ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 2 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

暖かい光が降りそそぐ。

春の訪れはまだまだ先だが、今日は”昨日までの厳しい寒さはちょっとだけ休憩”とでもいうように穏やかな空気が身体を包んでいた。

くっと喉を伸ばすように見上げると、青い空には白い絵の具のついた筆でスッと線を引いたような長い長い飛行機雲。

 

「オッパが帰ってくる時もあんな風に見えるのかな」

 

仕事のため海外へ行ったA.N.JELLは明日の今頃には韓国に帰ってくるはず。明日になればテギョンに会えると思うと、ミニョはこみ上げてくる嬉しさを隠すことなく顔いっぱいに表しながら歩いていた。

 

「やっぱりミニョだ!ミニョ~ただいま-」

 

街を歩いていたミニョの横に大きなワゴン車が停まり、静かに開いたドアから飛び出してきたのは満面の笑みを浮かべたジェルミだった。

 

「え?え?ジェルミ?」

 

ちょうどA.N.JELL (といってもほとんどテギョン一人だが) のことを考えていたミニョの前に突然ジェルミが現れ、ミニョは目を丸くした。

 

「ほらーやっぱりミニョだったろ、俺のミニョセンサーは感度いいんだから。それに俺の目は望遠暗視機能付き!ミニョ限定だけど」

 

「まさか透視機能までついてないだろうな」

 

車から降りてきたミナムは驚くミニョの手を両手でしっかりと握り、得意げに笑うジェルミの手をミニョから引きはがした。

 

「ミニョただいま。元気だったか」

 

「うん、お兄ちゃんおかえり」

 

ギュッとハグをするミナムの背中から、ずるいぞーとジェルミが声を投げる。俺はお兄ちゃんなんだからいいんだよと舌を出して見せるミナムとむくれるジェルミ。

 

「おいおい、注目を集めてるぞ」

 

窓から顔を出したシヌが周りを見てみろと促した。

ここは街の大通り。A.N.JELLが突如現れたことに気づいた人たちがざわざわと騒ぎだす。ファンの黄色い声があがり、それを聞いて人が集まってきた。

 

「判ったよ。ほらミニョ、行くぞ」

 

「え?ちょっと、お兄ちゃん」

 

有無を言わせずミナムはミニョを車へと押し込んだ。

 

 

 

 

 

「帰ってくるの明日だと思ってた。オッパは?」

 

テギョンから明日帰ってくると聞いていたミニョ。思いがけず一日早く会えると思うと嬉しさも跳ね上がる。しかしハンドルを握っているのはマ室長で、他にはミナム、シヌ、ジェルミしかおらずテギョンの姿は見あたらない。ミニョを驚かそうとどこかに隠れているとも思えず、だいたいそんなスペースもなく、ミニョは車内を見回しながらミナムに疑問をぶつけた。

 

「明日帰るってさ」

 

「ほんとはみんなで明日帰るはずだったんだけど、一日早くなったんだ。でもテギョンヒョン用事があるからって一人で残ったの」

 

ミニョのすぐ後ろに座っていたジェルミが身を乗り出し、頭の上から顔を出した。

 

「そう、なんだ・・・」

 

もともと明日帰ってくるはずだったんだから予定通りといえば予定通りなのに、一瞬でも今日会えると思い、ぐぐぐっと上昇した期待は行き場を失い地面に落ちた。

 

「でも珍しいよな、いつもは仕事が終わったらさっさと帰りたがるのに」

 

「そうそう、どっちかっていうと、無理矢理早く帰る方だよね」

 

「そう言えばテギョンヒョンの様子、何か変じゃなかったか?落ち着きがないっていうか」

 

「ああそれ、俺も思ってた。でもそれたぶん、あの日からなんだよね」

 

「あの日?」

 

「うん、雨でロケが中止になった日。夕方出かけるの見かけたんだ。珍しいなーと思ったから憶えてる」

 

「ああ、あの日!俺も見た。濡れてたから帰ってきたとこだったと思う。雨が降ったのってあの日だけだったし、俺も憶えてる。横顔チラッと見えたけど、濡れてるのにやけに機嫌よさそうだったんだよな。次の日俺寝坊したけど怒られなかったから変だなとは思ってたんだ」

 

「それってもしかして、アレ、かな」

 

「ああたぶん、アレ、だろうな」

 

二人が顔を見合わせため息をつく。そしてミナムがミニョへと真面目な顔を向けた。

 

「テギョンヒョン・・・浮気してるぞ」

 

「「ええーっ!?」」

 

あまりにも意外で唐突な言葉にジェルミとミニョが大声をあげた。

 

「「何で?何でそうなるの?」」

 

「だってどう考えたって変だぞ。ちょっと汚れただけでもムッとするあのテギョンヒョンが、雨の中わざわざ出かけたんだぞ。濡れてるのに機嫌いいし・・・ってジェルミもそう思ったんじゃないのか?」

 

「俺てっきりおいしいケーキの店見つけたんだと・・・甘いものは苦手だって言ってるけど、ほんとは隠れて食べてると思うんだよね」

 

「んなワケあるか、ジェルミじゃあるまいし。だいたい早く帰れるのに一人だけ帰らないなんて、こっそり女と会ってるとしか思えないだろ」

 

俺の推理に間違いはない!とミナムが胸を張る。

 

「おいおい、あんまりミニョをいじめるな」

 

ミナムの言葉がショックだったのかしゅんと沈むミニョの姿に、シヌがそんなことないから大丈夫だと声をかけた。

 


      

                  

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