闇の守り人感想
守り人シリーズ第二作は、バルサが過去と向き合う物語。実は、守り人シリーズで私が最初に読んだのはこの作品なんです。その思い入れもあり、主人公バルサの過去に深く切り込む物語でもあるので、今でもシリーズで一番好きな一編です。カンバルの暮らしまず引き込まれるのが、カンバル王国の生活のリアリティです。第一作「精霊の守り人」では、皇族であるチャグムから見た新ヨゴの庶民の暮らしが描写されていましたが、今回はバルサが、「外から来た人」という読者に寄り添う目線でカンバルをおとないます。子供が十人に四人しか育たないという暮らし、そこで生きる人の価値観なんて、現代日本に生きている人間からすれば想像もつかない話です。でも、そこで感情豊かに生きるカッサたちの日々の暮らしや、彼らと対等に話し、懐に入り込んでいくバルサを見ていると、その世界が生き生きと迫ってくるんですよね。牧童たちやそれぞれの立場のカンバル人たち、たくさんの人が関わり合う社会と産業の形には、なんだか自分もここで生きていけそうな手触りを感じます。そして、そんなリアリティのある世界を支えているのが、山の王であり、ルイシャであり……ノユークの存在です。「水だけは豊か」だと語られたその水さえも、山の王の恵みであったことが示されるシーンは圧巻ですね!世界の姿が解き明かされる感動と、そして畏怖と。見えない何か、人知を越えた何かに支えられているという、恐さと安心感が同居するようなこの感じ、ひょっとしたら原始的なアニミズムの価値観なのかなぁと思ったりします。<ルイシャ贈りの儀式>前作「精霊の守り人」の中では、ジグロの人生はもう過去の話、終わってしまった物語として語られています。今作でのバルサ自身も、チャグムを守ったことでジグロとの人生を振り返り、過去を見つめ直そうという動機でカンバルへ向かうのですが……物語が進むにつれ、ジグロとバルサを翻弄した運命がまだ、「過去」として穏やかに切り離すことができない状態だとわかっていきます。運命の激流に飲み込まれないように必死に生きて、自分の決断と責任で、バルサを守り、友人を殺し続ける人生を選んだジグロ。それを目の当たりにし続けることになったバルサ。そこにあった苦しみも喜びも、殺されてしまった王の槍たちの人生も、彼ら自身が決めた彼らのものであったはずなのに、それがログサム王、そしてユグロの陰謀の一端に組み込まれてしまっている切なさったら!この〈ルイシャ贈りの儀式〉は、そんな彼らの人生を、それぞれ自身の手に取り戻すためのものだったのかもしれません。作中でも「ログサムがしでかした陰謀を清めなければならぬ」と語られていますが、この儀式の中にログサム王はおらず、徹頭徹尾、過去の存在として扱われます。感情をぶつけ合うのは、ログサム王によって人生を穢された、本来真っ当に生きてカンバルの守り手になるべきだった人々。彼らが自分自身の想いをもって役割を果たし、それぞれ自分の人生の主役として立ち直すことで、王の所有物などではない、一人ひとりの想いの集合体としてのカンバルが息を吹き返す……そんな物語だったのかなぁ、と思いました。ジグロとバルサジグロが、バルサを憎んでいる。その衝撃たるや、ですよね。チャグムを守ることを通じてバルサがジグロの気持ちを少し理解できるようになって、その人生を見つめなおすためにカンバルに戻り、ジグロから継いだすべて――短槍の腕であり、用心棒としての技術であり、「カッサといっしょでなかったら」に象徴される覚悟であり――をもってあの場に臨んで、再会した挙句にこれですよ!でもこれ、憎しみだけがぽんと存在しているわけではないんですよね。お互いへの愛も幸せも、決して上辺のものではなく間違いなくそこにあって、それでも奥底に否定しきれない苦しみだったからこそ、こうして時を経て、闇の底でぶつけ合わなければならなかったものであって。お互いにそれを伝えた、その先にしかたどり着けないだろう「怒りのむこう側」に、バルサは自分の心の居場所を見出せたんでしょうか。……ジグロは、バルサを自由にしてあげられたんでしょうか。タンダ「死んだら、魂になって、おまえのもとへ帰るよ」あーもう!そこまで自分を預けてしまえる関係の深さなのに、タンダのために生き延びようとか、そういう感じにはならないところがバルサですよね!次作「夢の守り人」では、そういうバルサの刹那的な人生観もクローズアップされますが……なんというか、うん、がんばれタンダ。バルサは相変わらず戦い続けるけど、怒りの向こう側に居場所を持てるかどうかは、タンダにかかっていると思うよ!カッサひたすら過去と戦っている印象のある大人たちの中で、自分たちの国の未来のために動き続けたのがカッサです。まさにこれから一人前になろうとする少年で、ジナが自分の感情、幼い正義感に正直なのに対して、氏族の男としてどう振る舞うべきかを考え、立場と責任を掴もうとしています。大人になるってこういうことなのかなぁ、と思わせる格好良さがあり、同時に、そんなカッサを男として認めながら、守るべきものとして抱えてしまえるバルサの懐の深さも際立ちますね。おわりに文庫版のあとがきには『精霊の守り人』は子どもに人気があり、『闇の守り人』は大人に支持されている、という記述があります。(でもそれぞれを子どものため、大人のために書いたという気持ちはない、とも)小説を読む、物語世界と向き合う、という行為は読む人一人ひとりのもの、それぞれに独自の世界で、「子ども」「大人」という枠で完全に括ってしまえるものではないでしょうが、自分自身のことを思い返してみて、小学生の頃に読んだ印象と大人になった今読んだ印象は、やっぱり少し違っているなぁ、と思います。子どもの頃は、世界そのものやストーリー展開にわくわくドキドキしていて、大人になってからは、キャラクターたちの人生や感情を拾いたくなっていて。そうやって楽しみ方が変わっても、その時々の興味を受け止めて最高の時間を返してくれる、その奥深さが、このシリーズの魅力なのかな、と思います。★他の感想記事はこちら★