを遠ざけたかった。

大げさだと言われるかもしれないが、ミニョを修道院に泊めることが、その時のテギョンは最善の方法だと思った。

ミニョにうつすなよと電話をかけてきたミナム。言われるまでもない、そのためにミニョを遠ざけた。愛してるという言葉もミニョに向けられたもの。ミニョがこっそり聞いたのはその時の会話だった。


「で?俺はミニョの身体を心配したのに、ミニョは俺の浮気を疑ってたのか?」


「え!?あ、あの、その、別に、そういうわけでは・・・」


一瞬にして攻守が交替し、しゅんと俯くミニョ。しかしその顔はすぐに勢いよく上げられた。


「と、とにかく、オッパは身体を休めてください」


「ああ、判った。判ったからミニョは早くここから出て・・・」


「私、出て行きません。オッパが私のことを気遣ってくださるのは嬉しいですけど、私はここにいます」


「おい、いくら薬を飲んだからって、まだうつるかもしれないんだぞ、インフルを甘くみるな」


「甘くみてるわけじゃありません。夜はリビングで寝るようにしてなるべくオッパに近づかないようにします。ずっとマスクもつけて・・・ですから他所に泊まれなんて言わないでください」


ミニョの縋るような目にテギョンの心がぐらつく。

昨夜はかなり熱が上がった。高熱のせいで身体が痛く、水を飲みに起き上がるのも辛いほど。うつさないようにとミニョを追い出したが、傍にいて欲しいという気持ちもあった。


「・・・俺はなるべく部屋から出ないようにするからな。食事もこっちへ運んでくれ」


「はい!」


ミニョの顔に笑みが浮かんだ。


翌日の朝にはテギョンの熱はすっかり下がった。咳は出るが、咳き込むほどではない。だがまだ安心はできない。ミニョとの接触を極力避け、夜は別々の部屋で寝て・・・という生活を数日間続けた。そして診断から一週間。


「もう、大丈夫、だよな?」


誰かに確認するかのように声に出して言ってみる。

何のことか?

それはミニョとのスキンシップ。

今までキスはもちろん抱きしめることもずっと我慢してきた。こんなに長い間ミニョに触れることさえしなかったのは、一緒に暮らすようになってから初めてのこと。

まずは思いっきり抱きしめて、長い長いキスをして。一緒に風呂に入るのもいいな・・・と、頭の中で今夜のことを考えながら顔をニヤつかせていると、ミニョが外出先から帰ってきた。


「ミニョ・・・」


一週間ぶりに抱きしめようと近づいたテギョンを、ミニョが手を伸ばして拒んだ。


「オッパ、しばらくの間、合宿所に泊まってもらえませんか?」


どこかで聞いたような台詞にテギョンの口元がひくつく。


「ミニョ、まさか・・・」


ふと頭をよぎったのは、数日前、出来上がった楽譜を取りに来たマ室長が、やたらと咳をしてたこと。応対に出たのはミニョで、リビングにいたテギョンにもその咳は聞こえてきた。そして心配するミニョに、「いやあ、俺、忙しいから熱があっても病院に行く暇もないんですよ。みんな俺を頼っちゃって、まいったなー」とありえないことを自慢げに話していたことも。


「あの男・・・よくもミニョに・・・」


テギョンの努力を台無しにされたこともさることながら、マ室長の・・・というのが問題で、大切にしていた花畑に毒をばら撒かれたような気分になり、メラメラと怒りがわいてくる。


「ミニョ、大丈夫か?」


「オッパ、近づかないでください。一度かかってもまたかかるかもしれないって、お医者様が」


テギョンが伸ばした手をするりとかわし、ミニョが距離をとる。


「ごめんなさい、今日からしばらく合宿所に泊まるかリビングにお布団敷いて寝てください」


ペコリと頭を下げ、そそくさと寝室へと消えていくミニョ。


「え?ちょっと待て、俺なら大丈夫だぞ」


テギョンの声は虚しく宙に浮いたまま、ドアは無情にも閉められた。







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凍てつくような寒さが和らぐと、それまで身を縮こまらせて歩いていた人々の背筋はピンと伸び、足取りも軽やかになった。時折強く吹く風はまだまだ冷たいが、ショーウィンドーには春色があふれている。

ミニョは雲間から降り注ぐ暖かな陽射しににっこりと微笑んだ。


「何だか今日はいいことがありそう」


少しずつ移っていく季節を感じながらそう口にしたが・・・

数時間後、今の言葉とは全く逆のことが起こるとは、この時のミニョには微塵も想像できなかった。






「ミニョ、今日からしばらくの間、修道院に泊まってくれ」


仕事から帰ってきたテギョンは玄関のドアを開けると開口一番そう言った。


「どうしたんですか、急に」


そしてミニョの方を見ることも、問いに答えることもなく、クローゼットの扉を開けた。


「もしかして泊まりのロケで、私が夜一人になっちゃうからですか?」


スーツケースに服を何着か入れているテギョンを見てミニョはそう聞いたが、よく見ると服はテギョンのではなくミニョのもの。


「いいや、俺はここにいる」


「だったら急にどうして・・・」


「独りになりたいんだ」


「お仕事ですか?だったら私、絶対に邪魔しないように静かにしてます」


今までにも曲作りがうまくいかないと、部屋にこもったまま出てこないことがあった。今回もそれなのかと思ったが、どうも様子がおかしい。いらついているのか少し乱暴に服を詰め込み、バタンと大きな音を立て閉めた。


「ここにいて欲しくないと言ってるんだ!」


ピシャリと言われたミニョはその語尾の強さにビクリと身体を震わせた。

朝、出かける時のテギョンは普通だった。少し咳をしていたので心配すると、「大丈夫だ」と笑っていたのに。なぜか今はミニョの方を見ようともせず、不機嫌そうに眉間にしわを寄せている。


「下にタクシーを待たせてある。行き先は伝えてあるから」


「あ、あの、ちょっと」


テギョンはスーツケースをミニョに押しつけると、今すぐ出て行ってくれと背中を押した。

理由も判らず追い出されてしまったミニョは玄関のドアを叩いた。


「急にどうしたんですか、オッパ、開けてください」


ドンドンという音だけがマンションの廊下に響き渡る。しかしドアはテギョンの言葉と同様、冷たくミニョを拒んでいた。






「私、オッパを怒らせるようなこと、したのかな・・・」


タクシーの中でミニョは外の景色をぼんやりと眺めながら、ため息をついた。

同棲してもうすぐ半年。時々口喧嘩をすることはあったが、こんな風に家を追い出されたのは初めてだった。しかも今日は喧嘩ではなく、それこそ何の前触れもなくいきなりだったから、余計にわけが判らない。思い当たることが何もないミニョは、ただ頭を悩ませることしかできなかった。




「ゆっくりしていきなさい」


修道院へ着くと、ミニョの顔を見た院長様は両手を大きく広げ、優しく微笑んだ。


「私、自分が何をしたのか全然判らなくて・・・だからどうしたらいいのかも判らないんです」


ミニョは沈んだ顔で院長様の胸に頭を預けた。

きっと自分では気づいていないだけで、テギョンの気に障ることをしたに違いない。そうとしか思えないテギョンの態度。でもそれが何か判らなければ意味がない。


『ここにいて欲しくないと言ってるんだ』


冷たく言い放たれた言葉が鋭い刃物のように今でも胸に突き刺さっていて、心の痛みは増すばかり。

ミニョは溢れそうになる涙をこらえようと下唇を噛むと、布団を頭からすっぽりとかぶった。

眠れないまま夜が明けた。


「オッパ、しばらくの間ってどれくらいですか?」


マンションを出て実際にはまだ半日ほどしか経っていないのに、ずいぶん長い間会っていないような気がしてくる。


なぜ追い出されたのか・・・


判らないと思いつつも本当は、”もしかしたら・・・”と、心に引っかかることが一つだけあった。でもそれはミニョにとってはどうしても否定したいことだったし、考えたくもないこと。

ひと月ほど前、テギョンがモデルと交際しているという記事が週刊誌に載った。夜の街を腕を組んで歩いている写真とともに。撮影の後、相手のモデルがふざけて腕を絡めてきたのを偶然撮られただけだとテギョンは否定したが、ふとそのことを思い出した。ここにいて欲しくないのは彼女を呼ぶため・・・そんな風に考えてしまう。違う、そんなことはない、そう思いたくても、テギョンが自分とつき合ってくれていることが奇跡のように感じているミニョの心は、どうしても暗く沈んでしまう。

いつもは帰ると「ただいま」と言って真っ先に抱きしめてくれるのに、昨日は目を合わせるどころか顔も向けてくれなかった。


「私、嫌われちゃったのかな・・・」


考えれば考えるほど不安で、どんどん落ちこんでいき、このままでは底なし沼に沈んでしまいそうになる心を、ミニョはぐっと顔を上げることで何とか持ちこたえた。


帰ろう。このままここにいても、嫌なことばかり考えてしまう。


ミニョはタクシーに乗った。

家の前で、どうして帰ってきたんだと渋い顔をするテギョンを思い浮かべ躊躇したが、思い切って玄関のドアを開けた。幸いにもドアを開けた瞬間に冷たい言葉が降ってくることはなかったが、リビングにもキッチンにもバスルームにも、テギョンの姿はない。


「もしかしてまだ寝てるのかな」


もう昼はとっくに過ぎている。普段のテギョンならオフの日でもそんな時間まで寝てることはない。もっとも、ミニョとまったりしている時は、夕方まで寝室で過ごすこともあったが・・・

ミニョは音をたてないように注意しながら少しだけ寝室のドアを開けた。


「そんなに何度も確認するな、あいつはいない」


途端に耳に飛び込んできたのはテギョンの話し声。


「しばらくは帰るなと言ってあるから大丈夫だ」


誰かといるの?


嫌な予感に不安を募らせながら、ミニョはもう少しだけ隙間を開け、中の様子を窺った。

部屋の中にはテギョン一人だけ。ベッドに座り、誰かと電話で話しているようだが、ドアに背を向けているせいか、ミニョが覗いていることに気づいていないようだった。


「あいつは俺の言うことはちゃんと聞くからな。何なら今から確認しに来るか?・・・クックッ・・・それは焼きもちか?」


笑いを含んだテギョンの声。

最初は自分が何かテギョンの気に障ることをしたのかと思った。それならいい、理由さえ判ればテギョンに謝って許してもらえばいいんだから。でも次に頭に浮かんだのは別の女性の存在。それを裏付けるような今の会話。そして、ドアノブを握ったままこくんと息をのんだミニョの耳に、信じられない言葉が飛びこんできた。


「ああ、何度も言ってるだろ・・・愛してる・・・」


それは紛れもなく電話相手に向けられた言葉。

どこか少し相手をからかうようなさっきまでの声音とは打って変わって、真剣な声。

真っ白になったミニョの頭に一拍おいて浮かんだのは、週刊誌の写真だった。

髪の長いすらりとした細身の女性。テギョンにぴったりと寄り添い笑顔で腕を組んでいた。


オッパは否定してたのに、あれは本当だったの?


気がつくと身体が震えていた。それは悲しみからなのか怒りからなのか、ミニョにも判らなかった。ただ、真冬の雪原に突然放り出されたように身体が震えて止まらない。

本当は今すぐこの場から逃げたかった。このままここにいれば、またテギョンが自分ではない誰かに向ける愛の言葉を聞いてしまうかもしれない。そんなものは聞きたくない。

ここから黙って立ち去って修道院に戻れば、数日後には戻ってこれるだろう。何事もなかったかのように、テギョンは笑顔で抱きしめてくれるかもしれない。

でも・・・

ミニョは不安な気持ちを飲みこむと、ドアノブを掴んでいた手に力を込め勢いよくドアを開けた。





。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆




お久しぶりです。


みなさま、お元気ですか?






テギョンもミニョも、頭の中ではごそごそと動いてたんですが、なかなか文章にできなくて・・・


書きかけて、途中で書けなくなって、違うお話を書いて、また途中で書けなくなって・・・というのが最近のパターンでした。


とりあえず、ひとつ完成したのでアップします。




久しぶりなんで、緊張しますね~




楽しんでいただけると嬉しいです o(^-^)o






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